EP-33 夜空を駆ける流星
あかん、まじで書くタイミングがない…………。なんとか一話更新です!
GW中にあともう一話いけたらいいなぁとは思ってます。ではどうぞ。
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「詳しい話は移動しながらでもいい?できればすぐにでも出たいんだ。またいつ村が襲われるか分からないから。」
そう言ったオリヴィエに付いて、ケイルは宿を出た。
向かう先はオリヴィエとフォティアが泊まっていた宿。どうやらフォティアも既に宿へと戻ってきているらしい。
辿り着いた宿の入り口。オリヴィエに連れられてケイルと顔を合わせたフォティアは気だるそうにしながらも傷は完治しているように見えた。
そんな彼女がオリヴィエの方を見てため息をつく。
ケイルがオリヴィエたちの正体を知ったことに関しては特に驚いていないようだった。
「本当に言ったのね。あれだけ慎重に行動しなさいって言っていたのに……。まぁいいわ。ケイル、悪いわね。
フォティアの顔に抑えきれない嫌悪感が滲む。ケイルもその表情から何かあることを察していたが、フォティアが言わないのなら問題ないと意識を改め言葉を返す。
「いいよ別に。俺が助けたいから助けるんだ。」
「……そう。じゃあ行きましょうか。ゆっくり向かって間に合わずに滅んでもらっても構わないのだけれど、そうしたらリヴィが泣いちゃいそうだしね。」
「もう、ティア!!あの人たちだって譲れない理由があったんだからさ……。それにボクの傍にティアは居てくれるんでしょ?だからティアも気にしないで。」
「………ごめんねリヴィ。でも、あなたは優しすぎるわ。私はあいつらを許せない。それだけはなんて言われようとも、変えるつもりはないから。」
オリヴィエの瞳に映るフォティアはかつての同胞たちに対する義憤を隠そうともしない。フォティアなりの覚悟が顔を覗かせていた。
「……取り敢えずアインへリアルに向かいながら話そう。そもそもアインヘリアルって何処にあるんだ?」
重くなった空気を戻そうとケイルが二人に口を挟む。フォティアもケイルの気遣いに気づいたのか、咳払いをすると気を取り直して説明を始めた。
「アインヘリアルは王都よりもっと西、俗に言う三大未開拓地のうちの一つ。迷いの樹海と呼ばれてる場所にあるわ。」
ケイルの脳裏にゼロニア村が浮かぶ。迷いの樹海はゼロニア村の西隣りにあり、ケイルも狩りの際にカイルと共に外縁部に踏み入れたことがあったのだ。
思わぬ隣人の存在にケイルは目を瞬かせる。
「あそこに二人の村が……。わかった、取り敢えず急ごう。あの森の手前までなら俺も分かる。」
「あら、そうなの。じゃあ行きましょうか。移動には私達の馬がいるからそれで行くわ。」
町を囲む壁を障壁魔法で越え、三人は静かに町を出る。どうやら町の外で馬を待機させているらしい。
宿の厩舎に馬を預けることもできるはずだがどうして町の外なのだろうか。
ケイルが不思議に思いながらも二人についていくと、たどり着いたのは町から少し歩いたところにある森の入り口だった。
何の変哲もない森の中に入っていく二人をケイルも追いかける。森で生きるエルフである二人は狩人であるケイルよりも的確な動きで森を進んでいく。
それに遅れぬようにとケイルも全力で駆けていくと、ある地点で突如
ケイルの魔力強化をした五感が、ただの森とは何かが違うと鋭敏に告げている。
「!!気づいたようね。此処にはエルフの障壁魔法と幻影魔法を込めた魔導具を使って結界を張っているのよ。」
フォティアがそう言って草笛を吹く。澄んだ音が森の中を流れていく音色と、反響するかのような不思議な音がケイルの耳を打った。
その音は何かの鳴き声とも楽器の音色とも取れるような澄んだ音をしていた。
「………来たよ!」
オリヴィエの声に振り向くと、そこに居たのは二頭の馬のような何か。
その体は茶色く木の皮のような質感で、たてがみは淡い光を放つ緑色。まるで常緑の葉を持つ木が馬として生を得たかのようだった。
二頭の馬はそれぞれオリヴィエとフォティアの方に近寄りそのたてがみを擦り付けるように甘えていた。
「元気だったみ…うわっ!あはは!くすぐったいよ!」
じゃれ合うオリヴィエたちと対照的にフォティアの馬は主と似て冷静沈着で、彼女の側に控えるように立っていた。
