誰に否定されようと誰にも理解されずとも、この気持ちは恋よ……私だけの恋なのよ!

 モナルク様の過去は、衝撃的だった。


 怒りと理不尽で頭が熱くなったし、悲しみと切なさで胸が痛くなった。


 モナルク様が人間を嫌うのは当然だ。むしろ、嫌わない方がおかしい。あの方の心の傷がどれほどのものかは計り知れないけれど、種そのものを嫌悪する気持ちはよくわかる。

 モナルク様ほど凄絶ではないにしろ、私も同じ経験をしているのだから。


 ベニーグは、モナルク様を救ってほしいと言っていた。けれどこの私に、そんな大それたことができるとは思わないし思えない。


 だったら――『人間嫌いなのだから仕方ない』と諦める? そんなのイヤ。私、諦めたくない!


 たとえベニーグの思い違いの勘違いの筋違いの誤認識だったとしても、モナルク様が少しでも私を気にかけてくださっているというのなら。人間である私に、好意を抱いてくださる可能性が少しでもあるというなら――私はそれに賭けたい!


 だから昨日は寝る前に、瞼を冷やしながら頭も冷やして、冷静になってどうすべきか思案してみたの。


 そ・こ・で!


 相手の気持ちになって考えてみようと思いついたのよね! 我ながらナイスアイディアだわ!


 自分がモナルク様だったら、人間に当たる存在は間違いなくハダカケナシグマ。そうやって立場を置き換えて想像してみたのよね。



 もし、私がハダカケナシグマに好意を向けられたら? 真摯に真っ直ぐに、不器用ながらも一生懸命に頑張って仲良くなろうとしてきたら?


 ――うん、健気さが伝わったら心を許すかもしれない。木の実の好みが合えば、尚良しだわ。

 好きな木の実が被って取り合ってケンカしたり、でも後でその木の実を持ち寄って仲直りしたり……あら、何だかいいわね? 素敵な友情が芽生えそうだわ!



 逆のパターンも想像してみた。



 もしモナルク様がハダカケナシグマだったら? モナルク様からモフモフのピンクの毛がなくなっても、可愛いと思える?

 触れたい、仲良くなりたい、お側にずっといたいと思える?


 ――うん、モナルク様ならモフモフじゃなくなっても間違いなく可愛いわ。

 ハダカケナシグマみたいに毛がなくなっても、ツルツル肌だろうとシワシワ肌だろうと愛おしいわ。求めていただけるなら私の髪くらいいくらでもお贈りするし、弱点の太い一本毛はこの命を賭けてでお守りするわ!



 ということで、自分の気持ちを再確認すべく、私は早起きしてモナルク様ウォッチングへと繰り出した。


 今朝もモナルク様は、洗濯物フリフリ健康エクササイズをなさっていた。


 昨日は横揺れがメインだったけれど、今日は両腕を空へ伸ばし、ぐるーんぐるーんとダイナミック且つドラマティックに大きく上半身を回転させている。


 あんな過去を知ってしまったのだから、胸は痛む。申し訳なさ、やるせなさ、いたたまれなさは確かに感じる。


 でもそういった思いは、もっと強い感情にかき消された。



「にゅんにゅん、ぬんぬぬん、きゅるっきゅーん!」



 お歌のバリエーションも豊富なようだ。


 扉の影からピンク・モフモフ・ダンシングを見守りながら、その姿を脳内でハダカケナシグマに変換してみる。


 どうしよう……やっぱり可愛い。どうしたって可愛い。毛なしどころか、いっそ透明になっても可愛い。


 不可視化しても可愛いってどういうこと?

 どういうことって、それは……。



「きゃうん! むきゅー……」



 バッとシーツを大きく開いて決めポーズを取ったモナルク様が、どちんと尻餅をつく。ラストに転ぶのは、お約束なのかしら?



「うにゅ? んきゅきゅ! むきーむきー!」



 さらにシーツが顔に絡まって、じたじたもふもふ藻掻いてる。


 この方、可愛いのマジシャンなの? いつだったかのパーティで、どこからでもカードを出す芸を見たことがあるわ。あれと同じで、どこからでもいつでもいつまでも可愛いが出せるのでは? 

 もちろん、種も仕掛けもございません! あるのは可愛い、それのみ!


 これまでもこれからも、どんなことがあってもモナルク様は可愛い。


 最初は、見目麗し可愛いお姿に惹かれた。でも今はお姿だけでなく、行動や性格といった目に見えない部分も可愛らしくて愛おしいと感じる。あまりにも愛おしくて、こんなに愛おしいと怖くなって、幻滅するようなところを知りたいとすら思う。


 もう認めるしかないわね……これは恋よ。恋でないなら、何だというの?


 もし本物の恋がこれ以上に胸高鳴るものだというなら、私には一生恋するなんて無理だわ。体が保たない。心臓が破裂してしまう。恋愛向きでない体だと諦めるしかない。


 他の人の恋なんて知らないし、わからない。

 だからこの想いは、心臓破裂寸前でできる、私の精一杯の恋だ。


 私、モナルク様のことが好き。モナルク様のお側にいたい。婚約者として認めてほしい。モナルク様が好き、大好き。

 モナルク様にも、私のことを好きになっていただきたい。


 そうよ……モナルク様が私のことを好き好き大好きになってくださったら、人間への思いにも変化が出るはず。大嫌いな人間の中にも、こんなに愛おしく思える存在がいるんだ、と認識を改めてくれるはずだわ!

 そんなの抜きにしても、私のことを好き好き大好きになって、『人間は嫌いだけどアエスタだけはト・ク・ベ・ツ♡アエスタ、大好きだよ♡モフッ♡』って微笑みかけられたい。欲を言えば、その流れでむんにゅりもっふりと抱き締められたい。


 ベニーグの言うように『人間への憎悪がモナルク様の気持ちにストップをかけている』というなら、私への愛を膨らみに膨らませて、ぶち破ればいい。

 人間だからどうとか、そんなことで悩む暇がないくらい、私を大大大好きにさせてしまえばいいのよ!


 そうとわかれば、行動あるのみ。


『食べたい物があるなら命を賭けて全力で捕りに行け』


 と、狩りの時にお父さんが、


『欲しい物はどんな手を使っても自力で獲りに行け』


 と、お宝だというカッコイイ刃を見せられておねだりした時にお母さんが言っていたもの!

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