第54話 レイのムービーイベント

          ▲


アルフレド「ここが、フェリー乗り場、だったか。」


レイ「あぁ、そうだ。ここがフェリー乗り場だ。どうだ? 俺の情報網はすげぇだろ。あぁっとぉ。どうやらこのチケットは一人ずつしか入れねぇらしい。」


 アルフレド、レイ、フィーネ、エミリ、マリア、ソフィア、キラリは不気味な通路の先に改札口のようなものを見つけた。

 どうやらそこにチケットを差し込む仕組みらしい。

 レイが偉そうにベラベラとその使い方を説明している。

 そして一人ずつ間隔をあけながら、その装置の間を通過して行く。

 フィーネは自分の順番の時、何かかぐわしい匂いを嗅いだ気がした。


フィーネ「あれ?私——」


 だが、皆は先を行っている。

 ここは一本道だ、だから振り返る必要もない。

 一本道だと思っているから、振り返らない。


アルフレド「みんな、揃ってるか? ついにアーマグ大陸に行く。忘れ物がないかチェックをするぞ。暫く帰って来れないぞ。本当に行ってもいいんだな?」


ソフィア「もう、勇者様。先ほど門番の方に同じことを三回も聞かれました!ちゃんと準備できてます。」


マリア「マリアはー、このキャリーケースに多分……。えー、もしかして何か忘れたかも……。でもぉ、何を忘れたのか覚えてないしぃ。また買えばいっか!」


エミリ「私は元々何も持たない主義だから大丈夫だよー。」


キラリ「僕は……。あ、車……じゃなくてドラちゃん……」


アルフレド「あぁ、それならレイがどうにかするって言ってたぞ。車と人は別々に乗り込むらしい。……ん?フィーネはどこだ?」


マリア「っていうか、勇者様ぁ。なんか、このドア開かないよ?……ってあれ? なんか閉じ込められてない?」


ソフィア「あ、あの!勇者様!あれ、なんですか?」


アルフレド「あの後ろ姿……、フィーネ‼」


エミリ「その向こうにいるのレイじゃん!何やってんの‼」



 勇者一行が密室に閉じ込められていた頃、フィーネはレイの後をおとなしくついて歩いていた。


レイ「はーははははー。バカめ。俺を散々コケにした真面目一直線野郎は、大天才の俺の罠にまんまとハマりやがった。そして……げへげへ……フィーネちゃん。フィーネちゃんはぁぁぁ。俺様と一緒にいたいだろ?」


フィーネ「はい。レイ様と一緒にいたいです。」


レイ「やっと俺様の良さに気が付いたかぁ?今まではツンばかりだったけどよぉ。でも、そういうデレなところも可愛いじゃねぇか。これから、俺様がたっぷり可愛がってやるから、楽しみにしてな。」


フィーネ「はい。可愛がってください。」


 そして二人は奥の部屋へ向かった。

 そこには無機質なキングサイズのベッドが置かれていた。

 作戦が順に進んでいる。そこで彼は下卑た笑みを一度浮かべた。

 そして、フィーネをベッド放り投げる。


レイ「さぁて、やっぱりこういうのは雰囲気だよなぁ。ちゃんと正気に戻させて……。と、その前に手足に鎖を。武器と杖と防具は没収するね、愛しのフィーネちゃん。俺の武器の良さをそろそろ知ってもらわねぇとなぁ。あぁ、これも……邪魔だな。へへへ、殆ど半裸。たまんねぇなぁ。じゃあ、フィーネちゃん。お目覚めの時間だよ。」


 そこへの通路を見つけ出せないアルフレド達。

 彼らは罵倒しながら、画面を見る。

 見るしかできない。


 ——そこで舞台は暗転した。


フィーネ「な、な、なに?どうして……、私、一体なんで?なんで……、——‼なんでわたしはしたぎすがたなの?」


レイ「へへへ、俺様が楽しみたいからに決まってるだろぉ?」


フィーネ「ばっかじゃないの? このすけべ!へんたい!ろくでなし!あんたなんか、私のぶきで……」


レイ「いいねぇ。いいねぇ!でも俺のアレで分からせてやれば、いいってことよぉ。すぐに俺様の魅力に気付くぜぇ?」


  カチャカチャ(金属音)