「この子たちは“精霊馬”というの。私達の村で昔から育てている家族みたいな存在よ。普段は人目につかないように結界から出ないようにしているのだけれど、ここからはこの子たちに乗せて行ってもらうわ。」
澄んだ声で高らかに嘶いた精霊馬はやる気満々のように見えた。その緑の目には知性が見て取れ、まるで任せろと言われているようだった。
「俺はどうすればいい?」
「んー、そうね。この子もやる気みたいだし、私の後ろに乗って行けばいいわ。オリヴィエはまだじゃれ合ってるみたいだしね。」
フォティアの言葉に従って、ケイルは乗馬した彼女の後ろに乗る。精霊馬の背中はやはり木の皮のようにガッシリとしていたが、そこまで固くはないようで乗り心地は悪くなかった。
「よし、行こう!この子達なら一日としないうちに着くはずだからさ。いくよ!」
「ん?それはどういう……ッ?!」
直後、精霊馬の脚に緑の風がまとわりつき、爆発したかのようにその巨体を巻き上げた。
体表にある木目のような隙間から緑の魔力が迸るとケイルが感じていた風圧はまるで嘘かのように消え失せ、風と一体化したように精霊馬は空を駆け流れて彼らを運ぶ。
視界に映る満天の星空と広大な大地。移りゆくその景色を彩るかのように、淡い緑の魔力光が夢のような光景を創り出す。その幻想的な光景は今まで見たどんなものより美しく感じた。
「こんなに風を纏ってるのに、意外と風が来ないんだな。」
暫し無言だったケイルから零れ落ちたのはそんな言葉だった。
フォティアは柔らかな笑みを浮かべて精霊馬のたてがみを撫でる。
「それもこの子たちの力のおかげよ。ね。」
フォティアに応えるかのように耳元で風が啼く。
後ろからちらっと見えたフォティアの横顔をぼんやりと眺めていたケイルは、流れる風景に視線を戻す。自然の美しい姿をその目に焼き付けていた。
それからどれくらい経っただろうか。
だんだんと空が白み始めた頃、王都が見えた。
目的地まであと少し。
二つの流星がグラデーションのかかった空に緑の線を描いていく。
♢♢♢
───同時刻、アインヘリアルの一際太く大きな大樹に作られた部屋の中。数人のエルフが若いエルフを囲んでいる。
「なぜ、あの娘らに連絡を出した。」
一人の黒き髪のエルフが眼前に跪く緑の髪を持つ若エルフに問いかける。
彼の隣には白き髪のエルフと緑の髪のエルフが一人ずつ。その身には上に立つ者の威厳のようなものを感じさせた。
彼らに気圧されるように、跪いているエルフは冷や汗を流しながら震える声で口を開く。
「そ、それは我々エルフという原初の種族の存続の危機を救うために、あの才能だけはある”白”の娘を利用できないかと思いまして………ひっ!」
顔を上げた若エルフは咄嗟にその体を縮こまらせた。上段の白き髪のエルフが琥珀色の瞳に怒りを滾らせ自分を見ていたからだ。
「あなたたちはどこまで…………!!」
今にも飛び掛かりそうな彼女をその傍らにいた緑の髪のエルフがなだめる。
「まぁまぁ、そんなお怒りなされるな。彼もこの村のことを想っていっただけでしょうに。ふぇっふぇ。黒のも村が大切でしょう?使える物は使い倒しましょうぞ。」
黒のと呼ばれた黒き髪のエルフはその言葉を無視して、若エルフに指示を告げる。
「…………呼んでしまったものは仕方がない。あの娘らが来るまで村の守備を固めろ。今回は緑だけでなく、黒や白も動員する。失敗は許されないからな。」
「…………わかりました。では失礼いたします。」
顔を伏せ、ギリッ……という歯ぎしりの音を小さく鳴らした若エルフは取り繕った表情で黒き髪のエルフの言葉を受け入れて部屋を出ていく。
「話が終わったのなら私めも失礼させていただきますよ……。どうにも体が老いてしまっていますのでな。ふぇっふぇっふぇ。」
静寂が戻った部屋の中。白き髪のエルフが黒き髪のエルフに食って掛かる。
「どうしてあの子を呼び戻すような真似を許したのですか!!優しいあの子はきっと自分がどうなってもこの村を救おうと帰ってきてしまいます!あの子を苦しめただけの、この村を!」
白き髪のエルフの悲痛の叫びに黒き髪のエルフは何も言わない。
「もう、いいです。失礼します。」
悲しそうな顔で彼女は部屋を出ていく。
残った男はその背を椅子に預けて目を閉じた。
「すまない………。だが、永い平和には犠牲が必要なのだ………。」
その背中は先程の威厳溢れる男と同じ人物には到底見えなかった。
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