Ep.3.2 愚妹 Ex.自己

 なんかわーわー言うとります。

 引きこもりの兄貴のことなんかほっときゃいいのに、クソ妹はどうも俺を出したいらしくてね。

 傍観決め込んだ両親様と対立する毎日。

 俺がニート生活始めたのも両親様のせいなんだから、お金払って養うのも贖罪の一種で、それに甘んじちゃうのも悪いわけではないと思うんだけど。

 兄だけ甘やかされるのは、不平等だとでも思ってんのかねぇ。

 んじゃ、てめぇもどん底味わえやクソ妹。


 ああ、殴りたい。

 わーわーうっせぇ、妹ぶん殴りたい。

 ボコボコにしたら静かになるかな?

 いや、静かになるまでボコボコにしようかな。


 でもさ、部屋出たら負けなわけ。

 両親様の贖罪もそこで終わるわけ。

 それはダメでしょ。


 家族としてね、罪の重さを理解させてやらんとならんのよ。

 だから、俺は出んよ。

 一歩足りとも、出ん。


「オイ、クソ兄貴! 出てこい!!」


 ついに乗り込んで来やがった。

 なんだかんだで俺の部屋ここまで乗り込んで来ないかと思ってたけど。

 来やがった。


「起きてんでしょ、出て来いって言ってんの!」


 ドアを壊す勢いでノックするクソ妹。

 最終的には蹴破るつもりか?


「ねぇ、お願いだから! 出てきてよ!! ねぇ、せめて、開けてよ!!! お兄ちゃんっ!!!!」


 リアル妹にお兄ちゃんって呼ばれても微塵も萌えませんが?

 いや、なんかいつもより必死すぎて引くわー。


「お願い、お願いだから、早く!!」


 わかったよ、出ればいいんだろ?

→だが、断る。


 いや、え?

 なに、その悲鳴。


 いやいやいや、何の音だよ、これ。


 ちょっ、ドアぶち破る気満々なんですけど。


 何?

 これ、何?


 ……あ。


 今、見たくないもん見てしまったわ。

 ビビってドアから目を逸らして、PCの画面に映る俺の顔。

 いや、首筋。


 痣?


 んなもん、昨日まで無かったよな。

 このタイミングで、この痣。


 ああ、詰んだ。

 マジ、詰んだ。


 ああ、ハイハイ。

 そうですか、マジですか。

 ステマじゃなかったのね、ごめんなさい。

 謝ったら帰ってくれたりしませんか?


 しませんね、わかります。


 何だもう、あれだな。

 いざ死ぬとなると、何したらいいかわからんね。


 ヒーロー・チェーン、ねぇ。


 ああ、ホント、クソだなオイ!!


 悔しいから痣を皮膚ごと剥ぎ取ろうと掴んだ。

 痛いだろうな、やっぱりやめておこう。

 どうせ、死ぬんだ。

 足掻くのはよそう。

 もう終わりだって、痣の感触が伝えてくれる。


 仄かに――冷たかった。

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