第3話 仲間のために!

Phase 9 集団失踪の謎

「大町さんも大町一派の人たちも今日はいませんでしたね」

「今日こそチーム加入を了承させるつもりだったのに」

 朝日の不服そうな声が返ってくる。

 日高玲は鬼丸朝日と並んで歩く。今は学校に戻るため、公園内を横切っている。

 玲は朝日に連れられて、数日ぶりにゲリラ戦演習場になっている県立高校の跡地に行っていた。到着してみると先日とは違い、屋上には誰もおらず、校舎にも人の気配がなかった。

「早くチームメンバーを集めないといけないのに……どこで油を売ってるんだか」

「どこかに遊びに行ってるとか?」

 嫌がっていたし雄一郎は朝日を避けているのかもしれない。玲がそんなことを考えていると――ガンっと鈍い金属音が響いた。

 玲も朝日もそちらを振り向く。

「くそっ……!」

 大柄の男が自動販売機の側面を叩いたようだ。男は苛立たしげにガシガシと頭を掻いている。

「どこを探しても見つからねぇ! どうなってやがるっ……」

「あっ……」

 男は探していた大町雄一郎だった。その顔には怒りや悔しさがない交ぜになった感情が露わになっており、玲は先ほどの大きな打撃音以上に気になった。一体何があったのだろう。

「まったく……何をやってるの」

 朝日はそう言うと、雄一郎に近づいていく。玲も慌てて、朝日についていった。

「大町雄一郎。あなたね、もう少しアルカディア校の生徒としての自覚を――」

「お前ら! 俺の仲間たち見なかったか!?」

 玲たちに気づくと、雄一郎は切迫した様子で声を飛ばしてきた。

「いえ、知らないわ」

「……どうかしたんですか?」

「いねぇんだよ……寮にも根城の校舎にも! 今日は車で街中を探しまくったが、見つからねえ!」

「え」

「まさか全員いなくなったの?」

 朝日も怪訝そうに尋ねる。雄一郎は首を振る。

「いや、二十人くらいだ……でも、そんな大勢が一度に姿を消すなんてことあるかよ」

 確かにそうだ。玲も大町一派の失踪に事件性を感じる。

「魔警や学校への相談は?」

 確かに朝日の言う通り、機密性の高い魔法化学関連の事件だと疑うならば魔法警備隊に相談するのがいいかもしれない。

「魔警はまだしも教師どもは俺の言葉なんか信じねえよ」

 返ってきた答えに朝日は息をついた。

「呆れた。本気で安否を気にしてるんじゃないの? アルカディア校には作戦司令室があるのよ? 事件の可能性を疑うなら協力を仰ぐべきでしょ」

「……っ!」

 反論を続けようとした雄一郎は、閉口する。タロースにも不良と認識されているくらいだ。その関係が良好ではないのは明白だった。それでも「今からでも相談したほうがいいと思います」と玲は提案する。

「それが一番なのは分かっている……だけどよ、俺の話なんか聞いてもらえるか?」

 もしかしたら雄一郎もすでに相談しようとしたのかもしれない。

「先輩、どうにかなりませんかね?」

 やや伏し目がちに朝日は考え込む。

「付き添って職員室に行くくらいなら。あまり期待しないで」

「本当か!?」

「……おおげさね」

「いいや、大助かりだ!」

 雄一郎の険しい表情がわずかに和らいだ。



 玲たち三人はアルカディア校の職員室に向かった。失踪の件を相談している相手は高等部三年の学年主任教師なのだが――

中年の男性教員がため息をついた。

「作戦指令室はクラプター対策で忙しい。そもそもアイツらを誘拐する理由などないだろう。いつものサボりかもしれん。しっかり探してみろ」

「散々探してんだよっ……これだから先公には頼りたくなかったんだ」

何にでもMaCHINZRマシンザーや司令部が動くわけではないだろうが、やはり二十人とまったく連絡がつかないのは普通ではない。雄一郎を後押ししたいが、玲には言葉が見つからない。

雄一郎を見ながら学年主任が冷ややかに言う。

「仮に事件だったとして校則を守り門限以降寮で過ごしていたら、こうはならなかったはずだ。違うか?」

「だから……連絡ついたやつには寮にいるように言ってある。いいから探してくれよ、アイツらだってここの生徒だぞ!」

 正論を返されて、教師は不快そうに眉をピクリと動かした。

「なら、授業をサボるな」

「今は関係ねぇだろが!」

 話題はどんどんズレていくし、雄一郎と教師の対立もヒートアップしている。玲はどうしていいか分からず、そっと朝日に声をかける。

「朝日先輩……」

 朝日は額に手を当てて目を閉じていた。ここまで対立してしまうと彼女としてはフォローのしようがないのかもしれない。

 困り果てた玲が助けを求め視線を泳がせていると、白衣を着たゆずりは宮湖みやこが近づいてくるのが見えた。玲の視線に気づくと、宮湖は小さくウインクした。

「大事なお話でしょうけど、もう少しだけ落ち着きましょう? 大町くんも」

 宮湖は言い合っていた二人に話しかけ、仲裁すると事情を確認し始めた。宮湖は教鞭も取るが、魔法化学の研究者でありMaCHINZRマシンザーのサポート等を担当することもあるそうだ。

「なるほどね~。一昨日からメッセージも通話もダメな子たちがいて、心配してると。確かに一度にそんなに連絡がつかなくなるのは少し変かも?」

「だろ! さすが宮湖ちゃんは話が分かるぜ!」

宮湖は三年生の学年主任に向き直り、話を続ける。

「――先生の推測通りおサボりという可能性も十分ありますけど、彼らも魔法化学士の卵です。狙われないとは言えません。魔法化学士アカデミーの教師としては最悪を想定して判断すべきかと。何かあってからでは遅いですよ?」

 男性教師の顔色が悪くなり、言葉に詰まる。

宮湖はとても穏やかな口調だが言外に「責任取れます?」と言っているのが分かる。

「う……確かにできるだけ早く対処すべきかもしれませんな」 

「最初から宮湖ちゃんに頼めばよかったぜ」

「こら、調子に乗らないの。本当に二十人以上が事件に巻き込まれてたら私一人じゃ対応できないわ。人に頼み事する時はどうするか、分かるでしょ?」

 今度は雄一郎がバツの悪そうな顔になった。

「まあ、そうだよな……カッとなったとはいえ、俺が悪かった」

 雄一郎は居住まいを正すと、学年主任の教師に深く頭を下げる。

「こっちから頼んでるのにナメた態度を取ってすみませんでした! 生活指導でもなんでも処罰があるなら解決後にしっかり受けるんで、アイツらのこと……どうかよろしくお願いしますっ!!」

 雄一郎の大きな声が職員室に響いた。

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