第42話 レイとソフィアの脱出準備
指名手配の二人は蝋燭で照らされた道を進んでいた。
ここは先の秘密廊下の先でもある。
石煉瓦で作られた通路は、まるでダンジョンのようだった。
ただ、ここでモンスターは現れない。
山上からの地下通路で村の前に出る。
理屈は分かるが本当に作ろうと思ったら大変だろう。
ゲームなら形だけ、設定だけで済むが、現実世界で考えると、この抜け道作りで人が何人も死んでいる筈だ。
そんなことを考え、少しだけ鳥肌を立てる。
そして、記憶を頼りに先に進む。
「やっぱりゲームだと体感できないものってあるな。すっごいカビ臭いし、なんか魚が腐ったような臭いもするし……。味とか触り心地とかも伝わったら、色々と捗るんだけど」
「レイ、あの……、そっちは……。」
「分かってる。多分、ここだよな。——スキル
「で、できます!本当に私のこと、よく知っているんですね。驚きました。」
ソフィアは灯り魔法を使う。
すると、秘密の地下室全体が明るくなった。
ここまで来ると吸い込む空気が、とんでもない悪臭へと変わっている。
「それでも何もないんだよ。伝説の鍵か最上級魔法でしか開けられない牢獄、でも終盤に行って、ここを調べても何もない地下牢。勿論、雰囲気作りには最高だろう。やっぱり考察系のギミックはRPGには必須だからな。でも、今はここに用がある。それにこのレベル帯で仲間になるんだ、ソフィアは神聖魔法『
「レイ、すみません。その魔法はまだ……。
「あ、そうか。でも直ぐに覚えられると思う。最初はゆっくり行こうか!」
この地下牢の考察を捗らせたもう一つの理由がアンデッドモンスター、いわゆるゾンビ系のモンスターが出現するからだ。
この地下牢はいったい、何のために作られたのか。
そしてどうして彷徨える魂が出てくるのか。
リメイク前ではただの雰囲気作りだったのかもしれない。
でも、もしかしたらそういう意図で作られてたのかもしれない。
これが発端となってリメイク後の修道院は後ろ暗い組織という設定が公式となった。
ただ、それさえ今は関係ない。
地面からぼこぼこと手なり、足なりを突き出しながら、這い上がってくるゾンビやスケルトンに用がある。
グループ魔法はまだ覚えていなかったので、最初は少しずつ。
「
「いい感じだ。もう少し行こう。」
「こんなに溜まってたんですね!」
「そうだな。しばらくご無沙汰だったんだろう。」
何もない空間が存在する修道院地下通路。
だから色んな考察が捗る場所だ。
「
「いい感じ!あいつら、気持ちよさそうに逝ってるぞ!」
そう、この修道院の奥にアンデッドが溜まっている。
アンデッドが聖なる場所の地下でどうして溜まっているのか。
「
「うん、こんなに逝けるのかってくらい逝ってる……って!そろそろ止めようか!」
ほんと、ソフィアの設定を見直した奴の顔が見たい。
色々と捗らせて拗らせすぎだ。
「もう、色々捗ってるから。ソフィア、さっきの魔法って、そろそろ行けそう?」
「……イケそうです!」
製作者の思惑を考えたくないが、レイもそろそろ逝ってしまいそうだったので、次の段階へと進む。
「その階段を最後まで降りるなよ。その階段を一歩でも降りると多分後ろからも出現する。俺がゾンビとスケルトンの動きを封じるから、『
愚痴りながら、アンデッドの腕と脚を切断していく。
動けなくすることが一番楽に倒せる。
コマンドバトルでこの演出はないが、ゾンビものなら今や定番だ。
そもそもレイは現在レベル70に達している。
あのパールホワイトスラドンの倒し方がエグすぎた。
そして彼自身も自分のレベルを把握している。
今までは経験値がどんな仕組みで入るのか分からなかった。
「臭いにはなれたけど、洗いたい衝動はどうにもならないな。」
「……あの。そういうのも受け付けてます!」
「って、違うから!大丈夫!ソフィアは俺の中で永遠の清楚担当だから!」
一人なら経験値を把握しやすい。
そのモンスターの経験値がそのまま経験値だ。
だから、誤差なしに自分のレベルが70だと分かっている。
最高レベルがレベル100とはいえ、これはもう最後の大陸でも余裕で通用するレベルだ。
その彼が考えている今の勇者パーティのレベルはおよそ18から20だった。
だが、ソフィアは
もしかしたら、もっと低いレベルでここに来ている可能性がある。
そのせいで、下品な魔法ネタを使う羽目になったが、そのお陰でソフィアも戦いに慣れてくれた。
「さて、ソフィアが来て漸く四人目。……効率プレイの悪癖が出ていないといいけれど。」
「え?どうしました?」
「なんでもない。……パールホワイトスラドンの巣の前にあんなことにならなければ。」
「レイは悪くないです!それはご自分でも分かっているんですよね?」
そう、ソフィアには敵わない。
こればかりは、その通りなのだ。
その前にここでゴタゴタが存在する。
そしてこの後も。
「……そこは答えないでおく。今はこっちに集中しよう。スキル『強奪』八連!ソフィアの可愛さに癒されろ!」
