第45話 信頼度の差

 レイが彼らに日の入りまでにして欲しかったのが装備一式の購入である。

 彼らは彼らの感覚で、レベル上げを行っている。

 勇者アルフレドはステータス値が見えないと言った。


 それはレイと同じ条件だが、彼らはモンスターの所持金と経験値を知らない。

 勿論、それは実際に増える金額と感覚でどうにか補完できる。

 だが、効率的なスポットを知らない。

 そこを教える前に喧嘩別れしてしまった。

 そして、もう一つ。

 まだまだ、レイが主導権を握っていた頃のペースで行動している。

 次のステージの適正レベルが曖昧な上、自分たちのレベル値も分からない。

 これは流石に初心者にハードモードでやらせているようなものだ

 

 そして結局、彼らは二時間程度かかって装備を揃えた。


「ドパ先!私、こんな感じでどう?」

「問題ない。」


 エミリとマリアが一番わかりやすかった。

 エミリはスケイルメイルに鉄の盾、そしてロングソードを手にしている。


「どぱせん?パンジマ、マリアのは良い感じでしょ?」


 マリアの武道着は変わらないが、胸当てと手甲をつけているので、彼女の戦い方を活かせそうだった。

 加えて、足当ても動きやすさと攻撃力を重視した物だ。


「アリだな。上手く戦えそうだ!」


 新キャラならではのセンスの良さが出ている。

 問題はアルフレドとフィーネだった。

 二人とも革の鎧のままだし、アルフレドがロングソードを新調した程度だった。

 どこかに遠慮が見られる。


 そして、二人だけ報告をしない。

 ただ、チラリと見せただけ。


 これは先行き不安だなと思ってしまう。

 ただ、そんなことを言ったら、レイはゲーム上の全裸状態のままだ。

 強いて言うならマスクで防御が1増えた程度だろう。


「とりあえず、夜になってくれたのはラッキーかな。でも、多分これを外しちゃダメなんだろう。次の宿場町までとりあえず行くかぁ。」


 運転席に乗るレイに一つの変化がある。

 マスクドパンツマンは置いておいて、バックミラーの位置をちゃんと後ろが見えるようにしている。

 勿論、それはソフィアが心配だからだ。

 彼女は彼らとの出会い方を間違えた。

 あれもある意味で自分のせいとも言える。

 ただ眠らなかったとしても、彼らと同行する未来はありえなかった。

 だから、もっと前から間違えていたのだろうと、考えても意味のないことを考えてしまう。

 ただ、毎回バックミラーを見る度にソフィアと目が合うのは、あまり良い状況とは言えない。


「やっぱり心配だな。」


 レイはマスクドパンツマンを辞めた。

 村を離れてそれなりの距離を進んだ。

 ただ、ソフィアはその二つは念のために持っておくように、とレイに伝えていた。

 だから彼はソフィアのハンカチ、パンツ、女王様マスクと、頭を抱えたくなる組み合わせの預かり物をしている。

 そして宿場町を目指すではなく、近場の休憩ポイントを先ずは目指した。

 因みに、この車には特別な力がある。

 レベルの高い者に合わせて、敵と遭遇しづらくなる何かが出ているらしい。

 だからロングドライブも可能だろう。

 けれど、ソフィアの精神と、彼らのレベルが心配だから行き先を変えた。

 ちなみにこの休憩ポイントにはヒロイン好感度アップポイントがある。

 そこを使えるのなら使いたい。


「っていうか、まずは寝ることからだな。勇者様、明日、明後日ここで狩りをしたい。で、問題が発生するかもしれないからその時はよろしく。」

「それも決まっている未来、ということか?」


 彼は別に未来預言者ではない。

 でも、勇者からはそう見えても仕方ない。

 だからレイは丁寧に頭を振った。


「違う。この二日はただのレベル上げだ。ソフィアが加入したら一人余るだろ。それを俺が担当したいってだけだ。」


 彼はそう言って、久しぶりに車をベッドモードをオンにした。

 ソフィアは初めて見る光景だったから食い入るように、それを見つめていた。

 ただ、しばらく眺めた後、悲しそうな顔でレイの所に戻ってきた。

 一応、車がどういう趣旨でできているかは説明している。

