第49話 ヒロイン達

「てやぁぁぁ‼よっ! ほっ!大車輪蹴り!!」


 マリアは軽快に拳と蹴りを交えて、最終的にスキルで決めた。

 桃色の髪を振り乱して戦う姿はまさに戦少女だった。

 彼女は敢えて魔法を使わず、体術だけで戦っている。

 かれこれ数時間、彼女は戦い続けている。


「ちょ……ま、待って!待てって!スキルはなしだろ!死ぬぞ?急所に当たったら死ぬからね⁉ てか、俺を倒さずに、モンスター倒せよ!」


 彼女が戦っていた相手は、元ニイジマだ。

 彼女の世界を変えた男でもある。

 だから彼女は嬉しくてたまらなかった。


「えーー。だって、もう今日の分の経験値はとったじゃんー! アルフレドも協力するって言ってるんだしー。順調に行ってるってことじゃん!」

「そりゃ……、そう……、だけどぉ! 何時間、俺は戦わされるんだよぉ!」


 レイは彼女の攻撃を完全には躱し切れず、擦り傷だらけになっている。

 かといって、これも修行といえば修行だ。

 ここはコマンドバトル方式ではない。

 アクションバトルなのだから、プレイヤースキルは重要である。


 ——特に、人間型には決まる攻撃だろう


 そして彼女の足払いは見事に彼の足を払い、彼は転倒した。

 そして彼女は転んだ彼に飛びかかった。


「だって、今日はマリアの日だもん! いっぱいいっぱい甘えないと意味ないじゃん!」


 今日はマリアの日、明日はソフィア、明後日はエミリ。

 アルフレドは隊列の指揮なども学ばなければならないため、必ず別行動をとるようにしている。

 そしてフィーネはアルフレドと必ず行動をとることを条件に、レイが組んだスケジュール通りにレベル上げをしてくれることになった。


「甘えると戦うは違うんじゃないかなぁ?」


 彼がそういうと、彼女は思いっきり彼をハグした。


「だって、もうすぐお別れなんでしょ? だったらいっぱい充電したいの!」


 彼は彼女の言葉に声を失う。

 その代わりに背に手を回して抱きしめ返した。


「ねぇ! まだ解雇ってしてないわよね!」


 彼女は目をキラキラさせて、彼の顔を見た。そして彼は一度空を見上げた後、


「確かに。」


 と答えた。すると彼女は桃色の髪を指先で遊ばせながらこう言った。


「じゃあ、おんぶして?」


 すると彼は「どうぞ、お嬢様」と言って、屈んで彼女を受け入れた。

 彼が歩き出すと、彼女は後ろからぎゅーっと抱きしめた。

 そして彼の背に顔を埋めて、そのまま眠りについた。


「あれ。でも、お給料……」


     ◇



 エメラルドグリーンの髪を靡かせて、少女は銀髪の大柄な青年の手を引いて歩いた。

 彼女は彼に見せたいものがあるという。

 そして彼女は手を繋ぎながら、頭上を指さした。


「あれをやってほしいです。ふわぁ!ってやつです!」


 その言葉を聞いた青年は少女をお姫様抱っこして、人間離れした跳躍を見せた。

 そこは小高い丘になっており、少女は青年の腕に右腕を絡ませ、青年の腕に顔を当てて目を瞑った。

 青年は何かを見せたかったのではないかと少女に言ったが、少女は何も言わずに微笑んだ。



 赤毛の少女は銀髪の青年に洞窟の穴に入ろうと言った。

 青年は一度難しい顔をしたが、すぐに笑顔になって頷いた。


「先生……、あたし……。ずっと謝りたいって思ってた。もっと早く……、言えればよかったのに。あの夜、あたしはレイ、貴方を疑いました。その……、償いを……したいの……。レイのお願いだったら、なんでも聞きたい……。」


 すると青年は頭を掻きながら、彼女に言った。


「エミリが本当は信じてくれていること、俺は気付いていた。だから大丈夫。平和になったらいっぱい話そう。」



 桃色の少女は深い深い森の中で、銀髪の青年に言った。


「あの……さ。マリアを……、ううん。私のことを叱ってください。私……、あの日、貴方にひどいことを……死ねって言った……。ごめんなさい……」


 少女は自分の頬を差し出した。

 青年はその頬を軽く指で弾いてから、頭を撫でてこう言った。


「実は結構、傷ついたんだぞ。最初に突き飛ばされた時もな。」


 そして青年は桃色の髪をくしゃくしゃになるまで撫で回した。



 銀髪の青年は星空の下、どこまでもどこまでも走っていた。


 仲間は誰もいない。


 ここは彼だけの世界だ。


 彼は今、生存まで後一歩のところまで来ていた。


 世界が自分を殺そうとする。


 彼はそれを、


「知ってた」


 と言って、軽く笑い飛ばした。


 彼はこの世界の敵であり、主役である。


 その主役の座からついに降りる時が来た。


 そのための準備ならいくらでもする。


 元仲間を救う為?


 自分を守る為?


 どっちみち、自分の為に彼は必要な知識は惜しまず与えた。


 彼の友人、金髪の青年はちゃんと勇者をしている。


 すでにレベルは30に達し、まごうことなき世界の救世主になった。


 その彼とともに在る水色の髪の少女はなんと賢者になっていた。


 彼女の到達したレベルはおよそ40だ。


 勇者よりもひたむきに努力をしたのかもしれない。


 彼女は愛すべき勇者を守る為に辛酸を舐め、もっとも嫌う男の命を救う為に泥水を啜った。


 赤毛の少女は露出度は思ったより高くないが、頑強な鎧を纏う剣士となった。


 彼女は師の為に魔物を断ち、魔族を討ち滅ぼす。


 桃色の少女は妖艶な魔法武闘家になった。


 そして彼を守るために世界を守る。


 エメラルドグリーンの少女は慈愛の美少女となり、人々の痛みを打ち払う存在となった。


 時に厳しく、大体優しい。それが彼女が彼女たる由縁だろう。



 青年は一人、運転席に座る。



 彼が語らないので、敢えて語るが、



 ——ポイントは殆どのイベントの起点はヒロインが持っているということ。



 そういう意味では彼の途中の解釈は、一部間違っていたことになる。



 けれど、彼もすでに気付いている。



 後部座席には世界を救う勇者様、そしてその仲間達が座っている。



 彼はそれを確認して、誰にも聞こえないのにしっかり声に出して言った。



「恨みっこなしだ。——さぁ、デスモンドへ向かおう!」

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