第4話 鬼丸朝日が戦う理由
Phase 13 コードネーム授与と四人目が出した条件
大町一派誘拐事件が解決して数日。
「
鬼丸朝日たちは始業前の作戦指令室で、
「
朝日は大きな一歩を噛みしめていた。
正式なチーム結成はまだだが、スタートラインは目前だ。朝日が横目で隣を見る。日高玲と大町雄一郎は目をこすったり欠伸をしたりしている。
「大町くんは今日から『オオマシンザー』」
「くくっ、ダジャレかよ。まあ嫌いじゃないけどよ」
「えっと、朝日ちゃんは『オニマシンザー』ね」
「…………」
朝日は思わず眉を寄せた。
(ぜんぜん可愛くないっ! 壊滅的センスね……コードネームだからって、もっと他にあるでしょ!)
宮湖は朝日の心中を察してか、すぐさま玲の方を向く。
「玲くんのコードネームは『ゼロマシンザー』よ」
「ありがとうございます。やっぱりレイっていう名前にちなんでなんですかね?」
「たぶんねー。あ、そうそう。これからは作戦中に呼び合う時とかは基本コードネームでお願い。それじゃ今日も一日頑張り――」
「待ってください」
朝日は切り上げようとする宮湖を制止する。
「コードネームをわざわざ本名に関連させる必要はないと思います。それこそリスクが上がりますし」
朝日は淡々と変更すべき理由を述べることにした。可愛くないからという主観的な理由ではないとアピールする。
「『オニマシンザー』というコードネームは不適格だと思います」
宮湖は少々困った表情を浮かべている。
「そうかぁ? 強そうでいいじゃねぇか」
雄一郎は全く分かっていない。
「あ! 可愛いニックネームをつけるのはどうでしょう!?」
朝日は小さくため息をつく。
コードネームにそんなものをつけてどうするのか。フォローしているつもりなのかもしれないが、玲は玲でズレていると朝日は思った。
「代わりの案はすでにいくつか……」
「でも、いいの~? これ決めたの理事長なんだけど」
一瞬で朝日は晴れやかな気分になり、自分でも驚くほどさらりと言葉が出てくる。
「勇壮で敵を威圧させるようなネーミングセンス、さすが総司令です。ご期待に応えられるように鬼神のごとくクラプターを屠ってみせます!」
朝日は決意を新たにした。一刻も早く鍋島直樹に加入してもらわないとけいない。
水を差すように雄一郎と玲の呆れたような声が耳に入ってくる。
「さっきまでめちゃくちゃ嫌そうだったのに、何なんだ……?」
「……朝日先輩が納得してるならいいんじゃないですか」
朝日だって己の変わり身の早さは自覚している。しかし、朝日にとっては何よりも大切なことなのだ。
「朝日ちゃんって、ほんと総司令第一主義よね~」
宮湖の言葉は鬼丸朝日という人間を端的に表すものかもしれない。だから朝日は迷わず答えた。
「当然です。私はそのためにいるんですから」
その昼休み、玲たちは学食にいた。
食堂内は広く、たくさんのテーブルが設置されている。中高一貫のアルカディア本校の生徒の多くがここで昼食を取る。日高玲の目の前には空になったカレー皿が置かれていて、視線を上げると鍋島直樹の姿がある。その隣には雄一郎。玲の右隣りには朝日が座っている。この四人で食事を共にしているのは、チームに勧誘するためだ。
玲は朝日たちが勧誘するのを黙って聞いていたのだが、時おり直樹の視線が自分に注がれている気がした。
そして、直樹は前髪をかき上げる。
「いいよ。君たちのチームに入っても」
「本当ですか!?」
「だから言ったろ、俺が誘えば一発だって!」
驚く朝日、自分のおかげだと誇る雄一郎。玲は朝日と同じだった。何しろまだ入ってほしいと言っただけだからだ。
「別にお前に誘われたからじゃないぞ、雄一郎。それに条件が一つある」
「はあ? なんだそりゃ」と雄一郎は不満げに聞き返す。
「この大町班が、私が入るに値する価値のあるチームだと証明してくれ」
価値――役に立つ、有益ということだろうが、魔法化学士としての価値が自分にどれくらいあるのか正確には分からない。
「私たちの優位性や強みを知りたいということですか?」
即座に朝日が直樹に確認する。
「まあ、その解釈で問題ないよ」
朝日は何かを思案するように少し俯く。
「俺たちの強みなんて、分かりやすいのがあるだろ。玲だ」
雄一郎と玲に視線が集まる。
「こいつがいれば、そのへんの野良クラプターを見つけられる。そいつらをふん縛っちまおうぜ。そうしたら直樹も認めるだろ?」
な!と雄一郎は直樹の肩をガシッと掴む。けれど直樹が返事する前に――
「思いきり軍規違反じゃない!」
朝日は眉を吊り上げ、雄一郎を睨む。
「俺たちの実力を示すのにちょうどいいじゃねぇか、悪さをするクラプターを捕まえるだけだ」
「そんなの……命令違反を厭わないアホと公言するのと同じよ」
「じゃあ、他に何かいい方法でもあんのかよ」
憤る朝日に雄一郎は面倒くさそうな視線を投げかける。
「今考えてるところ!」
「先輩、落ち着いて……めちゃくちゃ見られてますって」
周囲を見渡すと、何人もの生徒たちと視線がぶつかる。玲を含めて四人は耳目を集めやすい。不良と名が知られている二十歳、成績優秀な生徒会副会長、人目を引くほどの美少女魔法化学士候補生、最近珍しさが目減りしつつある編入生だ。
朝日たちのやり取りを見ていた直樹は愉快そうに言う。
「雄一郎の案も悪くない。何にせよ面白いのを頼むよ」
玲は思わず直樹を見つめた。優秀と言われていたから堅物な性格だと勝手に思っていたが、彼はこの状況を明らかに楽しんでいる。
「鍋島先輩までふざけないでください……!」
朝日はトレーを持って立ち上がり、玲たちに背を向ける。
「……私がアイデアを考えるから、勝手な行動は厳禁!」
そう言い残すと、朝日は食器返却口の方へ歩き始めた。
「すごくすごく真面目だなぁ」
直樹は離れていく朝日の後姿を見送りながら、つぶやいた。
玲も同じように見送ろうと思っていたが、少し気になって追いかけることにした。
「すみません、僕も失礼します」
直樹は頷き返し、雄一郎は声をかけてきた。
「おう。頼んだぜ」
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