第91話 寄り道ばかりの勇者たま
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ステーションワゴンから黒髪の少女が最初に降りた。
そして彼女は光の勇者の腕をしっかりと掴み、「はやく、はやく」と急かしている。
少し変わった少女のキラリ。
彼女の様子に戸惑いながら、光の勇者は車から降りることにした。
アルフレド「キラリ、何をそんなに急いでいるんだ。」
キラリ「僕、忘れ物したかもしれないんだ。勇者様、僕と一緒に探してくれる?」
アルフレド「そうか、ここはキラリの家か。でも……、流石に男の俺が一緒に探すってのは、なんというか、問題があるんじゃないか?」
キラリ「僕、そんなの気にしないよ。それに早くしないと爆発しちゃう。急いで、勇者様!」
アルフレド「爆発⁉ それはまずいな。急ぐぞ‼」
そうしてアルフレドとキラリは、階段を登ったところにある建物へと急いだ。
そこにはこの街に似合わないUFOの上半分のような建物があり、キラリはその中へとアルフレドを導いた。
しっかりと手を繋いで。
キラリ「あの部屋の奥だったかな? えっとそっちの部屋の……」
アルフレド「一体何を忘れたん——」
キラリ「あ、そこ。僕の下着が入ってる。」
アルフレド「わー、え、えと。そういうのは先に……、言ってもら……わないと。」
アルフレドはチラチラと見ないふりをしながらも、視界の端で可愛らしい白の下着を捉えていた。
彼女は意外にも可愛いものが好きらしい。
キラリ「あー、あった。僕の大切なもの……。勇者様、こっち向いて。」
アルフレド「なんだ、そんなちいさな……、ぬぁ! なんだ?ほ、本当に爆発したのか?」
キラリ「秘密……。僕の宝物……」
そう言ってキラリは秘密のカメラをそっと机の中にしまった。
アルフレド「ここまで来て、秘密はないだろう。何を隠したんだ?」
詰め寄る勇者、そして詰め寄られる黒髪の少女。
バフ!
散らかっている部屋で少女は転びそうになり、金色の勇者が彼女を受け止めたところに丁度、ベッドがあった。
アルフレド「す、すまない。……これは」
キラリ「……大……丈夫。僕、平気だよ。僕、さっきね。勇者様の写真、取ったの。この戦いが終わったら、もう、会えないのかな……って」
アルフレド「そんなことない。戦いが終わったら聞きたいこと、話したいことが一杯あるんだ。」
キラリ「本当?また、話してくれるの?僕……、ずっと孤独で、人と話す、ほとんどなかったから。だから……約束……だよ?戦争が終わっても……」
ベッドの上、少女は彼の上で泣き崩れた。
そして彼は華奢な少女の体を抱き寄せた。
アルフレド「約束だ。その写真っていうのをいっぱい作ろう。二人でいっぱい、色んなものを作ろう。キラリ、俺と出会ってくれてありがとう。」
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「ねぇ、アル。1時間も何やってたの? それで大事なものは見つかったの?」
「あ、あぁ。確かに必要なアイテムだった気がする。さぁ、オーブを集めに行くぞ。」
そして彼らを乗せた車は発進した。
その様子を遠くでピエロの悪魔が眺めていた。
彼は、勇者を乗せた車がどこへ向かったのかを確認した後、視線を本に戻した。
そして、ふんふんと頷いてその本に書き込み、そっと本を閉じた。
◇
今日のレイはいつもと様子が違う。
比較的モンスターに友人が多い彼ではあるが、今日ばかりは話が違う。
やはり、この男はこれほどの野心があったのかと舌を巻いている。
「ジュウ……、お前がまさかチューリッヒに成れていたとはな。っていうか伯爵家とか言っていなかったか、お前は。」
「これはこれは……。王に向かっての言葉とは思えませんねぇ、銀髪悪魔。伯爵などいない。中の人などいないのだよ。」
レイが退治していたのは大型のネズミ型モンスターであり、ネズミ型モンスターの頂点に位置するネズミ王チューリッヒだ。
そして彼がいる場所はデスモンドから北へ100kmほど進んだ場所にある湖。
その湖の中央部に出現した祠の中、その奥底にソレは鎮座していた。
この場所は来る必要がなかったから立ち寄ることはなかった。
だが、オーブ集めが始まった今こそ、この地が必要となるのだ。
だからレイはここにいる。
そしてそのオーブを守るモンスターこそが彼、ネズミ王チューリッヒなのである。
「全く、意味分かんねぇが、なるほど。お前はできる男だったようだ。だがなぁ、今お前、自分のことを王と言ったよな。それは間違っている。俺は次期魔王だ。ネズミ王と同列に扱うな。っていうか、さっきの話聞いてたろ。俺はすでに自称四天王第二席であり、その資格は十分に持っている。そして今から玉座を取る。あの時の面接での一言を実践する時が来たんだよ。で、これでどうだ! 」
レイは地面に超重要アイテムを叩きつける。
それを見てネズミ王はフフンと鼻で笑った。
「サキュバスバニーと一日デート券? あんな小娘……」
「ちょっとー、何やってんですか、ご主人。ウチは許可出してませんよ?」
「ちょ……、ちょっと待て。えと、なんか大人っぽい娘だな。だ、だがちょっと待て……。ふむ。なるほど。甘露、甘露。確かに美しいバニーだ。だが、それでも吾輩は王であるからして……」
「なーるほど。じゃ、これで!」
パチンと音が鳴り、今度は写真付きのチケットが地面に叩きつけられた。
そしてチューリッヒはその音と共に拳を突き立てる。
やはり王。やはり頂点に立つ男。
彼は違いのわかるネズミだ。
だからこそ、このような作戦には当然——
「そのポーズ、その話乗ったって意味?マロン様とカロン様とバロン様、三人同時での3時間マッサージコース?旦那!これ、許可取ったんすか?」
