第65話 六番目のヒロイン
以前も話をしたが、魔族に関しては設定資料に載っていないことが多く、レイの知識はあくまで考察の域を出ない。
ただ、一つだけはっきりしていることがある。
それはアイザの設定に関してだ。
ゲーム制作会社に対して、「おまえ、やったな?」と確信できるポイントがある。
そして、その「やったな?」という代表例がアイザである。
旧作でも登場したアイザはリメイク後に滅茶苦茶な改変が行われた。
因みに、レイが「やったな?」と思ったとして、その続きを述べるなら「ありがとうございます!」と言ってしまう。
ただ、今はその話を考察している暇はない。
「大切な妹さんじゃなかったんですか? 俺みたいな、どこの馬の骨とも分からない奴、しかも男に会わせちゃダメでしょ?」
「レイ、魔王軍の情報部を舐めないで。 貴方の情報くらい筒抜けなの。……って、あたしは聞いていた。でも、実際にレイに会ってたら全然印象が違っていた。どうして魔王軍が貴方を次期幹部候補として引き入れようとしたのか。あたしにはもう分からない。それに……」
エルザはすこし顔を赤くして、上目遣いでレイを覗き込んだ。
なにか不味い雰囲気を感じる。
そして、間がおかしい。
だからレイの口は彼の意志とは関係なく、この間を嫌った。
「それに……。なんでしょう?」
続きを催促するレイの言葉に、エルザは頬を膨らませた。
「もう、やっぱひどい男であっているのかしら? ひどいというか、イケズというか……。あたしを守るって言ってくれた。そんな男は初めてだったから……。あ……、そういうことか。魔王様の命令は絶対。だから、あたしはいずれ勇者と戦わなければならない。そんなあたしに気を遣っているのね。もしも幹部のあたしが戦わないようなことがあれば、次はアイザが戦わされる。貴方はアイザを知っていた。だから、ちゃんとアイザのことまで考えてくれているのね。」
彼女は微笑んだ。
その表情は慈愛に満ちていた。
(って、どんだけヒロインなの! この子がヒロインで良かったじゃん‼……それでも、この世界はエルザを四天王と見做している。いや、俺は何を考えている?そもそもこれは不味いんだよ!なぜか俺は彼女の本音部分を知らないうちに鷲掴みしてしまっている。これは世に言う『ふりょねこ現象』だ!不良が雨の日に猫を拾って来て、普段悪そうなのに、本当は優しい人なんてイメージが出るあれだ! だが、ちょっと待って欲しい。それ、本当にやさしいのか? その不良はちゃんと飼う意志はあるのか?予防注射を定期的に打たせ、避妊手術をするかどうかも考え、そしてその後も面倒を見る。 もしくはちゃんと里親を探すのか?せっせと小さな徳を積んでいる普通の人の優しさヒエラルキーを楽々上回ってしまう怪現象。それが……っと、少々熱くなってしまったが、俺が縁のなかった『ふりょねこ現象』の恩恵を授かっているだと⁉)
「あー、えっと。エルザの妹だよな。だったら会いたいかな。会わないと、何も始まらないし……」
(違う違う。会ってどうする⁉何を始めるつもりだ、俺!だけど、なんかすごい申し訳ない気分があるのも確かだ。レイモンド要素を利用した別の意味で攻略をしている気がする……。エルザ、目を輝かせるな!……ただ、このままだと六番目のヒロインと勇者が出会わない。エルザが可愛い妹を会わせる筈がない。……こういう作品物に言えること。登場しなければ、居ないも同じ。噂の問題キャラ、六番目のヒロイン・アイザ。彼女がいなければストーリーが詰む)
「じゃあ、今からでいい? 勇者がここに来るまでに、貴方に会わせたいの!」
「あ、ああ。じゃあ、一応、その代わりと言っていいのか分からないけど。一つ質問に答えて欲しい。エルザがスタト村やミッドバレー村の焼き討ちに関与していないという、噂は本当なのか?」
これは本当に、ただレイが噂の真偽を知りたくて聞いた質問だ。
その質問にエルザはひどく狼狽えた。
そして震える声でレイに懺悔をした。
「魔王軍の……、命令は絶対だ……。そこを襲わなければならない……。そう言われたら行くしかない。間違いなく、あたしがやった。……いえ、貴方が言いたいのはそういうことではないのよね。……はぁ。魔王軍幹部として進んで仕事をしないといけない。でも、あたしはただ見ていただけ。そっか……、耳聡いとは思っていたけど。貴方が知っているということは、魔王様には筒抜けってことよね。」
やはりネットの考察通り、いや、それしか考えられない。
ただ、エルザがここまで狼狽するとは思わなかった。
「いや、魔王様は関係ない。俺、スタト村出身だから、単純に見てたっていうか……」
(見てないけれども、やっぱいこの状況は不味いだろう。俺はネットの噂を聞いただけだ。エルザが謀反を起こすとか、絶対に不味い。)
ただ、レイの発言は別の意味での追い討ちを可能とした。
「貴方がスタト村出身? じゃあ、もしかしてあの時の……? でも、それなら尚更貴方は一層あたしを恨んで……。ううん。貴方がどんな状況でも冷静に判断できる男というのは、すでに知っている。会議での貴方の発案も見事だったわ。やっぱり、貴方はあたしが思っている理想の男性。妹のことを任せられるのは貴方しかいない。」
レイの発言が次々に過大評価へとすり替わっていく。
そして、『ふりょねこ現象』の恐ろしさを目の当たりにした。
(クソ。見た目が怖い奴が優しくするだけで……。——いや、これは単純にエルザが攻略難易度低い説?)
