第50話 五人目のヒロイン

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 赤煉瓦造りの建物が目立つ巨大都市、この大陸で最も栄えた街、デスモンド。

 そこに黒髪のショートボブの少女が住んでいた。

 彼女の名前はキラリ。

 両親はいない。

 けれど大切に自分を育ててくれる祖母がいる。

 そして祖父は不思議な本をたくさん持っていた。

 そのせいで目が悪くなってしまったが、昔祖父からに教わった手順通りに作れば。

 ほら、簡単にメガネができてしまった。


キラリ「うーん。なんか足らない。うーん。そか。ここには視覚センサーがいるのか。でも……、洗濯機に視覚センサーっているかなぁ? あれ、こっちの扇風機にはオートマッピング機能が足りない。半導体不足のせいかな……。ああ、そういえばうちのエアコン、ハンドルとブレーキとクラッチとサイドブレーキとそれを扱える機械が足らない!!」


 少女が作りたがっている超高性能洗濯機には視覚センサーが足りなかった。

 そして扇風機にはオートマッピング機能が足りなかった。

 そしてエアコンはもっと色々なものが足りなかった。

 そして少女はもう一つの家電に目を向けた。


キラリ「この猫型ロボットの部品を使えば……」


 猫型ロボットはロボット三原則に基づいて行動する……ようには出来ていない。

 だからご主人様の言いつけは守れないとロボットは、キャタピラをフル回転させて眼鏡少女のワンルームもとい研究室から逃げだそうとした。


キラリ「無駄だよ。君の履帯は君が眠っている間にテープレコーダーに変えていたのさ。だからどれだけ逃げようとしても、横スクロールアクションのタイムリミットが近づいた時になるBGMしか鳴らないよ。」


おばあちゃん「リタイ テープ チガウ ソレニコレ セントウビージーエム ソレニワタシ オバアチャン デモ ネコガタロボット デモ ナイ」


キラリ「なんだ。そうだったのか。キラリしょぼん。両足の駆動パーツとその丸っこい腕がちょうどいいと思うんだ。あとその大きな目も、きっと僕の作品にぴったりだと思う。ちょっとだけでいいから貸してくれる?」


DSW-001 「ロボット サンゲンソク カキカエカンリョウ テープ ヲ リタイニ カンソウ」


キラリ「僕から逃げる気? そうはいかないよ。君が僕のワンルーム研究所の快適を運んでくれるんだ。」


 デスモンドの街並みは近代ヨーロッパのような街並みだ。

 その中でキャタピラをフル回転させる猫には見えないロボットとそれを追いかけるメガネと白衣の少女。

 それは誰の目にも明らかなおかしな人だった。

 そして彼女の運命はそこで、まるで別のものに変わった。

 彼女がおばあちゃんだと勘違いしていた猫型ロボットでもなかったDSW-001も数奇な運命を辿ることになる。


レイ「なんか、儲かりそうな街だな。俺様も超強くなったんだ。ここで王国でも作れそうだ。ん?なんだ?あれ……。だー‼‼ぶ、ぶつかるぅぅぅぅ‼‼」


 この世界であってはならない自動車事故が起きた瞬間だった。

 と言っても道路交通法でもあれば、レイは被害者であり、加害者はDSW-001。

 そしてその所有者のキラリだろう。

 ただ、そんな解説も虚しく、レイは衝撃で車から飛び出して目を回した。


キラリ「さぁ、DSW-001。いや、おばあちゃん。逃げ場はないよ? あれ? あれれれれれ?これ……昔おじいちゃんが言っていなかった方のDSWじゃなくてステーションワゴンの方じゃないか。今もちゃんと手入れがされて、されて、されてなーーーーい!」


DSW-001「タスケテ オジイチャン……」


キラリ「うん。助けよう!おじいちゃんとおばあちゃんを合体させるんだ!」


アルフレド「ちょっと、君。大丈夫か?……って何をしているんだ。これは俺たちの……」


キラリ「おじいちゃんとおばあちゃんは相性抜群だよ? こうかばつぐんだよ?僕の治療の腕を信じてよ。」


フィーネ「ちょっと、この車は私たちの……


キラリ「ご家族の方ですか? 残念ながら、このステーションワゴンはDSW-003。ドラゴンステーションワゴンを無事生まれました。男の子です。いや女の子です。……どっちもです。」


エミリ「ねー、どうなったの? 車、もしかして壊れたのー?」


マリア「え、え、でもこの車……」


ソフィア「こいつ、動くぞ!」


 ドラゴンステーションワゴンの生みの親は無くなった運転席のドアを丁寧に溶接した。

 そして、ささっとアルフレドの前に来てお辞儀をした。


キラリ「これが今から僕の家だよ?」


 そう言って、彼らは全員仲良く後部座席に乗り込み、街の中心部へ向かった。


 そこに戻ってくる大柄で銀髪の男


レイ「俺の……運転席が……」



          ▲


 デスモンドに車で突入すると始まる強制ムービーイベント、謎の少女キラリがどれだけぶっ飛んだキャラか、レイは身を持って経験した。


 リメイク前はたった四人でここまで来て、そこでレイモンドがただ裏切るという設定だった。

 それがリメイク後には車をもたらす新キャラ・マリアと車を改造し、レイモンドが仲間から外れるきっかけとなる新キャラ・キラリが追加された。

 レイモンドだけの為に追加されたキャラ。

 当然、車がぶっとんでいるのだから、その車の改造が出来るキャラもぶっ飛んでいなければならない。

 いわゆる彼女は「電波ちゃん」だ。

 天然なのかボケなのか分からないが、実際に会うことは無さそうなのでレイには関係ない。

 あとは勇者様がこのデスモンド市の市長に、勇者の威厳を示すことが出来れば、


「おお、其方こそ、あの伝説に残る光の勇者様!」


 と言われて、フェリーのチケットが手渡される。

 そしてその威厳を示せるだけ、彼らは強くなった。


「頑張ってくれよ、アルフレド。そしてみんな。」


 あの強制ムービーシーンはレイモンドを無理やり別れさせて、後の裏切りに向かわせるイベントでもある。

 だから作中でもあそこでレイモンドは姿を消す。

 そして彼はフェリー乗り場の直前で再び彼らと合流する。

 それが意味することをレイはなるべく考えないようにしていた。

 レイモンドが必要なムービーシーンはレイモンドがいなければイベントカットされる。

 つまりあれが起きたということはパーティ全体がレイを仲間だと認識していた。

 レイもデスモンドに向かう途中、レザーアーマーが現れたという自覚はある。


「でも、今は消えている。俺を救う為に世界を救う……か。なんかこう……くすぐったいな。」


 世界を救う目的が平和ではなく、一個人を救う為。

 彼女達が考えた必死の言い訳だ。

 そう考えなければならないほど、全員からの信頼を得てしまったこと。

 それに彼は色々と後悔している。

 けれどそれぞれが、あの時はああするしかなかったとしか、今は言えない。

 経験値稼ぎに向いている場所、戦闘に役立つアイテムの入手、それにおすすめ装備。

 彼らはこれから先も戦わなければならないし、アーマグ大陸にある街で新たな武器や防具を買わなければならない。

 だからその為にお金稼ぎ。


 そして……


 この世界にゲームのような勇者の生き返りがあるのかは未知数だ。


「いっぺん死んでみる?」


 なんて気軽には試せない。

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