 だが、それが本当だったと実感したのだろう。


「レイと私が交代するというのはダメなのですか?」


 その言葉にレイは軽い笑みを浮かべて説明した。

 そう考える気持ちは分かる。

 最初は色んな可能性を考えた。

 でも、それをやるとベッドモードが元に戻るだけでなく、ドアも閉まらない。

 更に残酷な事実を言えば、以前にも確認した通り勇者+ヒロインの人数分の椅子が出現する摩訶不思議な車だ。

 レイが乗れば椅子そのものが消失する。

 徹底的にレイモンドを追い詰めるために作られた車なのだ。


「どこまでもレイに冷たい世界……なんですね。」

「問題ない。その世界ももうすぐ終わる。だからこそ、ごめんな。」


 その瞬間、脇腹に痛みが走った。


「どうして、その子にだけ優しいんですか……」


 エミリがレイモードを狙ったのだろう。

 けれど、発動しない。

 それ自体が彼女に対する答えだった。

 彼女がヤンデレ・エミリに変わらない理由も、間違いなくソレだろう。

 モブキャラに恋するヒロインは多分いない。

 それこそエンディング後の世界線だ。

 だから、彼女はそれを悟ったのか、一人で車に戻っていった。


「好かれているんですね。」

「そうだな。みんないい奴なんだ。だからソフィアもその中に加わってくれると嬉しいかな。」

「分かりました。レイの縛りが無くなるのは、魔王を倒した後なんですよね。だったら私……がんばります。」


 ソフィアは恐る恐る車に向かう。

 勇者パーティが気を使ったのか、元々そうなのか、彼女のベッドは一番運転席に近かった。


     ◇


 次の日の朝は何の問題もなくスタートした。

 ソフィアが何も言わずにレイについていったからだ。

 今までと変わらないスタイル。

 今までと同じメンバー。

 流石に問題は発生しない。

 そして、これはレイが仕組んだことでもある。

 ソフィアにも、ちゃんとした戦い方を教えたい。

 だから敢えてアルフレド達に何も言わなかった。


「まず、敵のタイプを把握すること。ソフィアはアンデッド系にはほぼ無敵の力を出せる。勿論、この周辺に限る話だけどな。それから動物、獣系は気をつけた方が良い。……って、あれ? そんな武器だったっけ?」


 レイの耳元で何か飛んでいると思ったら、ソフィアが鞭を振っていた。

 そういえば昨日は彼女、武器を持っていなかった。


「はい。修道院で使う道具をそのまま持ってきちゃいました。」


 確かに教鞭を振るうとか言うくらいだ。

 村人の教育も担っている修道院では、これくらいが当たり前かもしれない。


(って思うかよ!どんだけ闇を抱えてんだ。あの村、滅びないかなー。)


「そ、そうか。すでにそれを持っててくれるのは助かる。あとは敵に遭遇して、最初に確認するのはグループだ。それから急所を狙える時は確実に狙え。この世界は確率じゃない。技術でなんとかなる世界だ。そして逆も言える。即死攻撃が必ずあると考えること。それから、あんな感じに敵が彷徨いている。あと、これ。目を通しておいて欲しい。」


 レイはマップとモンスター出現場所、出現率を手渡した。

 攻略サイト頼りではなく、自分で計算したものだ。

 だから殆ど頭に入っている。


「全くもう……。こんなに至れり尽くせりだと、成長する人も成長しませんよー。でも、さすがマスクドナイト様です!」

「いや、今もうマスクつけてないんだけど。」

「いつでもつけていいですよ。デスモンドの街で必要かもしれません。」


 今の彼女に言われると心が痛い。

 彼女はそのあとアーマグ大陸に渡って戦いを続けるのだ。

 命惜しさで逃げ回るレイとは違う。

 けれどレイには確実な死が待っているから、一緒に行くことは出来ない。

 すると彼女はいきなり魔法を唱えた。


神聖旋風斬ホーリースリリング!」


 この地域は成金カラスの上位互換、地主カラスが大量に発生する。

 そして彼女の悪魔的センスは旋風の中にガラス片を混ぜていることだ。

 それに神聖魔法が上乗せされているのが、この技の特徴らしい。

 つまり魔法とドSスキルをいきなり併用した。


「あれ?もう壊れちゃった……」


(恐ろしい子!)


