悪女と魔獣〜王子に婚約破棄されて愛くるしさが過ぎる人外辺境伯の婚約者候補になったけれど、笑えるくらい心を開いてくれないので、観察記録をつけて彼の好みを探ろうと思う〜
あなたを射止めたポーズで、勝利宣言から歓喜の凱旋よ!
あなたを射止めたポーズで、勝利宣言から歓喜の凱旋よ!
お家に着いて荷物を整理していると、モナルク様がお部屋にやってきた。
何だかもじもじしていらっしゃるので、二人きりの方が良さそうだと判断し、シレンティには席を外してもらった。
「モナルク様、どうなさったんですか?」
ソファーに腰掛けていただくと、モナルク様はもそもそとお腹のお肉を持ち上げ、毛を掻き分け、そこから小さな包みを二つ取り出した。
わあ、すごい!
そんなところに物を入れて持ち運べるなんて……モナルク様ったら収納上手でもいらっしゃるのね! バッグ要らずじゃない!
感動していると、モナルク様はその包みを私に差し出した。
「これ、アエスタに、渡そうと思ってた。ほんとはね、ちゃんと話せるようになったら、素敵な雰囲気で渡したかったんだ。でもモニャ、変な誤解しちゃって……でもでも、渡すだけは私たくて……お部屋の前うろうろして、置いてこようか、迷ってたら、アエスタに見付かっちゃって」
取れたて新鮮生モナ毛を投げ付けられた日のことだ。
「わあ、ありがとうございます! 開けてみていいですか?」
モナルク様がこくこくモフモフ頷く。
二つの包みはそれぞれ、綺麗な薄紅色の櫛とお揃いカラーのハンカチだった。
あ、これってもしかして……。
「アエスタにもらったから、お返しに……モニャが選んで買ったんだけど、気に入るかは」
「とっても嬉しいです! 大切にしもふ! アエスタ三種の神器に加えもふ!」
食い気味に答えると、私は二つの贈り物をむぎゅっと抱き締めた。
そういえばパルウムの人が、モナルク様が白い布で身を隠して現れたことがあると言っていた。もしかしたらその時に、これを購入しに行ってくださったのかもしれない。
あの時は人に見られまいと必死だったというのに、それでも頑張ってこっそりもっふりとこんな可愛い品を買いに行くなんて……行動も想いも可愛い! 可愛いし嬉しいし、可愛いし大好きだし、可愛いし可愛いし可愛い!!
「三種なの? じゃあ、もう一つの神器は?」
モナルク様が不思議そうに首を傾げる。
…………あなたからいただく予定の結婚指輪ですよ! そこは察してください、このピュアピュア可愛いめ!
「そんじゃモニャ、もう行くね。結婚前に女の子のお部屋に長居しちゃいけませんって、ベニーグに教わってるから」
モナルク様がもふりと太ましい腰を上げる。
「あ、待ってください、もう少しだけ」
モナルク様のふっさりしたおててを取り、私は引き止めた。
「モナルク様にお聞きしたいことがあるのです」
「にゃにかな?」
もすんと座り直し、モナルク様はつぶらな瞳を私に向けた。
「モナルク様はその……人間がお嫌いなのですよね?」
途端に、黒い瞳が曇る。
当時の悲しみを思い出させてしまったかもしれない。
でもいつかは、聞きたいと思っていた。だったら先延ばしにせず、今聞いてしまいたい。
「人間がお嫌いなのに……どうして、人間の私などを好きになってくださったのですか? 私、こう言っては何ですけど、人間基準では顔が良いそうですが、お顔で選んでくださったわけではありもふんよね? 言いにくいようでしたら、えっとほらこれ、こちらに書いてくださっても構いもふん。ですので、教えてください。こんな私にもいいところがあるなら、そこを伸ばしていきたいので!」
私はモナルク様との会話専用ノートを引っ張り出し、ウン○チの絵のページをめくってそちらにペンを置いて促してみた。
「むきゅぅ……書くのはやだかな。残っちゃう」
チッ、バレたか。
私の好きなところを書いていただいて、毎日音読しながらニヤニヤモフモフしようと思ってたのに。
「んっとね……怒らない?」
モナルク様が不安そうに私を見る。頷くと、ふっくらもっふりした口が躊躇いがちに開かれた。
「人間じゃ、なく見えたの」
ん? このプラチナブロンドの髪のせいで、モキュアレディに見えたということかしら?
