第76話 勇者と竜王の出会い

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 エクレアの街は定期的に竜王軍が巡回している。

 それ故に魔族がいても襲ってくることはない。

 だからこそ、アルフレドたちはきょろきょろと、人間の文化と魔族の文化が融合した街を眺めていた。

 元は人間の街があり、そこに奇妙奇天烈な機械がくっついているという、古今折衷型の街だが、魔族の知識のない勇者一行には何が何なのか分からない。


アルフレド「アイザの話ではここに協力してくれそうな魔族がいるという話だが……、本当に人間と魔族が共存しているのか?」


キラリ「確かにデスモンドも似たような場所があるかも、もっと規模は小さいけどね。僕が教えてもらった技術も大半が魔族のものって聞いてるよ。」


マリア「確かに、あのステーションワゴンってどう見ても人間の技術じゃないもんね。きっとパパもどこかから密輸してきたんでしょうねー。」


ソフィア「それを運転できたのがレイ……。もしかしたら、あの悪辣な性格も魔族のものだったのかもしれませんね。」


エミリ「ソフィア、そいつの話はダメって言ってるでしょ!フィーネが何されたか忘れたの? アタシの手でアレを引っこ抜いで、ぐちゃぐちゃにすり身にしたかったくらいなのよー。」


フィーネ「…………、ごめんなさい。私が罠になんて嵌るから。」


アイザ「んとんと、フィーネ、元気出す。アイザ、元気!」


フィーネ「そうね、アイザはあんなところに閉じ込められていたんですもんね。人間に似ているってだけで、同じ魔族なのに。もっと早く助けたかったわ。」


 紫の少女は見た目は人間にしか見えない。

 でも明らかに魔族と分かった。

 けれど魔族にしては、あまりもか弱い。

 だからフィーネは自分の妹のように頭を撫でた。

 そして、それは胸に傷を負った自分を慰めるためかもしれない。


エミリ「あー、あれって竜王軍の警ら部隊っすよ。 アル、どうする? って言っても人間とも普通に会話しているし、竜人族って人間の血がちょっと入っているんだっけ。なんか扱いに困るよね。」


アルフレド「だが、あいつらは味方の命まで平気で奪う連中だ。あまり甘く見ない方がいいだろうな。」



???「キャァァァァァァァァァ」


厄介な魔物「あぁ? ここは俺たち魔族のテリトリーだぜ。金は全部置いてきな。おおっと、その嬢ちゃんは金になりそうだ。西の大陸にいきゃ、人間に売れるらしいぜ。残りはコブリンにでも……」


薄灰色の剣士「お前たち。何をしている。ここはお前のテリトリーじゃあない。俺たち竜人のテリトリーだ。そういうのは別の人間の住む村でやってくれ。このゲス野郎が。」


厄介な魔物「なんだ、こいつ。そんなほっそい腕で俺たちに勝てると思ってんのか? こっちにゃあジャイアントも象殺しベアもいるんだぜ?それともすでに頭に食虫花でも咲いてんのか? こいつ、やっちまおうぜ。ただぁ……、見た目は上玉だ。顔は傷つけんなよ!」