フィーネ「いや、やめて!なんで、私の体が動かないの!」


レイ「こういうのは、最初は男がリードする。どうだ?かっこいいだろう?」


  ガン‼ガン‼


アルフレド「フィーネ!クソ!レイの裏切りに気付けなかったなんて……」


エミリ「フィーネ!クソ!この壁!この壁が!」


  ガン‼ガン‼


フィーネ「アルフレドなの⁉たすけ……、いやぁぁぁぁ」


 暗転の中、フィーネの叫び声とレイの荒い息遣いが聞こえる。


レイ「なーんだ、やっぱ初めてだったんじゃねぇか。そりゃそうか。だって——」


 ここで、その瞬間がやって来る。


???「初めてがどうした?こういうのが初めてだったということか?」

レイ「ぶ、ぶぶぶぁぁぁぁぁぁぁ!な、なんじゃこりゃぁぁぁ!!」


 そして、ここで部屋が明るく照らされる。


 レイは下腹部を押さえながら膝から崩れ落ちた。

 彼の下の角の代わりに下腹部からはドラゴンのような尾が突き出ていた。

 彼は自身の体に起きた事を、最初は意味が分からずに目を剥いて見つめている。


(って、痛ェ……。なんだよ。今までは感じなかったけど、強制イベントって痛みがあんのかよ。マジか……、これから俺……)


レイ「な、なんだ……?てめぇ……。どうして……魔族……俺は……」


魔族の男「つまらん。やはり人間もクズしかいないのか。」


レイ「痛ぇ!な、俺の腕に何を……、いだあぁぁぁい。まままま、魔族のあんちゃん。俺だ、俺はレイだ。俺のこと、聞いてるだろう?痛ぁぁぁぁ、だのぶ、話を……。いだあぁぁ……だのぶー!だずげで……」


(いだい……、マジでいだい……、助けて……。もう、どうでもいいから、殺してくれ……。ゼノス、早く俺を殺してくれ‼)


ゼノス「竜王ゼノスだ。たまたまこちらに来ていたが、どうやら我が同胞が良からぬ人間と手を組んだと聞いて査察に来ていたが……。反吐が出るな。」


 ゼノスはそう言って、自らの尻尾を引き抜いた。

 そしてその引き抜いた尻尾でレイの体を嬲るように痛めつける。

 なかなか死なないように、色んな場所を切り刻む。

 そして彼が連れてきた魔物が、その手足、それ以外にも耳や鼻、あらゆる末端を食べ始める。


 因みに画面上のレイはその化け物のせいで殆ど見えない。


レイ「やべろぉ!そでば俺のだぁ!食うなぁ‼俺を食うなぁぁぁぁぁぁぁ」


 グチャグチャと捻髪音とゴリゴリと破壊音が部屋中に鳴り響く。


ゼノス「くだらん。まだ死なないのか。いい加減にしね。」


レイ「ぐぁぁぁぁ……………、おで……死………」


(ま……じ……か……。末端から徐々に……なくなる……食われてる……、そこ、もう内臓だぞ……。内臓って痛みないんじゃなかったのかよ……。こいつ、俺の腸を引き摺り出して……意識が……これが……死……。いや……遅すぎる……もっと早く……死に……た……)


ゼノス「女。今は見逃してやる。光の勇者にあったら伝えろ。次にこのような体たらくを見せるようなら、この男のように殺してやるとな。ゲヘモス、女を解放しろ。この建物のロックを全て外せ。」


ゲヘモス「で、ですが……。せっかく勇者を捕らえたというのに……。あれ……おでのからだがみえ……びぎゅー」


 その瞬間全ての扉が開く音がした。


ゼノス「バカか。光の勇者を鍛え上げ、その上で我らが勝利することでメビウスを失墜させる。と、もう聞いていないか。だが、お前が管理していたようだな。お前が死ねば、魔法の鍵は開く……か。」


