Phase 22 特別な力への憧れ

 作戦指令室には、数チームの MaCHINZRマシンザーに所属する魔法化学士たちが揃っていた。その中に鬼丸朝日、杠宮湖、晴気雪也もいた。

 この部屋の主のように振舞っているタロースのホログラムは見えなかったが、声とともに姿を現す。

『やぁやぁ集合時間前に集まってくれてありがと。ちょっと早いけど始めちゃおう。実は今ちょっと困ったサイトというか、招待型のサロン的なSNSがあってね』

 困り顔を作ったタロースはとあるサイトを指し示した。

IN-verseインバース」というロゴが右上に表示されている。すると、朝日が胡散臭そうに呟く。

「inverse……あべこべねぇ」

『海外にあると思われる会社が運営していて、クローズドなコミュニティだけあって怪しいところもいっぱいなんだけど、ボクが問題視してるのはこれ』

 招待が必要だというがタロースが当然のようにログインする。配信や動画投稿という昔ながらの機能も備えているようだ。動画のサムネイルがいくつも表示される。

 注目の動画として「すごい能力者クラプターって知ってる?」というタイトルがピックアップされているのに玲は気づいた。それはここにいる全員も同様だ。

「いつかこういうこともあるかもと思っていたけど……どこまで知られているかしら?」

 正規MaCHINZRマシンザーの女性がため息をついた。

『短い動画だし、見てもらうのが早いよー』

 動画が再生されると、小さく手を振る若い男性が喋り出す。

「今日は前にちょっとだけ触れたクラプターって呼ばれるすっごい人たちのこと話していくね~」

 もしかするとまだ十代かもしれない。 

「みんなも、たーまにすごく怪力だったりめっちゃ走るのが速い人の噂とか聞いたことない? その人たち、ひょっとしたらクラプターかもしれないんだ」

 クラプターの特徴として高い身体能力、そして稀に見る高い知能は今までの人類とは一線を画すと述べている。

「ただちょっとだけ問題もあって怒りっぽくなったりするみたい。キレちまったよ……! みたいな感じ。でも、それって僕らも同じだよね。きっとお腹いっぱいだったらイライラしたりしないと思うし」

 若い配信者は饒舌に語り続ける。

嘘はつかず、都合の悪い部分は口にせず、見に来ている人間が知りたい情報を誇張して伝える。楽しそうに、そして関心を惹くように見事な話術と言うほかない。

「なんでクラプターのことをみんなが知らないかって言うと、政府が隠してるみたいなんだよね。あ、これ言っちゃったら僕も消されちゃうかも。危ないから今回はここまで。またね~♪」

 男は笑みを浮かべながら、締めくくった。見ていて心をざわつかせる笑顔だ。

『若年層を中心に徐々に話題になっているみたいだ。招待されないといけないから広がってはいない。好意的な反応も増えてきているんだよ、困ったことにね』

 動画に残されたコメントには自分もクラプターになりたい、知り合いになりたいというのが半数以上を占めていた。胡散臭いという指摘もあるが、それにはネガティブな評価が下されている。

 室内にいくつかのため息が漏れる。

「こんな動画を見たら、事情を知らない人間、子供たちは憧れるよな……」

 支給されているブレスレット型マジック・デバイスで何人か別のSNSの様子を検索しているようだ。玲も自分のマジック・デバイスで確認してみる。

 そんな時、雄一郎が疑問を口にする。

「この動画、削除できねぇのか?」

『得策ではないかな。削除したらしたで政府の圧力だぁ! とかで陰謀論が盛り上がりそう』

 タロースは小さく肩をすくめる。MaCHINZRマシンザーも同調した。

「クラプターの存在をひた隠す政府が動画を消させたとか……逆に情報拡散の原因になりそうだ」

「……消したら、んなことになんのかよ」

 雄一郎は面倒くさそうにぼやく。

「クラプターを特別な才能を与えられた人間と見る傾向は好ましくないな」

 玲は動画のコメントやその他SNSの書き込みで気になったものがあった。

 自分がクラプターであると仄めかす者や自分はもしかしたらクラプターなんじゃないかと疑っている者たちの存在だ。

前者は身体能力が向上すれば自覚するだろうが、後者はいったいどういうことなのだろうか。

「あの……ちょっと気になることがあるんですけど」

 今日は他の正規MaCHINZRマシンザーもいて、玲は緊張していた。

 時おり言葉を切りながらも玲が説明したのは先ほどの二点だ。

すなわちこの動画自体を見ているのがクラプターである可能性と、自身をクラプターかもと疑う人がいるのは何故なのかということだった。

 玲の指摘に返答が返ってくる。一つは直樹だった。

「もしかしたらこのチャンネルを通じて、クラプターになりたての者たちのネットワーク、コミュニティができているのかもしれないな」

 正規MaCHINZRマシンザーの一人が口を開く。

「ふむ、鍋島くんの意見は的を射ている。いきなり怪力になったら困惑する人が大半だろう。そんな時、同じような仲間がいると誘われたら、突っぱねられるほど人の心は強靭ではない……」

『その危険性は充分あると思うね。もう一方の玲の指摘だけど、ざっと書き込みの傾向を分析した。現状や社会に不満があってクラプターになって一発逆転なんて考えているのかも……あるいはクラプターの仲間入りをして居場所が欲しいのかなぁ』

「本当にその種の問題を抱えているなら、解決は難しいのよね。そういう人たちはきっと少なくないでしょ?」

 タロースの推測が正しければ、宮湖が今言ったように即効性がある解決策は望めないだろう。

IN-verseインバースでの告発なら、クラプターの存在が広がるとは考えにくい。でも、潜在的にクラプターに憧れや親近感を抱く人たちが増えていくのは非情にマズいよ』

 困り顔のタロースに朝日が尋ねる。

「具体的に対策はあるの?」

『残念ながら対策はこれからだね。クラプターとの戦闘を一般市民に見られないように気をつけてもらうくらいだよ』

「ったく、ぶっ倒して終わりなら楽なのにな」

 雄一郎の言葉に同調する言葉は出なかった。しかし、否定も注意もなかった。

(……でも、クラプターになっちゃったら同じ仲間と一緒にいたいと思うのは仕方ない気がする。こういう問題ってどうするのがいいんだろう)

 中度クラプターの殺処分だけでなく、クラプターのことを考えると玲も頭を悩ませてしまう。

 問題の共有が終わり、集まっているMaCHINZRマシンザーのチームには確認や任務変更が通達されていく。

 そして、最後に大町班に新たな任務が伝えられた。

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