16話 初仕事

 夢幻町に住み始めてから、一ヶ月。


 ユーマは、ミオやゲンジに戦い方の指導を受けつつ、その一方で、ユーマ、エリ、ミオ、ジンの四人はジン隊として、一人の超常人を追っていた。


 仙樹でユイに会った次の日からずっと。


 特超隊は超常人が能力を発動して痕跡を残すか、うっかりツノを見せるくらいでしか、超常人を追うことは出来ない。

 

 だから、人のいない場所で過ごされると、保護のしようがない。今回、ジン隊が追っているのは、最近超常人になったせいなのか能力を、場所も気にせず乱発している超常人だった。


 始めは楽に捕まえられるかと思ったのだが、能力が「瞬間移動」だったせいで何度も逃げられ、これだけの時間を要した。


 そこでミオが出した作戦は、徹底的に相手の能力を調べ上げることだった。


 何度も対峙することで分かったことは、回数制限があること、そして距離制限があることだった。一日に瞬間移動が出来るのは五回まで、そして距離は半径十キロメートルが限界だと分かった。一ヶ月の間、調べ上げた結果だ。


 そして今、太陽がてっぺんを通過する頃。

 

 森の中で一人、ターゲットの超常人が木に寄りかかって休憩している。ユーマ、ミオ、ジンの三人は周りの木々の陰に身を潜めて相手の行動を伺っている。

 エリはというと、「透明」の能力を使い、ターゲットの隣に立って配置についている。



 ユーマは右奥の木に身を隠しているジンに目を向ける。ジンはゆっくりうなずいた。


 エリが小石を投げたら作戦開始だ。妙に身体と心が固くなっていく。


 その時、小石が宙を舞って、ボトッと地面に落ちた。ターゲットはそちらに視線を向ける。


 真後ろの木に隠れていたユーマはそれと同時にターゲットに向かって走り出した。ターゲットの視線はこちらに切り替わる。呆然とした顔がユーマの目に映った。


「ちっ――――」


 逃げようと身構えるターゲット。


 すかさず透明化したエリがターゲットに向かってぶつかる。力はないが、何もない所から衝撃を受けたのだから、十分に動揺したはずだ。ターゲットは寄りかかった木にぶつかる――


 そのタイミングでユーマが左手で木を吸収し、あっけなく排除した。それと同時にミオとジンがターゲットへ走って来る。


 ターゲットは木にぶつかることなく、地面に倒れた。受け身を取る間もなく、顔から地面に突っ込んだ。ユーマと透明化を解除したエリは身体を必死に押さえ込んだ。


 能力を発動しようとしたその時にはミオの手は背中に触れていた。ミオの能力も知らずに身体に力を込めて能力を使おうとするターゲット、しかし瞬間移動は発動しない。


「くそっ! どうして出来ない!」


 ターゲットは吠えた。


「今日は五回使っているのは確認済みでしたけど、やはり奥の手があったようですね」

 ミオが冷静に分析する。それに腹が立ったのか、無茶苦茶に暴れ始めた。危うくミオの手がターゲットから離れそうになる。左手に急いで手袋を着けて両手で押さえ込む。


「これで、終わりだな」


 ジンの能力「重力操作」でターゲットの身体の部分だけ、重力を倍増させる。

 押し潰されるようにして地面にめり込んでいる。ユーマとエリは押さえ込む手を離した。


「保護完了、ようやくですね、ジンさん」


「ああ、二人とも初任務お疲れ様。ミオも手を離していいぞ。こいつはワープじゃなくて瞬間移動だから。これだけ押さえ込めば動けまい」


 ミオはゆっくりと手を離し、立ち上がった。すぐさま携帯を取り出して、運び屋に電話をかける。

「いつもこんなに時間をかけているの? てっきりすぐ捕まえられると思っていたのに」

 エリが疲れたように大きく伸びをした。


「これくらいが普通かな。短くても一週間、長ければ二、三ヶ月以上かかる。大変だよ……追いかけている間にも超常人は増加していくばかりだから、仕事が尽きることもない」


「でも俺、超常人が発見されたニュースを見ますけど、すぐ保護されていますよね」


「ああいう目立ちたがり屋はね。すぐに見つかって、簡単に保護される」


 ようやく保護されたこともあって、場は穏やかな雰囲気になった。ユーマも初任務が成功して少し興奮していた。

「ジンさん、運び屋は二時間で来るそうです」


「そうか、長いけどここで待つとしよう」

 ミオは携帯を閉じると、木に寄りかかった。ジンもその場に座り込んだ。ユーマとエリは二時間も待つという言葉に、顔をこわばらせた。


「仕方ないよ、瞬間移動できるわけじゃないんだからさ」

「でも、二時間も待つのは大変ですね」

 苦笑するジンにミオが声をかけた。神妙な顔をしている。


「ジンさん、変わりましょうか? その人、戦意をなくしているようですし、私が能力を封じておけば大丈夫ですよ。……それに、ジンさんも気づいているかもしれませんが、森に入ったあたりから妙な視線を感じます」


 ミオは途中から周りに聞かれないように小声で告げると、ジンは驚いた顔をした。

「……いや、それならばミオが周囲の警戒をしていてくれ」

「ですが、ジンさん抜きで対処するのは……」

「どうせ他の逃亡中の超常人が冷やかしに来ているだけだろう。あの二人には良い訓練だろうから、手助けしてあげてくれ」


「ジンさんがそう言うのなら……わかりました」

 ユーマはミオとジンが何やらこそこそと話しているのを横目に、保護された超常人の様子を見つめる。

 倒れ込んだまま口を開かず、目も閉じていて、ジッとしたままだった。

「この人、町で暮らせるか心配です」


これだけ暴れて、今は無言。ユーマは少し同情した。


「大丈夫だろ。こういう逃げ回るやつらは連れて行かれる場所が、どういった所かもわかっていないから。こちらの住む世界を知りさえすれば、普通に暮らせるようになるさ」


「移動が楽になるし、私は運び屋に行って欲しいわ」

「そうだな、でも瞬間移動はどの仕事でも重宝されるだろうから、どうなるかはわからんな」


 保護された超常人がどの仕事に就くのか。それは、分担された仕事の中から代表者が集まり会議を開くそうだ。

 特超隊だとジン、ハヤト、ゲンジのうち一人が出席できるが、ほとんどジンが行っているらしい。


 以前ハヤトが会議に行って運び屋とケンカになったことがあったようで、それからはジンだけになったとか。


 四人は雑談をしながら迎えが来るのを待っていた。ユーマは少し退屈そうに木に寄りかかって三人の話を聞いていた。

 そのときだった。エリの顔が急に険しくなる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る