12話 町の仕組み

「知っているとは思うが、この町は唯一超常人だけの町。人間はこの町に関わることはできない……一応な」

 生活面においては一切、人間と関わることはないから、差別されることはないらしい。

「けれど、この町を作ったのは超常人じゃない。ここで自由に安全に暮らすための、対価というものがある」

 仮初の自由と引き換えに強制されていること。


「さっき、鉄の門をくぐった後に施設の中の一本道を歩いただろう? あの施設の二階より上にのみ、人間が住んでいる。研究者達だ」


 月に一回、夢幻町に住む超常人は、ここに住む代わりとして、研究室に呼ばれ検査を受けなければならないという。

 この検査によって超常人の研究をしていて、将来は超常人を人間に戻すワクチンの開発を進めていくらしい。


「君たち……ユーマとエリも、ここに来るまでの間に名前を登録しておいたから、週に一回、行くようにね」


 わかりました、とユーマは頷いた。

「それで、後は『運び屋』とか、さっきミオが急用で出て行ったこと、とかも説明しておいた方がいいよね」


 当然のことながら、この町で生活していくには、仕事をして金を稼がなければならない。そしてその金で食べる物や衣服、住む家を買う必要がある。


 そのために夢幻町の超常人は集まって話し合い、いくつかの仕事に分担して生活するようになった。

 夢幻町の地で農業をして食物を生産する仕事、夢幻町では作れない物資を政府に調達するように交渉する仕事、未だに日本中を逃げ回る超常人を捕まえる仕事、その捕まえた超常人を夢幻町に運んだり、政府からの物資を運ぶ仕事――


 これらだけでなく、他にも様々な仕事を分担することによって、生活している。


「その分担は仕事の規模によって人数が少ない仕事もあれば、大規模な仕事もある」


 そしてユーマ、エリが配属された仕事は、未だに日本中を逃げ回る超常人を捕まえ、保護する、特別超常人保護隊、通称「特超隊」である。


 この特超隊は百人という大規模な仕事で、日本各地に潜む超常人達を捕まえている。


「それじゃ、さっきジンさんとミオさんの会話は、今逃げている超常人を捕まえようとして、だけど相手が抵抗しているということですか?」


「そうだ。君たちもそうだっただろうが、逃げているやつらは捕まるのを恐れている。捕まった方が楽なのに、だ。だから私達『特超隊』は、戦闘もしなければならない」


 さっきのジンとミオの会話を思い出した。特超隊が、おそらく超常人を追いつめていた。けれど、部隊の一人が負傷していたこと、そして相手が想像以上に手強かったせいで、逃げられそうになっていたのだろう。だからミオに援護を頼んだ、と。


「ミオさんは強そうよね。たしか、ジンさんもそんなようなことを言っていたけど」

 エリは面白そうに尋ねると、ジンは嬉しそうに笑った。


「あいつはだいたい四年くらい前からここにいるが、強いよ」

 特超隊の誇れる一人だと、ミオを褒めた。

「そんなに強いなんて……いったいどんな能力なの? 触れただけで相手を吹き飛ばすとか?」

「それはだな、エリ」

「これから同じ部隊になるんだ、本人に聞く時間はたっぷりとあるだろう?」

「え?」


 ユーマとエリが驚きに目を見張ると、ジンは意味ありげに含み笑いをした。

「私、ミオ、ユーマ、エリの四人で当分はジン隊としてやって行くことになると思う。これからよろしくな」

 そう言ってから再びニッコリと笑った。


「あの、今さらだと思うのだけど」またエリが苦笑いしながら手を挙げた。

「ジンさんは何者なの? 話からして特超隊には古くから居たことはわかるのだけど」

 すると、ジンは申し訳なさそうに頭をかいた。


「いやぁ、たまに大事なことを言い忘れてしまうことがあってね。私は、この『特超隊』の創設者で、一応、特超隊の幹部をやっている。自己紹介が足りなくてすまないね」

 そうか、特超隊を設立した人だったのか。

「へ?」

 

 今、この人は何て言ったんだろう。

「あれ、どうしたんだ、二人とも。目をそんなに丸くして」

「いや……あの」二人は目を合わせた。

「すみません、今何て言いましたか?」

 改めて聞くと、ジンは不思議そうに首を傾げた。


「だから、特超隊を作ったのが私ってことだよ」

 ジンは想像以上の大物だった。

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