40話 最終決戦 破
イザナミは巨大な矛を使ってくるだけでなく、幽鬼たちを従わせ、「無角」が接近してくるのを防いでいた。
矛は一振りするだけで周囲を吹き飛ばしてしまう威力、それを躱しつつ徐々に近づいていくも、幽鬼が立ちふさがる。幽鬼は矛の攻撃を一切気にする様子がなく、群がって襲ってくる。
イザナミの元へたどり着いて能力を発動したところで、すぐに幽鬼を対処しきれずに退くしかないという状況が続いていた。
「手詰まりだな」
イザナミや幽鬼の攻撃を捌くので手一杯、こちらが攻めに転じる隙がない。
「ご先祖さま!」
ユーマが先祖に駆け寄る。しかし、それを阻むようにイザナミが矛を振り下ろす。
「アアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!」
衝撃とともに地面は抉れ、それだけでは終わらず、そのまま矛はユーマを襲う。
目の前に矛が迫る。――しかし、ユーマの表情に怯えた様子はない。即座に左手で矛に触れ、音も立てずに矛を吸収した。
「小賢しいマネヲ――――――!」
ユーマはすかさず先祖の元へ滑り込む。
「能力で防げるとはいえ……眉一つ動かさないなんて、やるではないか」
「褒めてくれるのは嬉しいですけど、それどころじゃないですよ、ご先祖さま」
しかし、イザナミは矛を失ったものの、すぐさま虫を使役して新たに矛を作り出した。先ほどから矛を消すのは他の先祖がやっているが、いっこうに無くなる気配はない。
「俺が幽鬼をひきつけます。そのうちに、イザナミのところへ行ってください」
「ひきつけると言ってもだな…………何か、作戦でもあるのか?」
「ええ。だからこそ、ご先祖さまたちにはさっきと同じように動いていて欲しいんです」
「ほう……わかった、ユーマに任せよう。ただ長期戦に持ち込まれるのはまずい、失敗はできないぞ」
ユーマはうなずいた。襲ってくる幽鬼たちに左手の五芒星を向けると、周囲の空気を吸収し始める。やがて渦を巻くようにユーマの左手へ空気が動く。
「うぉおおおおおおおおおお!」
幽鬼たちが立っていられないほどの強風になり、幽鬼たちの身体の自由を奪い、団子状態になってユーマの左手に集まる。幽鬼は断末魔の叫びを上げながら吸収され、存在を消去されていく。
「隙だらけダ!」
イザナミがこの状況を黙って見ているはずがなかった。ユーマは幽鬼を大量に消去しているせいで、身動きがとれない。イザナミが矛を振りかぶる。
「では、私が守ろう」
別の先祖、「物質消去」の能力を持った先祖が空を舞うと、矛に触れ、吸収した。そして、ユーマと同様に、能力を発動して、幽鬼の群れを引き寄せる。
イザナミ自身はぴくりとも動かないが、イザナミの前方で守っていた幽鬼たちは吸収されまいと必死にもがき、先祖たちへ攻撃する暇などなかった。
「今のうちに『精神消去』を……!」
ユーマが叫ぶと、「精神消去」の能力を持った先祖二人は、ユーマが生み出した空気の流れに巻き込まれないように上昇し、イザナミ目掛けて突進する。「物質消去」の能力を持った先祖の一人も、二人に追随して援護に入った。
イザナミが矛を振るう。地上からの幽鬼の攻撃をユーマが防いでいるから、先祖たちは矛だけを警戒できていた。三人の先祖は空中を舞うように矛を躱し、前進していく。矛の空を切る乾いた音が、イザナミを苛つかせる。
「――――――ッ」
先祖たちはイザナミの身体の周りを飛び交う。イザナミはその動きを目で追うが、捉えきれていないように見える。
イザナミが動きを止めたその瞬間、一人の先祖がイザナミへ急接近する――
骸姿のイザナミの口元が、歪に曲がった。
「くだらン」
刹那。手元が見えないほどの高速で、イザナミは矛を動かし、先祖を斬った。先祖の身体が折りたたまれたように曲がり、衝撃で地面に叩きつけられる。
「なにっ――――」
「羽虫ごとキの動キヲ、見切レないトデモ思ったカ?」
空を飛んでいた二人の先祖が恐怖と驚愕で、固まる。
「だめだ! 動きを止めちゃ――」
先祖がはっと我に返ったときには、もう手遅れだった。イザナミが矛を振り、先祖二人を地面に叩き落とした。
「アハハハハハハハハハ! 幽体とはイエ、所詮はカ弱イ人間ヨ!」
「ご先祖さま!」
ユーマは「物質消去」を止めると、助け起こそうと倒れた先祖のもとへ走りだす。
その姿を見て、イザナミの目の奥が赤く光った。
「貴様も――私ニ逆らっタ罰ヲ受ケヨ」
イザナミの持っていた矛が砂のように崩れ、虫の群れの姿になる。すると群れは散り散りになってイザナミの前方に浮遊すると、再びその姿を変え、小さな矛に変身した。無数の矛が、ユーマたちを狙っていた。
「さあ、醜く踊ルガヨイ」
まるで雨のように、矛が降り注ぐ。ユーマや先祖たちだけではない、幽鬼をも巻き込んで身体を貫いていく。無数の叫び声。地獄を想起させる。
ユーマは左手を向け、矛を吸収する。しかし全てを防ぎきれず、矛が脇腹を貫いた。
「――ぐあっ!」
ユーマは歯を食いしばり、倒れないように何とか踏ん張った。矛が腕や足を掠め、突き刺さり、痛みが走る。
「アハハハハハハハハハハハハハ!」
矛の雨がやんで静まった戦場に、イザナミの調子はずれな高笑いが響く。ユーマは膝をつき脇腹を押さえて痛みをこらえる。イザナミをにらみつけた。
「理性が無くなッたト、思ッテいたノナラ残念。私はいタッテ冷静ダ」
「敵味方関係なく、攻撃、しておいて……よく言う」
「幽鬼は私ノ命令ニ従ウシか脳ノナイ人形だ。数も多イ、価値などナイ」
痛みで意識が遠のきそうだ。先祖たちは、どうなっている。声をあげない時点で、一緒に戦ってくれることは期待できそうにない。
「さて、ドウシテくれヨウカ。コノママ天上ノゴミ共を殺スには、戦力ガ足リナイ……」
イザナミはユーマに近づき、ごつごつとした骨の手を伸ばした。その手が、ユーマの頬を撫でる。大きな手はひどく冷たく、冷気を放っていた。
「アハハ、怯えていルノカ? ソウダナ……私好みに調教してヤルノモ悪クナイ。千年カケテ、ジックリトナァ」
ユーマは吐き気がした。態勢を維持するのがやっとなくらいだった。
「はあ、はあ、イザナミ、お前は……自分は理性を保てていると、言ったな……」
頭がぼんやりしていて思考が追いつかない。ふらふらする。
それでも。
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