第5話 お前の血を寄越せオラ②


 裏通りにて事は終わった。

 巨大な赤腕による一撃は凄まじく、あれだけいた暗殺者集団は見る影もなく全員床に伏せていた。まぁ殺さない程度に手加減はした。怪我は酷いが命ぐらいは残っているだろう。


「ひ、ひぃぃ!!!!」


 辛うじて意識が残っていたのは暗殺者の頭らしき一人のみ。その一人も尻餅をついて戦意喪失したかのように顔を青ざめさせている。よくよく見ればその股からは湯気が湧き上がっていた。ざまぁ。


「た、助けてくれ……! し、仕方なかったんだよぉ!! ゆ、勇者の依頼だ断れるわけがない。わ、分かるだろおい!?」


 これまて絵に書いたように無様な命乞いだ。

 多少同情はするが、だからといって容赦するつもりもない。もう僕はやりたいようにやるつもりなのだから。

 

 だからーー


「駄目だ。寄越せ。お前の血を寄越せ。僕に全部寄越せ!!」


 僕は一切の慈悲もなく、その巨大な赤腕を振り下ろした。



 ◆



「ほぉ、貴様にしては派手にやったのぅ」

「まぁ、あれだ色々と鬱憤が溜まってたんだよ。しょうがないね」


 メアリーが呆れたように見つめてくるが、気分はハッキリ言って爽快だ。

 とはいえ僕らの後ろにはおびただしい数の暗殺者達が屍のように倒れている。なかなかにエグい図だ。これの後始末とかどうするんだろうか。まぁ憲兵とかがやってくれるか。


「しかしあれじゃ。あれだけ啖呵を切ったわりにはお主はつくづく甘い男じゃな。一人も死んどらん」

「別にいいんだよ、僕は殺しに快感を覚えるタイプじゃないしね。それに殺したら血液の再回収が出来ないだろ?」


 屍のように倒れる彼らのほとんどは命に別状がないはずだ。メアリーは嘆息しているが、むしろあれだけのことがあり死者がいないことを褒めて欲しいまである。


 あ、もちろん血は死なない程度に吸収させてもらいました。これでまた血術が使い放題だぞぉ。再回収も見込めるからこんなん笑顔になっちゃうよ。ウヒヒ。


「ククッ……やはり貴様は見込みどおり男だ」

「何さいきなり気色悪い」

 

 この状況の僕を見てメアリーは心底嬉しそうに笑みを浮かべていた。何故だろうか。このニタニタと嗤う幼女を見てるいると何故かこう悪寒がする。


「そうつれないことを言うな言うな。妾はお主という存在をずっと待っていたのじゃからの」


 あんまりにも愚直な言葉を唐突に投げられ、思わずドキリとした。


 そしてその深紅の瞳が放つ眼差しはどこまでも柔らかく暖かい。 彼女はそんな瞳で僕を包み込むように見つめる。


「やはり貴様は妾が同胞たる存在だ。ヒトラ・ブラドーー妾の伴侶となれ」 


 どこからか鐘が鳴る。大きい大きい鐘がゴーンゴーンと。

 そして黄昏時に街が染まる中、白銀髪の幼女は微笑みながら僕に手を伸ばしていた。

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