 そして、その部屋にアルフレド達が漸く到達した。


アルフレド「レイ!フィーネを離せ‼……魔族か!お前達、フィーネに何をした‼‼」


ゼノス「ふっ、今の状況も分からん愚か者か。」


エミリ「フィーネ、大丈夫……じゃないよね。っていうかグロ。いい気味ね。こいつ、苦しんで死んでたもん」


マリア「あーね。マジ、キモイ。死んでからもキモイ。……フィーネ、ゴメン。」


ソフィア「そうですね。もっと苦しませて殺したいくらいですが。」


ゼノス「ぴぃぴぃ煩い女どもだ。まぁ、いい。今だけは見逃してやる。その女を連れて、とっととアーマグ大陸へ行け。俺はそこで待っている。今よりも強い勇者になっていることを期待しているぞ。」


フィーネ「あの……、貴方のお名前は……」


ゼノス「フン、今は言わん。今度会う時は俺が名乗っても良いと思えるくらい強くなって来い。」


 そしてゼノスは体から激しいオーラを纏い、勇者に今のお前達には絶対に勝てないとその光だけで言わしめた。


アルフレド「あぁ、なってやるさ。みんな!フィーネが心配だ。フェリーに急ぐぞ!あいつのことは忘れろ!」


 アルフレド、エミリ、マリア、ソフィア、キラリはフィーネを急いで解放した。

 そのフィーネの目線の先には、顔の一部以外、肉の塊にしか見えないレイが散乱していた。

 憔悴しきったフィーネが蛆虫を見るような目をソレに向ける。

 そして全員がそれぞれに罵声を浴びせ、軽蔑した目を向けた後、その場を立ち去った。


 そして冷たくなったレイを見て、ゼノスは言った。


ゼノス「勇者の仲間で一人、どこまでも悪辣な男がいることは聞いていたが、こいつのことだろう。さて、お前達……」


           ▲


「フィーネ!大丈夫か?」


 アルフレド達は皆、フェリーに乗っていた。

 フェリー会社が車を乗せてくれていたらしい。

 そして船は、そのまま港から離れていった。


「って、あれ? あたし達……。なんで?」


 エミリが不思議そうな顔をしている。

 無理もない、彼女はほとんど死にかけだった。

 この世界では欠損すると回復しない。

 けれど、その体が元に戻っている。


「それより……、フィーネ。大丈夫?えっと……。レイは……その……残念だったけど……」

「うん。やっぱりレイが言ってたように……、なっちゃって……」

「…………」


 マリアが複雑な顔でフィーネに話しかけた。

 エミリもどういう顔で話しかければ良いか分からなかった。

 彼女は本当に嫌がっていた、その言葉は今でも耳に残っている。

 ソフィアも黙ったまま。


 全員が何を言えば良いのか、分からなかった。

 フィーネに話しかけて良いのかも分からない。


 そのフィーネはずっと憔悴しきったままなのだ。


 ただ、色々と納得できないことが多すぎるのも確かだった。


 ——そして、その時。


「違う……。違う、そうじゃない。こうなる筈じゃなかった……。」


 彼女が話し出す。


「フィーネ?」


 全員が彼女に駆け寄るが、彼女は頭を掻きむしり始めた。


「違うの!全然違うの!レイの嘘つき!レイの嘘つき!嘘つき嘘つき嘘つき‼‼ レイのバカーー‼私、何もされてない……。私は下着に浮かび上がった文字を読んでいただけだった。いつの間にか私が履いていた下着が別の下着とすり替わっていた。そして暗くなった瞬間に文字が浮かび上がってきたの。そして私は何故かそれを読み始めた……。」


 ここで皆が目を剥き、息を呑んだ。

 アルフレドは見るのを憚ったが、他のヒロイン達は彼女の言葉でつい見てしまう。

 今、フィーネが履いている下着は、彼が頭に被っていたソレだった。


「そして……、あれは間違いなくレイの文字だった。レイも声出してただけ……!本当に何も……何もしなかった……。体を固定して、装備を脱がしただけ。その後は近づきもしなかった。彼は私に何もしなかった。嘘つき……、いえ嘘つきなのは私。私、それなのに、酷い……こと。これから……私。嫌だ、嫌だ、嫌だ。レイ、レイ、レイ‼私、私、私——。私が嘘つき……。レイは全然悪くないじゃない……。それなのに、私……あいつを……。ああああああああああああああ——‼」


