第9話 迷宮でゴスロリがトラップに引っ掛かったら、とんでもないことになった件について①

「相変わらず陰気な所じゃのぅ」

「文句言ってないでさっさと進むよ」


 迷宮に入ると中は石で構成された通路や広間が連なる形となっていた。大体の階層はこういう形になっている。

 迷宮自体がほのかに光を放っているのか、薄暗いものの見えないということはない。


 しばらく慎重に歩を進め、広間のような場所に出ると前方で複数の影が動いたように見えた。


「Grrrrrrrrr………」


 不自然にしゃがれた犬頭に二足歩行。コボルトだ。


「さっそく魔物じゃな。ヒトラよ、どうするつもりじゃ?」


「当然決まってるよ。shot!!」


 問答無用、先手必勝と言わんばかりに緋色の弾丸がコボルトの眉間を貫いた。


「お、流石に一撃じゃな。しかしヒトラは妾が伴侶。この程度ぐらい出来て当然なのじゃっ!」


 相変わらずコボルトはぶっさいくな獣面してんなー。なんというか犬畜生が無理に二足歩行している感があって気持ち悪いんだよね。後、メアリーはうるさい。本当にうるさい。


「Grrrrrr……!!Grrrrrr……!!」

「うわ、まだまだ結構いるなぁ」


 目の前にはまだ二○を越えるコボルトが煩く喚いている。


 普通であればそれなりに手を焼く数だ。だが今の僕は武器を出すまでもないだろう。実際僕は今手ぶらだしね。

 それは油断や奢りというわけでもなく、人差し指を前に突き出すだけで事足りるからだ。



「shot!shot!」


 更に血弾丸を撃ち込む。


 銃声が響く度にコボルト達が地に伏せていく。



 弾丸ショットは血液で精製された弾丸を撃ち放つ血術。


 使い勝手がいい反面、使えば使うほど血は減っていく。以前は自分の血液だけしか使用していなかったので、多用することはなかったが今は違う。


 血なんて魔物からも自由に供給出来るのだから、それを気にする必要も特にないのだ。



「shot!shot!」



 また撃ち込む。そしてコボルトが倒れる。



「shot!shot!shot!shot!shot!」



 撃ち込む撃ち込む。さらに撃ち込み続ける。どんどんとコボルトが倒れていく。



「shot!shot!shot!shot!shot!shot!shot!」



 あははははは!!! たーのしーーー!!!!



「の、のぅ……ヒトラよ。お主性格変わっとらんか?」


「うっさいぞメアリー。Absorb吸収


 おもむろにコボルトの死体により築かれた山に手をかざす。僕の掌は仄かに赤く発光すると、血を吸い始めた。吸収アブソーブは文字通り血液を吸収する血術。この術は人間はおろか魔物からも吸収出来るのだ。


「うわぁ……引くのじゃぁ」


 メアリーがドン引きしているが知ったことではない。むしろ敵は全て倒したのだから万事よし。

 しかもコボルト達の血がどんどん集まっていく。血液のストック量も申し分ないものになりそうだ。ウヒヒ。


「お主の笑みはなんだか悪寒がするのぅ」


「ほんと一言多いよ」


 ほっとけ。

 まぁ、こんなインチキロリなんてむしろ放っておこう。

 胸元にかけた緋色に染まる十字架に視線を落とす。

 ウヒヒヒヒ。ほんとに血が集まったなぁ。今まで使っていた自分の血の総量と桁違いだ。ウヒヒ。


「なんじゃニヤニヤと気色悪い顔で見つめて。昔のこれかの?」


 ニヤニヤと意地悪い笑み浮かべて小指をピンっと立てるメアリー。はしてないから止めなさい。ちなみに彼女なんてろくにいたことがありません。

 このロリはほんとに好き放題いいやがって。ぶっとばすぞ。


「違うよ。これはいま僕の血液残量を示してくれる遺物レリックなんだよ」


「ふむ、便利なものもあるもんじゃの。どこでこんなもの?」


「二束三文で売ってたから買い叩いた。こんなの僕ぐらいしか使い道ないからね」


 本来特殊な能力を持つ遺物レリックは高額。貴族ですら目が飛び出るほどの額で売買されるものだ。しかし、自分の血液量が分かるだけの遺物など高値がつくはずもない。


「さてと。とっとと先に進むとしますか」


 ともかく今日の目的は魔物を倒し血を集めること。どんどん進んでガンガン血を吸収してやろう。


 カチッ


「あっ」


 そう意気込んでいたはずなのに、何故か後方から不穏な音と声が上がった。


「え、何その呟き。何か踏んだ音も聞こえたし、絶対なんかヤバそうなことしたやつじゃん」

「な、なははは……」


 メアリーは錆びたブリキの玩具のように首をギギギッとねじり視線を向けてきた。


「のぅヒトラ。なんかトラップ踏んでしまったみたいなのじゃが」


「そうか。短いつきあいだったけど、君のことは嫌いじゃないかは微妙なとこだったよ」


 メアリーの足元には複雑な紋様が描かれた魔方陣が光輝いていた。あーこれはダメですわ。


 クルリと華麗にターン。僕は何も言わず来た道をクールに引き返すぜ。


 ガシッ


 メアリーに袖を強引に掴まれた。なんすか。


「おいこら見捨てるつもりか!? しかもなんじゃ、その何とも言えない物言いは!!」


「いや、ほんと! 君のことは三日ぐらい忘れないから! こら、離せ! 裾を掴むな!!」


 あ! くそ、やばい。どんどんと光が強くなってきている。


「いやなのじゃあああ!!! ていうか三日しか覚えてくれないのじゃ!? 是が非でも離してたまるかああああああ!!!!!」


 そんなことをしている内に辺りが眩い光に包まれていきーーちょ、これ転移光じゃん!?


「「あああああああああああああああ!!!!!!!!」」


 必死の抵抗も虚しく。メアリーと僕は光に包まれて何処かへと飛ばされてしまった。

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