「っていうか、バカなの? ネズミ王だかなんだか知らないけど、あんたネズミでしょ? なんで人型の……っていうか、ウチで反応しなさいよ! ほんっと失礼ね。まぁ、確かに。歌姫は……、色々揃ってるけど。」
「あの御三方に触れるなんて、王でも無理なんやで? これはチューリッヒもにっこりや!」
「おし、それじゃあ。撤収頼むぞ。無限湧きも最小限にしてくれ。そんで、オーブは勇者にくれてやれ。あ、でもちょっと隠した方がそれっぽいか。さて……、次は——」
◇
アルフレドはデスモンドで、『キラリの生家を見るムービーイベント』を無事に回収した。
あのイベントは思いの外時間を取り、宿屋での一泊を余儀なくされた。
そして今日からついにオーブ集めの旅が始まる。
だからファストトラベルを使わず、次の目的地を目指していた。
「これが世界の歩き方……。なるほど。」
ファストトラベルで近場の休憩所まで飛ぶことも可能だった。
けれどアルフレドはファストトラベルには頼らなかった。
その理由は至極単純だった。デスモンドの門兵が車で南西を目指せと言ったからだ。
そして彼はちゃんと三度話を聞いて、間違いないと判断をした。
「アルフレドぉ、まっすぐオーブの場所に行くんじゃなかったのぉ? マリアでもちゃんと道は覚えているよぉ。こっちじゃなくてぇ、北に行くんじゃなかったっけ?」
「あぁ。だが重要なアイテムがある気がするんだ。」
西から東へまっすぐに来たので、南北には意外と行っていない場所がある。
つまりはそこに重要な何かがあるのだと、アルフレドは直感的に理解していた。
「わぁ、凄い!ここ、綺麗ね!」
車の目の前に広々としたお花畑が広がっている。
そこはモンスターのレベルも低いらしい。
というより、ほとんどモンスターのいないエリアだった。
彼はその光景を不思議に思って、車から降りてみた。
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リディア「わーー!すごい!素敵な場所ですね、ここ。 ずっと監禁されていたから、こんな場所に来れるなんて夢見たい。」
金髪の少女は、まるで幼児に戻ったように走り回っていた。
そしてそんな姿を見て、アルフレドも自然と笑顔になる。
リディア「見てください。こんなにいろんな色のお花がたくさん。小さいお花から大きなお花まで。ここはまるで天国ですね!」
彼女はこの国のお姫様だ。
もっと高級なものも知っているだろう。
アルフレドから見ても綺麗な花畑だが、この一面の花よりも贅沢なものを彼女はたくさん知っているだろうと思った。
それでも彼女はここを天国だと言った。
その言葉を聞いて、彼は嬉しくなって、子供の頃にフィーネの為に作ろうと頑張って覚えた花冠を作ってみた。
そして彼は彼女の美しい金髪の上に乗せようとした。
ただ、彼女の金髪があまりにも美しすぎて、野花を直接置いて良いか、少し躊躇ってしまった。
リディア「勇者様。その王冠は賜れないのですか?」
そう言って彼女はいたずらな笑みを浮かべた。
その顔はとても美しく、自分が作った花冠がひどく見窄らしく思えた。
アルフレド「いえ、もう少し花が必要かと思いまして……」
リディア「あら、私は構いませんよ?」
アルフレド「俺が構うんです。えっと……、うん。これくらいなら……。でも、なんかこれじゃあ……」
リディア「勇者様、お姫様はずーっと待ってますよ?」
その言葉にアルフレドは意を決して、彼女の前に跪いた。
そしてその花冠を彼女に献上する。
アルフレド「リディア様。このアルフレドが必ずお守りします。」
まるで騎士の儀のような美しい金髪の男女。
ちょうど陽が落ちてきたのか、長く伸びた二人の影が少し歪ではあるがハートを象る。
そしてその影の形にリディアが気が付き、少しだけ頬を赤く染めた。
リディア「ふふふ、絶対ですよ。大切な勇者様!」
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アルフレドは気がつくと車の中に戻っていた。
そして、どこか顔を赤くしたリディアもいる。
少しぎこちなくて周りを見回すと、フィーネもエミリもマリアもキラリもが半眼で彼を睨んでいる。
彼にもその半眼の理由が、なんとなくだが理解できる。
今、こんなことをするべきではない。
世界平和が掛かっているというのに、なんで2時間もリディアと野原で寛いでいたのか。
ただ、どうやらリディア以外は単に散歩に行ったくらいに思っているらしい。
だから、彼はどうにか誤魔化しながら、進路を北へと向けた。
「アル、もう夕方だよ。そこで大事なアイテムは手に入ったの?」
「大事……、大事といえば大事だ。それにまだ日は沈んでいないし、このエリアの敵は弱い。タイムロスにはなっていない筈だ。」
「そう……、ですね。これは一体どういうことなのか、
「ほう。じゃあ、俺が最初に行って蹴散らしてやる。オーブ周りは厳重に管理されていると聞く。この辺のモンスターと同じと思わないことだな。」
タイムロスは確かにあった。
けれどオーブを三つ集めて、再びあの大陸へと渡るだけだ。
そうすれば魔王軍幹部へ攻撃が通るようになるとレイは語った。
だから今はとにかく北へと向かう。
レベル上げは十分にやった、問題ない筈だ。
だから焦る必要はないと、アルフレドは自分に言い聞かせていた。
そしてその車の行く末を見守る悪魔が一人いる。
「相変わらず、寄り道が多い。でも、これは本に書いてある通り……か。」
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