ごわめ はじまる

朝から散々な目に合ったが、今日は私の学校復帰の日だ。と言っても、男の頃は小学6年間ほんの数回しか学校に行ったことしかないのだが。

心配は心配だが、せっかくTS出来たのだから楽しまなくては。


「大丈夫かしら…」


そんな私をよそに母はさっきから当の本人より心配している。


「ちゃんとすぐ馴染めるかしらね…」


「大丈夫さ。美里はみんなの人気者だっただろう」


父が母を安心させる。前だったら、不登校の私に完全無視だったが、この世界では心配してもらっている。ちょっと変な感覚だ。


(さてと、着替えるか)


朝食を食べ終え、制服に着替えるために2階に戻る。

私の通う私立花京院学園百合沢小学校は幼稚園から大学までの一貫校で、いわゆるお金持ち学校だったりする。最近ではそうでもないみたいだが。


2階の部屋に入るとまだ姉が私のベッドで寝ていた。

高校に間に合うのだろうか。

このときの姉は同じく花京院学園百合沢高校の2年生だ。


そんな姉を無視し私は制服に着替える。

しかし事件だ。そういえば制服はスカートだ。


(どうしよう…)


着方もわからないし、この長い髪の結び方もわかない。

そうして固まっていると後ろから急にTシャツを脱がされた。


「キャッ」


思わず叫ぶ。

後ろを見るとそこにはさっきまで寝ていた姉がいた。


「お姉ちゃんが着替え手伝ってあげる」


すると姉は手慣れたように私を制服姿に変えた。


「ほら、安田さん待ってるよ」


私は姉に1階まで連れて行かれた。


(安田さんってだれだ?)


1階に着くと父はもう出かけたようで母しか居なかった。


「千香やっと起きたの?」


「大丈夫、大丈夫」


そう言うと姉は猛スピードで朝食を食べ始めた。


「もう。そういえば美里もう来てるわよ」


(誰が?)


母に連れられ玄関に来ると、そこには昨日の執事がいた。


「お嬢様お待ちしていました。さぁ、行きましょう」


やっと、さっきの疑問が解けた。執事の金色の名札を見るとそこに安田と書いてあった。


(この人が安田さんか)


母から執事に繋ぐ手を変え、私は高級車の後部座席に座らされた。


車が出発し、私は母に手を降った。


しばらく進むと執事が喋りだした。


「お嬢様。私はお嬢様の専属の執事の安田です。改めてよろしくお願いいたします」


「よ、よろしくおねがいします…」


「早速ですがお嬢様。今日の連絡をさせていただきます。本日は1〜3時間目まで始業式があり、4時間目は総合となっており、短縮授業で午前中に終わるとのことです」


「あ、ありがとうございます」


突然のお嬢様扱いに全力で戸惑ってなんて返答したらいいかわからない。


それから数分車に揺られ、小学校の前に着いた。


懐かしい…と言ってもいいのだろうか。あまり行ったことのない小学校。ある程度は覚えているが、初めて見るような感覚だ。


執事の手を借り車を降りる。

校門の前には校長先生と数名の先生があいさつをしている。

沢山のあいさつの声に少しの懐かしさを感じていると校門の前にいた先生が一人こちらに向かってきた。


「美里さん。おはようございます」


「おはようございます…」


茶髪長髪の若い女性の先生は笑顔で私に挨拶をした。

微かに記憶にある顔。たしか私のクラスを4〜6年生までを担当した綺月【はずき】先生だ。


「お嬢様。それでは私はこれで」


執事は綺月先生に私を託すとどこかへ行ってしまった。


「それじゃあ行こうか。みんな待ってるわよ」


そう言うと綺月先生は私の手を取り校内に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る