Phase 10 タロースたちの推察
作戦指令室に宮湖とともに移動した玲たち三人は、タロースの情報分析の結果を待っていた。
「タロース、いなくなっちゃった子たちの現在地は特定できそう?」
宮湖がコーヒーカップ片手にホログラムとして出力されたタロースに問いかける。
『もちろん』
ホログラムモニターに表示された日本地図は、九州地方、九州北部、佐賀と徐々にズームインしていく。
『全国の魔法化学士から上がってきた報告の精査を終えて、アルカディア校が支給したマジック・デバイスの位置情報を収集中。これを元に学園内および現在使用されている校外演習場にある端末を除外すれば、絞り込みは完了さ!』
「ここ、たぶん佐賀市の旧市街地ね……」
『朝日よく分かったね。実際のビルの映像に切り替えるよ~』
魔法化学の発展とともに再開発が行われた区画と比べると、だいぶ古びていて五階建てだが、フロアは広めのビルだ。入居している店舗や事務所のようなものは存在するようだが、どのような企業なのか玲には分からなかった。
「ここにアイツらがいるってわけだな! その位置情報、俺のマジック・デバイスに送ってくれ!」
指令室から飛び出そうとする雄一郎。瞬時に電子音が鳴りドアにロックがかかる。
『待って、雄一郎! そのビルは犯罪者集団のアジトになっているんだ』
「だから、なんだ! 相手が犯罪を犯すクソ野郎だってことは鼻から分かってんだよ! タロース早く開けろ!」
雄一郎は怒声をタロースに叩きつける。彼にとって大町一派の仲間たちがとても大切なのだと、玲にも伝わってくる。このままではドアを殴りそうな勢いだ。
『それだけじゃないよ。この犯罪グループのリーダーはクラプターで、その背後には魔法化学の技術を得ようとする他国の影がチラついている』
タロースは新たな事実を突きつける。
「……他国? どういうことですか?」
それまで黙っていた玲だが、思わず言葉を漏らした。
「魔法化学は現在日本が独占しているのが実情。だから海外の企業だけでなく政府機関も喉から手が出るくらい欲しがってるの」
宮湖は手首を軽く揺らし、玲に向けて自分のマジック・デバイスを見せた。
玲は初耳だったが、宮湖たち教師によると魔法化学士を自分の陣営に引き込もうとしたりスパイを送り込んだりといった事案は年々増加傾向にあるらしい。
『実際どれほど影響力なのか分からないけれど、組織の規模や背景を考えるとこれは
「なら、
タロースより先に答えたのは宮湖だった。彼女は申し訳なさそうに雄一郎に近づく。
「今は難しいの……各チーム担当している任務に赴いているから」
「だったら!」
「ダメ。この犯罪集団には多くのクラプターが参加しているという情報もある。一人で行かせるなんて無茶をさせるわけにはいかないわ……危険すぎるもの」
気色ばむ雄一郎を心配し、宮湖は言葉をかけるが、
「相手がどんなにヤバい奴らでもどんな無茶無謀でも、俺は――絶対アイツらを見捨てねぇ!」
雄一郎の意志は強く、揺るがない。そのまま宮湖を避けてロックされたドアの前に立つ。行く手を阻むドアを雄一郎は破壊しようと拳に力を込める。本気だ。
玲は慌てて雄一郎の隣に立つ。
「ま、待ってください……大町さんッ!」
「ああ!? お前も邪魔する気か!」
「手伝います……! どれくらい役に立てるか分かりませんけど」
「……は? 本気かよ? どうしてお前が……」
雄一郎の怒りは驚きで霧散していた。玲は照れくさそうに頬を掻く。
「前に仲間として歓迎してくれるって言ってくれたじゃないですか。すごく嬉しくて……今まで僕に仲間だなんて言ってくれる人はいなかったから。――絶対に助けましょう」
無茶をしそうな雰囲気も薄れ、硬かった雄一郎の表情がほころんでいく。
「……玲!」
雄一郎が玲の肩をバシバシ叩く。正直ちょっと痛い。
そんな玲と雄一郎の背後で、朝日が宮湖に話しかける。
「宮湖さん。私も加えて三人。一人戦力になるか分からないのもいるけど、これならクラプター討伐および救出作戦の許可を出してくれます?」
宮湖は少し考え込むように一度瞳を閉じた。
「……そうね。攫われた生徒たちをこのままにできないのは大町くんの言う通りだし、私が総司令に許可をもらって来るから少し待っていて」
そう言うと、宮湖は別室へと小走りで向かっていった。一方、雄一郎は玲と朝日の顔を交互に見つめる。
「鬼丸も協力してくれるのかよ、マジでサンキューな!」
「あなたにはチームに入ってもらうんだから、犬死されたら困るわ。ただそれだけよ」
「それでも助かるぜ」
三人は宮湖が戻ってくるのを今は待つしかなかった。
玲は朝日たちに背を向け、深呼吸した。
雄一郎に助力を申し出たことに玲は後悔していない。しかし、気を抜くとすぐ足が震えそうになる。心拍数も少し上がっている。
(でも、誰かのために何かをやろうって決めたのはいつぶりだろう?)
――魔法化学士になれ。
そう言われた時は、こんな行動を取るとは思いもしなかった。
玲は自分の中で何かが少しずつ変わっていくのを感じていた。
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