強奪スキルは敵が隠し持っている大事なものであれば無理やり奪い取れる。
それがレイモンド流だろう。
レイは、眼窩付き頭蓋骨のみをスケルトンから無理やり強奪した。
こんなに可愛い僧侶様を見ながら天に行けるのだ。
側頭骨もちゃんと付属しているので、声も聞こえる。
なんと羨ましい昇天だろうか。
レイはボウリングの要領で下手投げに彼らの頭を転がして、見事にソフィアの目の前に着席させた。
女性であれば、彼女の慈悲深さに、男性であればしたから女僧侶を見上げられるという喜びで、サスティファクションは完璧だろう。
けれど人気アイドルのため、チケットは来世までお預けになる。
「天にお還りなさい。その道を私が示します。『
レイがかき集めた彷徨える五十以上の魂が気持ちよさそうに天国へと旅立った。
彼らがグループなのかは分からない。
けれど天に還すという神聖な行為なのだ。
だからみんな仲良く、彼女の声に酔いしれた。
そして神々しい光が消えた後、ソフィアが目を丸くしている姿が見えた。
「ソフィア、まだまだ行けそう?」
「……もう少しであれば。」
「分かった。なるべく一か所に集める。行くぞ!」
そして、彼女だけの為のレベル上げをする。
この作業によって、ソフィアは
推定レベルは25。
全体回復はかなり重宝する。
だから彼女の存在価値は格段に高くなる。
これでアルフレド達も彼女を丁重に扱うだろう、という彼の浅はかな思惑である。
「なんだか、清々しい部屋になってしまいましたね。私……モンスターを退治するの初めてで……。すごく感謝です!」
ソフィアは何かに確信するようにうんうんと頷きながらそう言った。
レイはなんとなく見慣れた風景だなと感じながら。
「アンデッド系は救済だよ。ソフィアのお陰で彼らの生涯は救われたんだ。」
「まぁ。凄いです!詩的です!」
「いや、それはどうだろう。それより、ソフィア。お金、どれだけ増えた?」
「今度は下世話ですね!私……、お金はそんなに……、え?えええ? なんか、小金持ちになってます。私、下世話な人間になってしまいました!」
システムだから言ってもしょうがないが、モンスターを倒すと自動的にお金が増える。
だからレイは自分の手持ちのお金を持っている、といってもレイは経験値ばかりを落とすモンスターを倒していた為、そこまでの所持金はない。
大カラス『ガーランド』三匹で600Gほど増えていたのは誤算だった。
だから、お金でソフィアにMP回復薬を買ってきてもらって、そのままそれを彼女に使った。
あの戦闘でアルフレド達はお金を得ていない。
だからレイはそれを確認した時、苦虫を潰したような顔をした。
彼らは未だに金欠状態だ。
やはりお金を渡しておくべきだとも考えている。
それはさておき、レイはそのお金とは別に今の戦いでお金が増えるかどうか検証していた。
予想していた結果だが、多少はお金が増えていた。
コマンドバトルではない世界で、パーティ戦闘をした場合は、貢献度に応じて経験値が増える。
だが、お金だけは何故かアルフレドのところに集まる。
だからアルフレドの居ない環境でのコンビプレイは、別の意味での発見を齎してくれた。
「あの……。私、ただ魔法を詠唱していただけなのに……、すみません。」
その比率は10:1だった。レイは動きを遅くしただけ。
この戦いで、経験値とお金が本来は同じ比率で割り当てられることが分かった。
つまり、アルフレドは特別な存在なのだ。
だから、レイはソフィアに「気にするな」と言って、いつもの癖で顎に手を当てて考えようとした。
「レイ、汚れた手で顔を触ってはダメです。はい、ハンカチ。これを使ってくださいね。」
「あ、ありがとう……」
彼は顔を赤くして受け取った。
元々好きなキャラだから、……それもある。
ただ、これはソフィアルートの映像のままだ。
色んな発見が続く。
——この世界のイベントスチルはヒロインに紐付けされている。
そんな当たり前のことを考えて、照れを誤魔化した。
恋愛ゲームのイベントスチルは主人公が映っていないことの方がずっと多い。
それがこのゲームにも当てはまるらしい、これは嬉しい情報である。
「あ、でも……、それお気に入りのハンカチなのです。だから平和になったら、ちゃんと返してくださいね。」
そのセリフまで同じだった。
ちなみにこれを売ると二周目以降ならバッドエンドだ。
だから二周目の選択肢が解放されたこの世界で、彼がこれを売ったら、その瞬間に世界滅亡が決まる。
でも、彼女に返す未来が本当に来るのかという不安の方が多い。
「よし、それじゃあ、そろそろ祭りもいいところだろう。正面から出て行ってやろうじゃないか。」
そして、レイばかりが得をしたこの回もそろそろ終わる。
ソフィアが絡むと、ネタバレが多いのでこれくらいが潮時だろう。
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