だが、その考えはあまりにも彼女に失礼だった。
エルザにとって、アイザは宝。
だから、今も嬉しそうにしているけれど、どこか怯えている。
彼女の環境、彼女の生活はどこもかしこも剣や槍、炎が降り注ぐ危険地帯なのだ。
そこへ思い至り、彼は息を呑んだ。
「……分かった。絶対にアイザは守る。俺がアイザに気に入られる自信はないけど、話すだけ話してみるよ。」
すると、紫の髪の美女から、少しだけ怯えが消えた。
「ありがとう。それじゃ……」
そして彼女は硬い決意の下、魔族専用魔法
◇
気がつくとレイは草原に立つ家の前にいた。
ここがどこなのかは大体ピンと来る。
ただ、レイがピンと来るのはリメイク後のドラゴンステーションワゴンの世界ではない。
ここはリメイク前のこの近くにあったとされる村のイメージだ。
どうしてエルザという魔王幹部にして四天王の一人が、ここまで性格を拗らせてしまったのか。
その理由がこれなのだ。
魔族の姉妹の姉が妹を勇者に差し出すことになった、全ての矛盾がこの家の中にある。
その原因となったエルザの妹が窓から覗き、姉の帰宅を知ってドアから飛び出してきた。
「お姉たま! おかえりなのら! わらわ、今日もがんばったぞー! 見て見てー! 」
アイザは着物のようにも浴衣のようにも見える服の裾を引きずっている走って来る。
画用紙に絵を描いたのだろう、それを姉であるエルザに見せている。
そして知らない顔が見えて、アイザはエルザの後ろに隠れてしまった。
(そう……。これが全ての元凶だ。彼女は身長110cmにも満たない。見た目年齢で言えば七歳前後……。つまりアイザは幼女枠だ。これは完全にアウトなんだよなぁ。でも、分かる!分かってしまう! どうしてこうなってしまったのかが‼あのやり取り、誰かの創作だけど、あながち間違いじゃないな。)
♧
原田「都条例的にも、メーカーのコンプライアンス的にも、彼女のキャラは変更せざるを得ません!」
鈴木「あぁ? あんなの文化の冒涜だ。ロリコンは伝統文化だろ? ファンが求めているものを提供するのがエンタメの義務なんじゃねぇのか?」
原田「そりゃ分かりますよ? 伝統的に日本の漫画アニメはロリコンが多用されてます。ですが、そういう問題じゃなくて、販売ができないってことを言っているんです!」
鈴木「なぁ、原田。どうしてゾンビものってなぁ、あれだけ人気がたけぇんだろうなぁ……」
原田「そ、そりゃ……、どんだけ傷つけても怯まない、そしてワラワラと湧いてくるゾンビ達の恐怖……とかじゃないっすか?」
鈴木「ま、そういう側面もあるだろうが……、俺が言いてぇのはそこじゃねぇ。人はバイオレンスを好む。そもそも何でゾンビってなぁ、大抵人間なんだ? 別にクリーチャーでも、虫でも、獣でも何でもいいだろ。」
原田「はぁ……、まあ、バイオレンスものが流行るってのは分かりますけど。」
鈴木「そこまで来たら、あとは簡単だ。視聴者は人間の頭をバットでぶん殴る映像を見たい。人間の頭を銃でぶち抜きたいと、心のどっかで思ってるってことだ。でも、それを主人公がやっちゃあ、色々問題があんだろ?だからこそ、ゾンビにしちまえばいいってことだ。ま、俺が言ってんのは極論だ。……でもよ、このゲームはファンタジーなんだぜ? ゾンビものよりもずーっとマシなことができるよなぁ?」
原田「も、もしかして、鈴木プロデューサーが考えていることって……」
鈴木「分かってきたじゃねぇか。そうだよ。アイザをモンスターってことにしちまえばいい。ついでに年齢にも1000歳下駄を履かせとけって話だよ。やっちゃいなよ、原田ぁ。いっちゃいなよ、原田ぁ……」
♧
(原田……、実際にそんな奴いたかどうか知らないけど、鈴木Pならやりかねない。ドット絵メインだったリメイク前のキャラクターは世相で言えば、完全にアウトになってしまっていた。だが、この制作会社は法律やコンプライアンス上、厳しくなったハードルを越えるではなく、くぐり抜けるという対策に出た。そしてその結果、囚われの人間の幼女でしかなかった七歳のアイザを、魔族アイザとして千とんで七歳にしてロリを貫いた。)
そもそも、リメイク前はアイザとエルザは姉妹ではなかった。
そして、リメイク後に二人は姉妹となった。
レイはエルザの後ろに隠れる幼女を見て、かわいいと思いつつも悲嘆に暮れていた。
エルザとアイザの設定には無理がある。
だが、『ロリを貫く』という方針が、アイザを魔族にさせ、同じ場所にいるエルザと姉妹にさせた。
先に幼女アイザ、四天王エルザが存在しており、アイザを魔族に変更した。
それが更に歪みを発生させた。
アイザ、エルザ、同じ場所、二人とも魔族。
(そして!ぜーんぶぶっ飛ばして、『姉妹』という捗るワード‼これがやっぱり一番大きい‼)
完全なるエゴによって生まれた、二人だけの空間。
無理やりすぎる設定が生み出した世界。
それが、この不思議な空間。
ならば、やはり。
——エルザを説得しない限り、アイザはアルフレドの仲間にはならない。
「ほら、アイザ。ダメでしょ? 今日はとっても優しいお兄ちゃんを連れてきたんだよ?」
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