11話 二人の仲間
ユーマとエリは言われた通り車から降りた。今まで鬱蒼とした森の中を進んでいたからだろう、直接射し込む白い光が目に沁みて眩しかった。
「……あれが町?」
「そうだよお嬢さん、あれが外から見た夢幻町だ」
エリが見ている方へユーマも向くと、目をみはった。
鉄の要塞というべきか。太陽の光で黒光りしている巨大な要塞は、横にも縦にも終わりが見えぬほど広がっていて、鉄の壁が何枚にも連なっている。ユーマはその中心、鉄の門の前にいるのだ。
「町を鉄の壁が囲っているというの?」
「その通りだ。所詮、千人程度が住む小さな町だからな。安心しろ、中はただの普通の町だ」
「いや、想像出来ないんですけど……」
外見だけ見ると、監獄のような場所を想像してしまう。普通の町だと言われても、とてもじゃないが、信じられない。
「でも、これだと自由に外に出られるわけじゃないよね。中がもしただの町でも、軽い監禁じゃない?」
エリが遠回しにすることなく、そう言った。
「そういうことは中に入ってから聞けよ。俺みたいな『運び屋』に聞くよりも、これから仲間になるやつらに詳しく聞いた方がいい」
「仲間?」
「そうだ。そろそろ着くと知らせておいたから、迎えに来る手筈だが……」
そう言ってから束の間、目の前にある鉄の門が鈍い音を立てながら開き始めた。
鉄の門の奥に立っていたのは、男と女だった。男は、髭を生やし頑丈でたくましく見える顔立ちと大柄な身体つきをしている。
一方で女の方は黒い長髪の、飾り気がなく清楚な出で立ちをしていた。
この二人が、仲間なのか。
「君達が今日新しく町に住むことになった二人だね。私の名前はジン。よろしくな二人とも。それでこっちの女性が……」
「ミオです。よろしくお願いします」
ミオは落ち着いた声で、ユーマとエリに軽く会釈した。
「おいおい、俺は早く帰りたいんだよ」
「そう怒らないでくれ、レオ。これからは彼らとも一緒に行動することになるんだ。初めが肝心なのさ」
レオが眉を寄せて怒っているのを、ジンが慰めている。いったいどういう関係なのだろう。
「レオさんは前からそうですけど、気が短いですよね」
「余計なお世話だ。自己紹介するのはいいが、門に入ってからにしてくれ。中に入れば俺の仕事は終わりだからな」
レオは面倒そうに手であしらった。
ジンは仕方ないな、というような顔をした後、「達者でな」と後ろ姿のレオにその一言だけ言い残すと、ユーマとエリを連れて門の中に入った。
門に入った後に一度だけ振り返ってみたが、すでにレオの姿はなくなっていた。
門をくぐると、そこは何かの施設の中であった。とは言っても一本道が続いているだけだが。前の方を良く見ると、出口が小さく見えている。中は薄暗くて、簡易照明が点いてあるだけであった。四人の靴音だけが大きく響く、静かな場所だ。
「彼、移動している時も無愛想だっただろう」
後ろを振り返っているのに気づいたのか、ジンが苦笑いをしながら話しかけてきた。
「はい、少し、怖かったです」
「さっきも早く行ってくれ、とか言っていたわ」
横からエリが少し怒り気味に口を挟んできた。
「そうだったか……。十年くらい付き合いのある私にもそんな態度だ。あまり人には接したくないらしい。失礼なことをしていたのなら、私が代わりに謝るよ」
ジンの誠実な言葉に、ユーマは少し安心していた。
「さあ、そろそろ、出口だ」
ジンの言葉に、ユーマとエリは前を向いた。
陽の眩しさに目を細めながら、その景色を一望した。快い爽やかな風が草原を撫でる。
どうやら小さな丘に出たらしい。そして、そこから町を見渡すことが出来るのだ。目に映った景色は、夢幻町なんて名前とはかけ離れた綺麗な町だった。
青々と茂る田畑、澄みきった川。森林部分もあれば、中心街のような場所も見受けられる。大きい建物もあれば、レンガの家が建ち並ぶ住宅地もある。
さらに奥には、ここからでもはっきりと大きいことがわかる、巨大な大木が見えた。
「綺麗な町だね、監獄みたいなのを想像してたよ」
「私もびっくりした。事前に町のことは写真で見ていたけど、実際に見ると普通の町よりもずっといい感じね」
ユーマとエリは微笑み合った。するとジンが隣で誇らしげな顔をした。
「そうだろう? 初めて来る人たちは皆、口を揃えてそう言うよ。予想外だ、とね」
まるで自分が作ったようにジンは自慢した。後ろでミオも嬉しそうに笑っている。さっきジンはレオとは十年以上の付き合いだと言っていた。だから古くからこの町に住んでいるのだろうか。
その後、四人はこの町を見渡せるこの小さな丘を降りると、ついに夢幻町の地に降り立った。
四人はまず、これからユーマとエリが住む場所へと向かう。そこで生活をすることになるのだと思うと、ユーマは興味が湧いて来た。
十分ほど歩いた後、到着した。そこはさっき小さな丘から見たあの大きい建物、赤茶色のレンガ造りの長方形の建物であった。
「心中思うところはたくさんあるだろうけど、とにかく中へ入ろうか」
色々と聞いてみたいことはあったけれど、ジンに案内されるがままに従うことにした。
エリも隣でキョロキョロと周りを見物するだけで、何も言わずについて来ているだけだった。
辺りを見渡すと、離れた所に同じような建物が三つ、四角形になるように建てられ、そして今、四人がいるところを大きく囲んでいた。外には所々にベンチが置いてある。
「なんだか、別の世界に来たみたいだ」
ユーマが感嘆していると、着信音が鳴った。ミオが黒のスラックスから携帯を取り出す。
「すみません、先に中に入っておいてください」
「ああ、わかった」
そう言うと、ミオは立ち止まって、話し始めた。顔が深刻そうなところから見るに、何か緊急事態でも起きたのだろうか。
「さあ、中に入ろう。ここは凄いぞ」
建物の中に入ると、そこは広いラウンジのようになっていた。中心を囲むようにソファがいくつか並んでいる。左右に階段があり、奥には表記によると、食堂があるらしい。
「ホテルみたい。華やかね」エリが呟いた。
「良いところだろう? 二人は今日からここに住むんだ」
目を輝かせながら、周りを見渡す。
「そこのソファに座ろうか。ゆっくり話をしよう」
ジンが示したところに座ろうとした時、ミオが建物の入口から駆け寄ってきた。
「ジンさん、私出かけなければならなくなりました」
「どうした? ミオは今日の仕事はないはずだろう」
「それが、仕事中の部隊から連絡が来まして、一昨日、別の隊の一人が怪我をしたとかで」
「ああ、骨折だとか言っていたな」
「それで援護に来てくれと」
「四人で太刀打ちできないって言うのか? しかもミオを呼ぶなんてこと、相当な事態じゃないか?」
「相手が手強いのか、それとも今、私しかいないだけだからなのか」
ジンはやれやれとため息をついた。
「仕方ない、ミオ、加勢に行ってやってくれ。だが、油断はするなよ。」
「はい、わかっています」
そう言うと、ミオは走って出て行った。あっという間だった。
何が起きたのか、わからない二人はただ見ているだけであった。ユーマはエリを見るが、エリも首を傾げるばかりで、よくわかっていないらしい。
「二人とも、すまなかった。ミオは急用で……今のも含めて説明しよう」
ジンはソファに腰掛けると、足を組み、ユーマらの方を向いた。
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