「あ、うん。それで、そのままでいい気がしてきた。なんか……、ごめん。」


 設定のドSの一言で、レイが最初にぶち当たった「生き物を殺す」を平然とやり遂げた。

 心優しき清楚担当とはどこへ行ったのだろう。

 勿論、彼女は優しい。

 すごく優しいんだけど、ちょっと怖い。


「それと、こんな感じで闇地獄ダークネクネ!って感じで戦闘用って思っている魔法も普通に使えるんだけど……」


 ちょうど今は敵がいた。

 だからその瞬間に風切り音がした。


「敵がそこに居そうってところにあらかじめ唱えとくのもあり……」

「かわいい!ぬいぐるみさんみたいですね!もう、壊れちゃったけど……」


 マリンコウモリん、ごめんなさい!誰だ!ソフィアに妙な拗らせ方してた奴!!


「なんか、物覚え凄くない?」


 設定の問題、そしてレベルが高すぎる、さらには自分が見落とした設定があるのかと思った。

 けれど、ソフィアは彼が恥ずかしくなるような答えを用意していた。


「え……、そうですか?私はレイの言いつけを守っているだけですよ?言われた通りを、そのまま実行しているだけです。だってレイが嘘をついてないって分かってしまいますので……。やっぱり可愛くない……ですよね。よく、叱られました。」


 ソフィアの言葉にレイは現実を見た気がした。

 大人は嘘をつく、大人は正しい。

 それが混在するから子供は迷いながら生きる。

 大人がつく嘘は大抵が他に隠し事があったり、別の狙いがあったりする。

 けれど大人が正しい時というのは、その人が過ごして感じた経験を元に話していることが多い。

 だから子供にとっては耳が痛くても、大人になってからその意味を改めて知ることが多い。

 でも、彼女には迷いがない。

 だからレイが言ったことを、レイがゲーム上知っていること、レイがこの世界で経験したこと、そしてレイが両方を合わせて導き出したことを。


「いや、可愛い。ソフィアが可愛いは当たり前だって。」

「まぁ!逆に私が照れてしまいますね……」


 その全てを嘘を見抜く彼女は、正しいと考えてことができるから、即実行に移せる。

 決して勇者パーティが悪いわけではない。

 もともと信用度が低いだけでなく、その後に意味不明な言動をとってしまった。

 嘘を見抜けるソフィアの方が単に特別であり、他の皆が普通なのだ。

 なるほどな、そう思って、レイは彼女の後ろに回り込んだ。


「頭で分かっていても、感覚で掴まないとダメだぞ。」


 後ろからワンダーオークが長槍を構えて投擲していた。

 だからレイはそれをロングソードで撃ち落とした。

 そして「牛歩戦術トローン」の魔法を唱えて、ソフィアにパスを送った。


凍える吐息シバリングエア!そっか。ここ、もうモンスターマップが変わってる。」

「その境界線が曖昧な時もある。だからなるべく移動する前に確認することな。出来れば歩いた雰囲気で分かるようになってほしい。」


 氷漬けのワンダーオークは、彼女が話した直後に鞭でバラバラに砕かれた。


(これは後々、いや明日か明後日には揉めるだろうなぁ)


 ソフィアはすでにデスモンド攻略に必要なレベルに達している。

 デスモンド攻略が余裕でいけるのがレベル25。

 これがレイモンドのレベルが25程度にしかならない理由でもある。

 レイはそのコースを抜けてとんでもなくレベルが上がっている。


「とても分かり易いです。流石です!」


 だが、それは本当に不毛だ、このゲームは何度もいうが恋愛ゲー。

 レイモンドをレベル25以上にするにはレイモンドを戦闘に出しっぱなしで戦わなければならない。

 だが、そうするとヒロインの好感度が上がりにくい。

 レイモンドの好感度を上げたい人は、きっと乙女ゲーをやっている。

 だからレイモンドのレベルをここまで上げた人間はほんのひと握りしかいない。


「さて、ぼちぼち日が沈む。今日も散々狩り尽くしたなぁ。モンスターも新たにポップしないと、来ないだろうなぁ。今頃、ここはやばいって退散してそうだ。だから、そろそろ帰ろう。」

「はい! ナイト様!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る