薄灰色の剣士「やはり魔族もゲスだな。見た目だけで判断とは。」


 そう言って男は腰に手を当てた。

 そして。


薄灰色の剣士「死と薔薇をあなたにブラッディローズ!ふ、またつまらぬものを切ってしまったな。」


 彼の剣速はアルフレドでもようやく終えるものだった。

 そして龍の炎なのか、魔法では感じられないほどの高熱を感じる。

 あっという間に中ボスクラスを含めて二十体のモンスターを倒してしまった。


子供「ひぃ!」


 そんな時、一人の少年が道に迷った様子で飛び出してきた。

 そして薄灰色の剣士を見て、尻もちをついてしまった。


薄灰色の剣士「子供。そこを動くな。」


子供「や、やめて!」


アルフレド「おい!ちょっと待て!」


 勇者がその様子を見て焦る。

 だが。



薄灰色の剣士「——蜻蛉切り‼またもや、つまらぬものを切ってしまったな。」


 そして、少年に迫る魔物だけが真っ二つになっていた。


薄灰色の剣士「俺は人間だからといって、あまくはしない。さっさと安全な場所に逃げろ。」


 人間たちは彼に頭を下げて、そそくさと去っていった。

 そしてアルフレドたちも漸く彼の元に辿り着いた。


アルフレド「き、君は……。すまない。俺たちでは間に合わなかった。」


薄灰色の剣士「あ? お前らはあの時の光の勇者どもか。まったく話にならん。すまんが関わらないでくれるか? 一応、俺のところにもお前の抹殺命令が来ているのだからな。……あぁ、質問をされていたか。俺は魔王軍四天王第二席、竜王のゼノスだ。」


フィーネ「あ、あなたは……。私を助けてくれた……人。あの時は、あ、あ、ありがとうございました。あなたのおかげで私は……」


ゼノス「はて。なんだったか。ゴキブリを始末したことはあったが、忘れてしまったな。それよりお互い、面倒なゴキブリを持つと大変だな。」


 その瞬間フィーネの胸が跳ねた。

 顔が少し赤くなり、頬が紅潮している。

 彼の男気溢れる言葉は、今の傷ついた彼女の穴を埋める存在に思えた。


エミリ「あ、そっか。確かに言われてみれば顔が同じような……」


 彼女たちの中で、彼がフィーネを助けてくれたのだという気持ちが次第に強くなっていく。

 そう、女性陣全員の頬が染まる。


ゼノス「そんな期待するような目で見るな。俺は俺の道で平和を掴む。世界の平和はそこの光の勇者の仕事だろ?」


アルフレド「あ、ああ。その通りだ。だが、嬉しく思う。お前のような奴に出会えて良かったよ。」


 そう言って、アルフレドは彼に右手を差し出した。

 その手をゼノスはぶっきらぼうに手で払った。


ゼノス「勘違いするな。手を組むとは一言も言っていない。第一……」


???「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」


ゼノス「何事だ! ガノス! ガノスはいるか!」


 すると、遠くから旋風が巻き上がった。

 そしてゼノスの薄灰色とは違う、赤黒い髪、中央は禿げ上がった竜人が突然目の前に現れた。


ガノス「これはこれは、いかがされましたか? 四天王第二の……」


ゼノス「いかがではない!なんだこれは……。なぜ悲鳴が聞こえる! なぜ多くのモンスターが入り込んでいる!今、姫も来ているのだぞ?」


ガノス「姫……、どこまでもお花畑なのは貴方の方じゃあないですか?元四天王第二席ぃぃ。その女はただの魔族の子供じゃないですかぁ。そんなことより、勇者と手を組むとはなんたること……、なんたる一族の恥晒し……。失礼ながら私、先日より魔王様に直訴しておりました。本当に第二席に相応しいのはどちらか? などとねぇ……」


ゼノス「まさか、一族が? だが……。くっ、姫!早く私の元へ!それから光の!もっと広い場所に行くぞ。街の全貌も見たい。」


 するとアイザがゼノスの胸に収まるように抱かれた。

 そして宙を舞うガノスを警戒しつつ、ゼノスを含めた勇者パーティは街の中央部へと向かった。

 そこにはすでに大量のモンスターがいた、そしてエルダーゴブリンにエルダーホブゴブリンによる破壊活動が進められていた。


ガノス「どうですか……、いやぁ、どうだぁ?この方がずっと悪魔らしいだろうが。いつまでも人間かぶれの王子様よぉ。これで……、これで竜王・四天王第二席が俺の手にぃぃ!」


