28話 前へ

 話すべきだ、と決心した。


「ケンタ。少し長くなるが、聞いてくれないか。俺がどうして超常人になって、この町にいるか」


「どうして超常人になったか……?」


 ユーマは微笑みながら小さく頷いた。

 そして、ユーマは今までの全てを話した。「無角」という存在、シュンとエリに出会ったこと、「幻影の扉」を閉じるために夢幻町に来たこと。何から何まで洩らすことなく話した。


 もちろん、自分の命が残りわずかだと言うことも。


 ケンタは信じらないと、首を横に振る。


「何となくでも、分かってくれたか」


「う、嘘だ」

 振り絞るような声で言った。


「本当だ。なあケンタ、そこで一つ、頼みごとがあるんだ」

 こんな場面にそぐわないような、半端な笑顔を見せ、冗談めかしながら言った。


「あと一ヶ月と少し、俺と世界を救ってくれないか。やり方は違うけど、ケンタの元の目的と一緒だろ? 俺がその後死のうが、生きていようが、後の世界に俺とユイがこの世に生きた証を残して欲しいんだ」


 これがユイに言われた、死に折り合いをつける、ユーマの方法だった。


「生きた、証?」まだ混乱しているようだった。


「俺はケンタと違って、色んな物から逃げて来た。馬鹿らしい願いだけどさ、俺にとっては大事なんだ。自分の何かを残せるっていうのはさ。ケンタ言ってただろ、弟を助けるのが兄だって。なら、その逆もあって良いだろ?」


 これまで世界を救ったはずの「無角」の存在は一族しか知らず、普通の超常人さえ知らない状況だ。でもそんな悲しいことはない。


 だから、もし死んでしまったらその後に、世界を救った存在がいたんだと、世界に伝えて欲しかった。


「兄さん……本当に死んじまうのか」


 悲壮な顔を浮かべ、今にも泣き出しそうだった。


「いなくなっちゃうのかよ」

 また、一人にするのか、とケンタは嘆く。


「もちろん、死ぬ気はないよ。絶対に生きる道を探してみせる。ただ、死ぬと言われたからには俺もユイも覚悟はあるってことだよ」


 ユーマは立ち上がった。あまり長い時間、外に出ているとジンや他の隊員に怪しまれてしまう。そもそも、こんなにも長居する気はなかったのに。


「今は混乱してるだろうから、ケンタが寮に戻ってくるまで答えは待つから。それまでに、自分がこれからどうしていくか答えを出しておいてくれ」


 ユーマは階段を登った。途中で自分を呼ぶ声が何度もしたけれど、無視した。階段を登り切ると、扉を開け、暗い一本道に出る。懐中電灯で鍵穴を照らし、鍵を開けた。



 そこでうずくまった。胸が痛くて、苦しかった。改めて自分の口で言うのは、想像以上に辛かった。





 結局、ジン、そしてハヤトの説得もあって、ケンタの処分は二週間の禁固刑となった。二人が、特にハヤトがどういう方法で罪をここまで軽くさせたのかは、ユーマは怖くて聞けなかった。とにかく、二人には感謝しなければならなかった。


 二週間後、ユーマはじっと寮の前で腕を組み、ケンタが来るのを待っていた。


 遠くから足音が聞こえる。ユーマは片目を開けた。こちらに向かって、ケンタが歩いてくるのが見えた。ケンタの顔は、少し大人びて見える。 


 ユーマとケンタは向かい合った。ケンタが口を開くのを待っていた。 


 するとケンタは笑みを浮かべた。

「手伝うよ兄さん。大した力になれないかもだけど」


「ありがとう、ケンタ」


 明らかにケンタの顔には空虚な表情は消えていた。生きる目的というのは、どんな人にも絶対になくてはならないのだ。


「さあ、そうとなれば、ケンタは改めて『特超隊』に入るわけだ。ここで暮らすためにも。皆がケンタを待っている。早く中に入れ」


 ケンタは元気よく頷くと、勢いよく寮の中へ入って行った。ユーマも後に続く。

 ロビーには寮に住む隊員とその前にジンが立っていた。


「改めてケンタ。入隊おめでとう!」


 それに続けて「おめでとう!」と隊員達が祝福すると、クラッカーを一斉に鳴らした。


 ケンタは終始、驚きで立ちすくんでいた。

「そんなところで何してるんだ。早くこっちに来て祝おうじゃないか!」

 ジンがニヤッと笑う。


「……はい!」ケンタは涙がグッと込み上げ声を詰まらせた。


(ケンタはこうやって仲間に囲まれることを一番に望んでいたんだな)


「ユーマも早く!」

 エリが楽しそうに呼びかける。



 いつの間にか、ユーマとケンタを隔てていた壁は消えていた。


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