第8話 使える肩書きは使った方がお得な件について


「ふむ、お主今日は何をするつもりなんじゃ?」


「今日は虚大迷宮に潜るつもりだよ」


 支度をさっさと済ませて宿から目的地へと向かう。メアリーは当然の如く僕の後をテクテクと突いてくる。どっか行ってくれないかなぁ。でも、言う事聞いてくれないんだよなぁ。


「なるほど魔物の血を頂くわけじゃな」


「そゆこと。人から奪ってたらいつか牢獄にぶちこまれかねないからね」


 暗殺者集団に襲われたせいで忘れかけていたが、一応僕は冒険者を続けることを決意した。


 しかし、パーティーを追放された直後なので戦力的にはかなり心もとないのが現状だ。戦力強化は必須と言える。


 血術使いである僕が手っ取り早く強くなるにはやはり大量の血が必要。だから迷宮。

 迷宮は魔物が溢れ蠢く場所。血液集めにはまさにうってつけだ。


「ふむ、血なんぞてきとーにそこら辺の奴から供給すれば良いと思うのじゃが。相変わらず人とは難儀じゃのぅ」


「いや、僕は人類に喧嘩売るような価値観してないですし……」


 そんなスナック感覚で言われても困るんですけど。

 そもそも手当たり次第に他人の血液奪うとかやべー奴だろうが。

 そんな変態に成り下がるつもりはない。


「おぉ、冒険者ぎるどとやらが見えてきたぞっ!」


 一際大きい建物を見つけて瞳を輝かせるメアリー。

 ドン引きしている僕に気がつくどころか、ニカーッと満面の笑みを向けてくる。まぶしっ。


「のぅヒトラよ! 楽しいのぅ!」


「ちょ、ちょっと! 引っ張らないでよ!」



 ◆



 迷宮がなぜ存在しているのか全くわかっていない。そもそもいつ出来たのかすら判明していないのが現状。誇張表現ではなく本当にそうなのだ。


 あらゆる歴史書を紐解いたとしても、

 誰かに造られたというわけもなくそこに在るのだ。その為か迷宮は神が人類に与えた試練と呼ばれている。実際聖剣とか手に入るしね。


 迷宮自体の数はそこまで多くない。東西南北に存在する四つの四聖迷宮に加え、その中心に存在する虚大迷宮のみ。


 迷宮の内部構造は様々だ。基本的には薄暗く人工的な石造りだが、洞窟のようなものであったり、はたまた地上と同じような空間が広がっているものもある。噂には過ぎないだろうが空に太陽がある階層なんてのもあるらしい。



 どの迷宮も一○○層前後の構成となっているが例外も存在する。全ての中央に位置する虚大迷宮はどこまで続いているのか判明していない。虚。どこまでも飲み込む虚なのだ。だから虚大。


 

 迷宮ではさまざまな魔獣素材や魔石に各種植物・鉱物が入手できる。危険は伴うが金を稼ぐにはうってつけだ。

 僕としては手っ取り早く稼いで田舎で悠々自適にスローライフを送りたいなぁ。




 ◆



 目的地の冒険者ギルドに到着する。

 ギルドは迷宮を管理しているので、当然迷宮に入るためには手続きをしなければならない。

 まぁ、迷宮自体は冒険者なら誰でも入れるから冒険者カードを見せればいい。だから面倒な手続きはない。



 僕は受付嬢に冒険者カードを差し出した。しかし彼女は僕が幼女を除き一人しかいない事に眉を潜めた。


「あ、あのあの流石にソロで迷宮に潜るのはやめたほうがいいんじゃ……」


「あーその迷宮はけっこう慣れてるんで大丈夫です」


 ちっ 流石に止められたか。

 一応一人じゃないけど、まさか幼女と一緒に迷宮に入るなんて夢にも思わないのだろう。


「ちっ、いるんだよなぁ……こういう勘違い糞野郎っ」


「いや、聞こえてるんですけど」


「は、はわー!? き、気のせいですーーー★」


 失言を誤魔化すようにバチコーンとウインクする受付嬢。可愛いんだけどなんかムカつくなぁ。

 ていうか、今更誤魔化したところで火葬後のマッサージぐらい手遅れじゃないだろうか。


「あ、あのあのあのぉ……知っていると思うんですけどぉ。迷宮はものすっっっごい危険なところだから出来ればパーティーを組んで挑んだほうが良いと思うなーなんて」


 受付嬢はあくまで猫を撫でるような声でなんとか説得してようとしてくる。


「まぁ、その心配していることには多分ならないと思います」


「ちっ、人の話聞いてのかよ。誰が死亡処理すると思ってんだ」


 もうこの子隠す気ないでしょ。

 まぁ、この受付嬢の態度はアレだが対応はそこまで間違っていない。


 ソロは当たり前だが危険なのだ。死亡確率が桁違いに高くなる。


 しかし、今回僕は一人で迷宮に入りたいのだ。(邪魔な幼女はいるけど)

 そこまで深い階層に潜るつもりはないし、なにより血術を使うところを見られれば何に巻き込まれるか分かったものじゃない。



 仕方ない……気が進まないがこの手を使うか。



「えっと、一応カードのランクを見てくれませんか?」


「ランクぅ? あーはいはい。どうせド底辺のFかEで…………えっ?」


 僕の冒険者カードを確認した受付嬢の顔がみるみると青くなっていく。


「ぎゃああああああああーーーー!!! Sランクじゃん!?!?」


 うるさっ。この人本当にうるさいな。



「ししししししし、失礼いたしました!? こんなひ弱そうな糞インキャがまさかSランクなんて思いませんでした! 無礼な態度を取ってしまい大変申しわけありませんでしたーーーーーーー!!!!!!!」  


 おい。

 まぁ、いいか。

 元勇者パーティーである僕はその恩恵を十分に受けている。

 つまるところ僕は最高位ランクに近いSランクの冒険者なのだ。


「じゃあもう入って良いですよね?」


「も、勿論でございます、この糞根暗野郎!! どうぞお入りくださーーーーーい!!!!!!」


 おい。ほんとおい。

 後で覚えとけよ、まじで。 とりあえず後ほどギルドにあの受付嬢を口汚く罵ったクレームを、びっしりと書き連ねた文を送ってやることを密かに決意した。


 ともかく、入場を許可された僕はやっと迷宮へと足を踏み出していく。

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