「アエスタ、初めて会った時、引っくり返ってカサカサ動いてた。新種の人外かと思ったの」
ひいー! よもやここで初日にやらかした大失態を突きつけられるとは!
「とっても怖かった」
ですよねー! 引いてましたもんねー!
「でも起きたら、ちゃんと人間で……人間でも人間に見えなくなる時があるんだってわかって、モニャは種族とか姿形とかに囚われて、相手を見ることしなかったんだって気付いたの」
深いぃー!
あのブリッジカニ歩きから、そんな考察に至るとか、知性の塊すぎぃー!
「それで、アエスタを観察しようと思ったの」
「えっ、モナルク様も!?」
つい、言ってしまった。
「アエスタも、モニャの観察してたの?」
モナルク様も驚いたようで、ぱちくりおめめを瞬かせる。
「え、ええ……どうすればモナルク様と仲良くなれるか、知りたくて」
「そうだったんだ。モニャ達、似た者同士だね!」
むふんと口角を上げた笑顔が眩しい……!
とてもじゃないけど、あの観察ノートは見せられない……!
自分で読み返してみても、変質者的要素が多分に含まれていて引くところがあるもの……!
「観察してたら、アエスタのいいところいっぱい見付けたよ。家事すごく頑張ってたし、モニャを気遣って優しくしてくれたし、モニャが飛んでも魔法使っても怖がらなかったし、それに……近くで見たら、お肌ツルツルで綺麗だった」
モナルク様がぽわっとピンクになる。ベッドに侵入した時のことを思い出したのだろう。
私はその時のことを思い返すと、赤くなるより青くなりますけれどね……。
「だ、だから、アエスタは人間だけど、モニャの家族を奪った人間じゃないの。同じお花でも、甘いのもあれば苦いのもあるのと一緒だよ!」
うん、お花食べないからその例えはちょっとわかんない。でも、人間だからという理由で一方的に嫌う方ではないのだと改めて理解したわ。
本当に、何て優しい方なのだろう。
こんな方のおそばにいられるなんて、幸せすぎて胸がいっぱいになる。とてもおさえきれない。
「じゃ、モニャ行くよ。今日、疲れたよね。いっぱい休んでね」
立ち上がろうとしたモナルク様の動きを読み、私は的確にターゲットを絞り込んだ。
狙うは――モナルク様のむふむふなる可愛い形をしたお口!
私の唇が、モナルク様のそれに触れる。
もふぁっと。
口周りから頬にまで、柔らかな毛の感触が走った。
「むきゃ!?」
モナルク様が飛び上がる。
「モフフフフ……モナルク様のキス、ちょうだいいたしもふたー!」
勝利宣言すると、私はそのまま背面に倒れ、ブリッジで部屋中を駆け回った。喜びの凱旋である!
「んきゅ! アエスタのしゅけべっ! むきゅるきゅー!」
モナルク様が、カサカサ逃げる私を追い回す。人の言葉を話す余裕もなくなったようで、モフモフの毛はピンクを通り越して、赤に近い色にまでなっていた。
観測史上最高のテレルク様でーす! 最高かっわいいー!
不毛な……否、多毛な追いかけっこは、それからすぐにムッツリベニーグが『いつまでも二人きりで何をしているんだ! イチャイチャなどまだ早い! そんなことをしていたら噛み砕く!』と殴り込みに来て終わりになったけれど――残念ながら、一足遅かったわね。
もう私達、ラブロードを一歩進んじゃいました!
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