第6話 【Side勇者パーティー①】ヒトラが消えたパーティー

「歓迎するよ、魔眼の姫」


「ん、こちらこそ。今有名な勇者パーティーに勧誘されるなんて光栄」


「いやー! うちにもついにあの魔眼で有名なアリス・フィーラーが入ったか!! あの役立たずとは大違いだ! よろしくな!!」


 ヒトラを追放して三日が過ぎた。下衆な言い方かもしれないがあいつはもうこの世にいないことだろう。

 まぁ、そんなことはどうでもいい。


 今日は新たな仲間が加わる素晴らしい日だ。パーティー共用の屋敷は浮き足立つような雰囲気に包まれている。


 それも仕方のない。なにせあのアリス・フィーラーだ。通称魔眼の姫。

 人形のように端正に整えられた容姿もそうだが、何より際立つのがほのかに輝くその右目だ。

 彼女の天啓ギフト【魔眼】は全ての魔術を見通し穿つ。

 噂に過ぎないだろうが、彼女の魔術は迷宮の一階層を氷で覆うことすら出来ると言う。

 噂の真偽はさておき、腕の立つ魔術師であることに変わりはないだろう。


 大したことも出来ないヒトラとは格が違う。


 元々、ソロで迷宮を探索する彼女が今回何故俺達の申し出を受け入れたのかは疑問だ。おそらく勇者パーティーの威光のお陰ということだろう。


 これで魔物討伐も更にスムーズに行くことになる。

 来るべき魔王襲来もこれで万全。無能なヒトラにイライラすることも無くなるし万事快調だ。 


「ここまでの面子が集まりゃあ大迷宮の未踏エリアにすら制覇出来るんじゃねぇか? 何せ役立たずが消えて魔眼の姫様が俺たちに加入したんだ。むしろ楽勝だろ!」


「そうねそうね! 今のアタシ達なら何だって出来るわよ! はー、良かった。これもあの役立たずが消えてくれたお陰よね!」


「? 期待に添えるよう努力する」


 リーヴァとグンテルの言い様に首を傾げるアリス。

 こいつらは少し正直に思ったことを口に出しすぎだと思うが。

 まぁ、気持ちは分かる。ヒトラには俺もそれなりに鬱憤が溜まっていたしな。


「アリスちゃん~~~! そんな事どうでもいいから俺ちゃんと遊びに行こうよぉ~~~!」   


「? そういえばヒトラ・ブラドの姿が見えないけど」


 パウルのナンパは相手どころか見向きすらされなかった。

 もはや無かったことにされたレベル。ここまで来るとパウルには同情するな。

 ドンマイパウル。男泣きするなよ。


「あ、あぁ、彼にはこのパーティーを抜けて貰ったんだ。やはり彼程度ではこれから先、荷が重いと思ってね」


 パウルはいつものことなので置いとくとして、彼女は何故ヒトラなんかを気にするのだろうか?

 彼女に覚えられているとは魔属崩れの分際で生意気な奴だ。

 いや、もしかしたら彼女もこのパーティーにヒトラがいることを不安視していたのかもしれない。そうだ、そうに決まってる。


「あのヒトラ・ブラドが実力不足? 何を言っているの?」


 しかし彼女の返答は訳の分からないものだった。


 表情や声の抑揚は変わらないものの、彼女の視線は信じられないものを見るように変わっていた。


「あぁん? あんな無能どうでもいいじゃねぇか! あんな奴クビにしたよクビに!」


「そう……自信過剰なのね」


「あぁん!? 喧嘩売ってのか糞アマ!!」


「そうよ! 新入りの癖に生意気なのよ!!」


 煽り耐性の低すぎるリーヴァとグンテルは顔を真っ赤にさせて激昂した。

 こいつらはもう少し我慢が出来ないのか。


「まぁまぁ、落ち着けなよ。今は言わせておけばいいさ。口じゃなくて実力で示せばいいだろ?」


「そう、大した自信があるのね。そこまで言うのなら次の討伐戦を期待している」


 アリスはそう言い放つと俺達には興味がもう無いのか懐から取り出した菓子を食べ始めた。変わった奴だ。


 しかし、何故あの魔眼の姫がヒトラなんかに一目置いているかは疑問だ。だがそれもすぐ変わることだろう。

 所詮は魔族崩れ。全てを見通すと言われている彼女の瞳にかかれば、西の勇者の七光りなんてすぐ暴かれてしまうことだろう。その時を来ることが楽しみでしょうがない。

 残念だったなヒトラ。



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