 アルフレドはそれ以上は何故か不味いと直感した。


「ソフィア、頼めるか?」

「はい。スリー……、フィーネさん?」


 アルフレドは彼女の肩を抱き、ソフィアに目で合図をした。

 今の彼女は危険な状況だった。

 その理由はなんとなくしか分からないが、彼女が錯乱しているのは間違いない。

 ただ。


「ソフィア……。ダメ。眠らせないで。私、大丈夫だから。変な事、これ以上考えないから……」

「そうですか。分かりました。」


 大きめのタオルを頭から被っているフィーネはソフィアの魔法に抗った。

 そして、今は泣き続けている。


「フィーネは休ませるとして。それよりも事態の把握が先だ。……だが、そうか……。俺たちは守れなかったってことか……。だが、今回は全く意味が分からない。レイは死んだ。それは間違いない。そして二つの記憶。俺は死んでいた?死にかけていた?レイが何故?」

「アルフレドも落ち着いてください。一つだけはっきりしているのは、レイが私たちの為に犠牲になったことです。多分、あれがむーびーいべんとの強制力と呼ばれるものです。」


 ソフィアは彼の言葉を全て真実だと飲み込んでいた。

 フィーネも分かっているが、今の彼女に考えさせるのは酷だった。

 そう思った時、ソフィアはあるものを見つけた。

 彼女だから分かることだ。


「フィーネ、ちょっと失礼します。……これって、私のハンカチ?私のハンカチが下着の間に挟まっていました。これは私がレイに預けていたものです。」

「あの……。ソフィア。それをあたしに貸して? 先生がそれをやったんでしょ?それなら何か意味があるんじゃないかな」


 絶望に耽る中、エミリにある考えが浮かんだ。

 勿論、その場の全員がそれに同意した。

 そのハンカチには意味がある。

 だから、彼らはフェリーの中に消えていった。


 ——そしてエミリの勘は見事に的中する。


 エミリは彼を信じている。

 だから、意味がないことをする筈がないのだ。


「やっぱり、フィーネの話は本当だった。暗くなるほど……」


 フェリーの中に、暗い場所に行けば行くほど、文字が浮かび上がってきた。

 その文章に彼らは言葉を失った。


『俺、死んだんだな。じゃあちゃんと上から下に呼んでほしい。』


 その言葉で始まる文章は、彼らへの謝罪で溢れていた。


悪かったよ、アルフレド。

  いつもかき乱して。

  頑張っている姿はちゃんと見ていた。

  もっと俺が悪役に徹してやれば良かった。


魔法の使い方が完璧なソフィアへ

  ずっと支えてくれてありがとう。

  でも、それを突き放すようなこと

  結局、死んでしまって悪かった。


で、エミリ。

  いつも慕ってくれてありがとう。

  いつも笑顔をありがとう。

  その気持ちに応えられなくてごめん。


蘇生魔法が使えるマリアへ、

  もっと甘えさせてやりたかった。

  また違う人生で甘えてくれると

  いいな。


る……?キラリさん……、

  話してないので、分かりませんが、

  彼女は魔物破壊兵器が作れます。

  使用上注意してください。


よ。フィーネ。

  ちゃんと気付いていたのに、

  何もできなかった俺を許さなくていい。

  その分アルフレドを支えてほしい。



 殴り書きというか、なんというか。

 彼のどうしようもない悲しみが伝わってくる。


 キラリだけは微妙な顔をしていたが、彼女はそもそもレイと面識がない。


 なんで自分のことを知っているのか、と考えているのだとアルフレドは思った。

 そして、彼女には彼についての話をたくさんしようと思った。


「何これ……。許すとか許さないの問題じゃないじゃない!私……、もう。この旅を続けたくない!私が謝りたいの!私に……謝らせてよ……」


 フィーネはその文章を読んで絶望した。


 アルフレドもエミリもマリアもソフィアも絶望に暮れる。


 彼は最初から最後まで誰かのために尽くしてきた。


 そして彼は結局、尽くし続けた仲間のために死を選んだ。


 彼がずっと警告していたことも、全て台無しにしてしまった。


 だからみんな、泣いている。


 ずっと泣き続けている。



 ただ、キラリはそんな彼らの気持ちは分からない。



 だから、彼女はただ首を傾げてこう言った。




「ん? …………縦読み?」

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