第7話 朝起きたら幼女が隣で寝ていてヤバい件について


「ふあーぁ……今何時だ?」


 翌日、寂れた宿で目を覚ますと既に太陽は昇っているどころか傾いていた。昨日疲労困憊の僕は自宅に帰るなりすぐベッドに倒れ込んだ。そしてこの有り様。


 パーティーを追い出された直後にここまで惰眠を貪るのはいかがなものかと、自分でも思う。考えることは沢山あるがまぁ今回は致し方ない。それほど昨日の出来事は密度が高かった。


 唐突に勇者パーティーから追放され、暗殺者に襲われ、


「極めつけにこれだもんなぁ」


 目下最大級の悩みの種の視線を向ける。


「むにゃむにゃ……もう食べられないのじゃぁ」



 そんな僕の悩みなどつゆ知らず、銀髪ゴスロリ幼女のメアリーは絶賛夢の世界を浮遊中だ。しかも、僕の隣で。


 ていうかベッドに潜り込んでくるなよ……通報されるでしょこれ。大丈夫かな……大丈夫だよね?


 これから心機一転せにゃならんのにいきなり牢屋スタートとか。初手ハードモードにも程がある。


 ほんと何故こうなったのかと頭を抱えるばかりである。



 ◆



「やはり貴様は妾が同胞たる存在だ。ヒトラ・ブラドーー妾の伴侶となれ」 


 辺りが血で染まる中、ほのかに輝く白銀髪の幼女は微笑みを浮かべていた。この凄惨な光景であえ彼女にかかればどうといことはない。むしろ、彼女を際立たせる要素の一つにしかならない。


「アンタは魔族なの?」


 単刀直入に問うた。


 そもそも前々から疑問には思っていたのだ。発言もそうだがその存在が不可解そのものだった。幼女の姿のまま何十年も生きていると噂すらあるのだから、そう思わざるえない。


「ふんっ、その言い方はどうにも好かん」


 魔族とは魔王の部下であり、人類と敵対している。

 しかし、メアリーは特に隠す素振りすら見せない。不満そうにフンッと鼻を鳴らすだけだ。


「さて返答はいかに? あまり乙女を待たすものじゃないぞ」


 メアリーはその大きな瞳を輝かせて僕をジッと覗きみる。


 さて乙女という単語に湧き出た疑問は置いとくとして、どうしたものか。


 別に魔族に対して直接的な恨みがあるわけでもない。元々、血術使いとして蔑まれていた身からすると大した偏見も正直ない。


 よし、答えを決めた。意を決してメアリーを強く見据える。


「お断りしまーす」


「なんでなのじゃ!?」


 メアリーは僕の返答に大層驚いてる様子たが、だってなぁ。


「いやどう考えても厄介事が舞い降りる予感しかしないし。ていうかロリババァだし」


 そもそも選択の余地なんてないんだよなぁ。

 だいたい、こっちはただでさえ失職中な上、命の危機に晒されているのだ。これ以上魔族なんていう厄介事を抱えてたまるか。しかもロリババァだし。


「よく考えるのじゃ!? 妾超絶美少女じゃぞ!? 銀髪ゴスロリ幼女じゃぞ!? 男なら誰しも夢に見る存在じゃろうて!!」


 何その偏見。それは一部の大きいお兄さん達だけでしょ。その上ロリババァじゃん。鼻で笑っちゃうね。


「いやいやいや、そういうわけじゃないけどね? まぁ? しいていうなら僕は年上ほんわか系の癒しお姉さんがいいなぁ」


 ちなみに胸が大きければなおいい。ほら、あそこには人類の夢と希望が詰まっているからね。夢と希望は大きいに限る。

 その点メアリーは不毛の大地。お話にもならないね。


「かーーーーーー!!! これだから最近の男は! かーーーー!!!!! ボインか!? ボインなのか!?」


 まぁ、端的に言えばその通りなんですけど。成長して出直してきて欲しい。あ、でもロリババアか。もう成長する要素がないね。AHAHAHA!!!


「じゃ、そいうわけで」


 ガシッ


「離してよ」


 早々にこの場を離れようとすると何故かその行動は遮られた。視線を下にずらすと、メアリーは玩具をねだるクソガキの如く袖を掴んで駄々をこねていた。


「いやなのじゃ。絶対妾を伴侶と認めるまで離さないのじゃ!!」


 彼女の僕の服の袖を掴む手は肉食魚のような執拗さを見せている。どれだけ振り払おうとしてもびくともしない。こうなったら力ずくだ。


 お互いの間に沈黙が訪れた。


 そう何も喧嘩するようなことじゃない。彼女は少し疑問だが、僕は歴とした人類の一員だ。人類はどの対話により発展してきた種族と言える。なら僕は今すべきことは、深呼吸をしてその人類の模範的行動に倣うことに他ならない。



「離せえええええええええええええええ!!!!!」


「嫌なのじゃああああああああああああ!!!!!」





 ◆



「むにゃむにゃ……もう食べられないけどおかわりなのじゃぁ」


 そして何故か幼女が隣で眠っている今に至るわけである。その異様な光景に頭を抱えるばかりである。

 どうしてこうなった。



 結局あの後、駄々をこねるメアリーに根負けする形となり、宿まで振り払うことは出来なかった。


 だって、騒ぎを聞きつけた市民が衛兵を呼ぼうとするし。くそ、理不尽にも程がある。その見た目を悪用しているのに程がある。あれですか子供の権利フル活用ですか。くたばれ。


「ふわぁ~よく寝たのじゃ」


 この状況に頭を抱えていると、おもむろにメアリーが目を覚ました。ていうか淑女とは思えないでっけー欠伸ですこと。いい女風を装いたいならもう少し慎みを持てよ。


「おぉ、ヒトラ起きてたのか。といってももうおやつの時間じゃがな。巨怪獣ベヒモスですらここまで怠けておらんぞ」


「いや、それはまぁそうかもだけど。ていうか、なんで君は僕のベッドに潜り込んでいるのさ」


「妾の伴侶がそうつれないことを言うではない」


「いや、伴侶じゃねーし」


「妾は思うのだ。つれない其方もまた良いなと」


 おっと涎が、とメアリーは口元を袖で拭き取った。何を言っているのかも意味不明だよ。


 駄目だこいつ。早くなんとかしないと。そう心に強く決めた。

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