アルフレド「貴様!たった……たったそれだけの為に……、許さないぞ、悪魔め。ゼノス、悪いが俺はお前の部下を倒す!!」


ゼノス「ちげぇなぁ。俺が狂っちまった同朋に鉄槌を食らわすだけだ。仕方ないから、一緒に戦う。それだけだ!」


アルフレド・ゼノス「行くぞ!」


 光の勇者、竜王、二人が同時に飛び出した。

 だがその時、強大な魔力に二人は跳ね飛ばされてしまう。

 そしてアルフレドもフィーネもエミリもマリアもキラリも……


全員「‼‼」


 新たに登場した悪魔を見て絶句した。

 魔人はレイの顔をしていた。

 アイツの体をしていた。

 あんなにぐちゃぐちゃになって死んでいたというのに。

 その顔に、フィーネは吐き気をもよおして倒れ込んでしまう。


魔人レイ「おいおいおいおい。なんだよぉ。忘れちまったのかぁ? ちぃー、冷たいねぇ。しかもフィーネには体で覚えさせってのに。それでも忘れちまったってのか?」


アルフレド「お……おまえは、レイ……。お前は死んだはずだ。それに何やってんだよ‼‼」


 その言葉を聞いて、魔人レイはニヤリと笑った。

 そしてアルフレドの言葉はあえて無視して、隣の中年ドラゴン族に話を振った。


魔人レイ「おい、どうなってんだよ、ガノス。こいつらまだぴんぴんしてんじゃねぇか。」


ソフィア「私たちが話しているんです!このろくでなし! 悪魔に魂を売って生き永らえたんですか!ほんとに気持ち悪い奴!汚い奴!下衆い奴!」


魔人レイ「うーん、褒め言葉にしか聞こえねぇなぁ。そう思わねぇか、ガノスの旦那ぁ。」


ガノス「うるさい。悪魔になりたての青二才が。お前はモンスターを呼び寄せるマーカー役だった筈だ。どうしてここにいる!それに、ここは全部俺様の手柄なんだよ。」


魔人レイ「チッ。年寄りは聞き分けがないねぇ。つーことだ。俺は人間を辞めたぁ。だからぁぁぁ、世界を滅ぼすことにするわぁ。こっちのが俺向きなんだヨォ。それに秘密の塔に囚われたお姫様……。リディアっつったか。えらいべっぴんって話だったなぁぁ。いずれ魔王になる俺にゃぴったりかもなぁ。まぁなんだぁ、せいぜい死ぬなよぉ。お前たちを蹂躙するのは俺の役なんだからなぁ。フィーネだけじゃあ、不公平だもんなぁ。そんときゃ、エミリもマリアもソフィアもそんで、キラリも……あと、だれだ?その可愛らしい嬢ちゃんも俺の女にしてやるよぉぉ。」


アルフレド「お前……。本当に……。分かった。望み通り生き残ってやる。そして元友人として絶対にお前を殺してやる……からな!」


ゼノス「おい、勇者。すまんな、魔王の令であの男を復活させたが、やはりとんでもないクズだったようだ。俺もはらわたが煮え繰り返りそうだ……」


魔人レイ「あ?男にゃ興味ねぇよ。ガノスの旦那が御執心なんだから、お前はそっちの相手をしてやれや。」


ガノス「うるさい!青二才が喋るなと言っている!ここは全部俺の手柄なんだよぉ。それにお前の言っていた塔の管轄はアズモデ様だ。そういうのはアズモデ様の前で言え!ほら、さっさと行け!臭いから、二度と来るな!」


魔人レイ「おー、こわ。んじゃあな、地獄で会おうぜぇ。愛してるぜぇぇ、フィーネェェェ」


 そう言って魔人レイは飛び立っていった。


アルフレド「お前たちは住民の解放を!いそげ、ゴブリンは女子供を嬲り殺すぞ!!」


マリア「分かった!」


ガノス「ここの全部と俺が言っているだろうがぁ!!」


 その瞬間、五体のファイアワイバーンと五体のアイスワイバーンが横から急襲した。


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