4話 動き出す
――悠真は全速力で公園に向かっていた。後ろに石岡もついて来ている。今にも息切れしそうだが、健太が心配でそんなことに構っていられなかった。
あの後二十分ほど、悠真達は超常人を探していたが、当然のように見つかるはずもなく、もう一度八人全員で学校に集まっていた。半分、諦めている人がほとんどで、もう家に帰ろうかという話になっていた。けれど石岡がもう少し探そうと提案して、みんなは諦めかけているけど、どうしても帰りたいというわけでもなかったので、もう一度探すことになった。
再び探し始めて数分経った時に、気づいたのだ。こちらに走って来る人影を。
走って来た四人を知っていた。悠真がまだ小学生だったころ、健太と一緒に遊んでいる姿を見たことがあった。きっと健太はこの四人と一緒に探していたんだろう。
当然、その四人を引き止めた。全力疾走したように全身汗まみれで、泣きじゃくっていた。
「どうしたんだ、お前ら」
すると、一人が鼻をすすりながら、
「火が、魔女……公園に」
「火? 魔女? 公園がどうしたんだ、落ち着いて説明しろ!」
今度はもう一人の方がさっきより分かりやすく言った。
「公園に魔女が出たんだ! 腕が、火に変わって、それで……」
「おいおい、何の話だよ、魔女って」
石岡が笑い出すと、さらにもう一人のやつが叫んだ。
「あれは穢人だよ! 助けて、感染しちゃう!」
悠真と石岡は目を見張った。今、こいつは公園に超常人がいて、それを見て来たというのだ。
しかも、健太はまだ公園に残っていることが分かった。もしかしたら怖くて動けずにいるのかもしれない。
公園が見えて来た。外から公園の中を覗いてみると、一つの人影が見える。でも超常人の姿は見えない。
公園に着くと、そこにいたのは棒のように直立している健太だけだった。超常人は姿を消していた。逃げてしまったのだろうか。夜の冷たい風が吹いて、健太の髪が静かになびく。微動だにしない。まるで人間じゃないみたいに固まって動かない。健太に近づいた。目を見開いて、遠くの方をジッと見ている。
「健太」
悠真は揺さぶった。すると、ハッと肩が跳ね上がり今、悠真が隣にいることを知ったように驚いた。
「穢人は逃げたみたいだな」
後からゆっくりと石岡が公園に入って来た。
人の気配はなく、公園は閑散としていた。ついさっきまで超常人がいたなんて、信じ難い。
「健太、ここに超常人がいたのは本当か?」
健太は少し間をあけ、ゆっくりと頷いた。悠真と石岡は思わず顔を見合わせる。どうやら、本当に超常人はいたみたいだ。足跡すら残ってないが。
「これからどうする?」
「俺は悪いけど家に帰るよ。健太がこんな状態だから……」
「親に言うのか? 怒られるぞ」
口をつぐんだ。夜中に家を出たのがばれたら、さすがに怒られるだろう。
「それは後で考える。とりあえず健太を安静にさせないと」
「わかった。こんな状況だから仕方ないよ。他のやつらには伝えておく」
「ごめん、ありがとう」
悠真はすぐに石岡と別れた。ギリギリまで家を出たことを言うか言うまいか考えていたが、結局言わないことにした。健太はありえない状況に混乱しているが、いずれ元の調子に戻るはずだ。親に余計な心配はかけたくない。
健太は家に帰るまで終始黙っていた。家に入る時、屋根を登ることは軽々とやっていたから、大丈夫だと安心しきっていた。今はショックを受けて話せないだけだ、と。
日常の歯車が、壊れ始めていたというのに。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます