EP-30 闘技大会 -本戦 4-
フォティアとハヤテの決着が付こうとした時、オリヴィエとアリシア、そしてケイルとアーサーの戦いもクライマックスを迎えようとしていた。
セレナの援護によって動きの自由を取り戻したアリシアは躍るように剣を振る。その動きは先程までより大振りであったが、速度は増し破壊力も上がっていた。
そんなアリシアに対して周囲を火に囲まれ、自らへの治癒をしながらの戦闘を余儀なくされたオリヴィエは熱によって内から焼かれる肺と一撃一撃が致命傷となる攻撃の嵐に苦しめられている。
なにもアリシアとオリヴィエの差は身体能力だけではない。セレナによる耐熱エンチャント。これが大きな差を生んでいる。
更にセレナはアリシアへの援護をした後、ケイルの方へと攻撃魔法を放ち、アーサーの剣を強化する。彼女のような魔術師がケイルたちにも居ればまた違う状況になったのだろうか。
オリヴィエは踊り掛かってくるアリシアの双剣を弓剣で捌き続ける。だがアリシアは止まらない。それどころか段々と速度が上がってきてすらいた。
オリヴィエはどんどん悪くなっていく状況に歯噛みしながらも打開の一手を探し続ける。だが、隙も油断も見当たらない。光が閉ざされそうになった、その時だった。
アリシアの体から魔力が立ち昇った。その魔力は
アリシアの魔力が余りにも膨大だったのだ。
彼女からあふれる魔力が刻一刻とその体積を増す。あまりの魔力に闘技場を覆う障壁にもヒビが入った。他の魔法を侵食するほどの魔力。観客も呆然とし、パニックを起こしている者もいる。
そんな魔力を至近距離から浴び続けているオリヴィエは流れ出る汗をそのままに自分を覆うように魔力を滾らせる。若緑の魔力が彼女を覆い、
「君、すごいね……魔力だけでボクも倒れそうだよ。」
数本の矢を同時に接射し、無理やり距離を取ったオリヴィエがそう言うと、アリシアが息を整えながら儚い笑みを見せる。
「………ありがとう。でもこれは私の消えない傷でもあるんだ。……もうそろそろ抑えられなくなりそうだし、決めさせてもらうね。」
オリヴィエがその言葉に疑問を抱くと同時、アリシアの双剣にそれぞれ青と緑の光が宿る。
「武技の同時使用?!そんなの金級冒険者でもひと握りしか……ッ!」
返答は武技だった。
狩人武技・
──【
騎士武技・
──【
アリシアの計四つに別れた斬撃が四方からオリヴィエに襲いかかる。内二つの実際の刃を強化した斬撃と違い、武技によって作り出された魔力の刃は魔力でないと防げない。
武技の性質を素早く読み取ったオリヴィエは普段
得意の障壁が魔力の刃を止め、弓剣で左右の刃に対処する。瞬時の反応に適切な対処。それでも防ぎ切ることはできず、オリヴィエの体から鮮血が舞う。斬られたのは右脚。深めの傷にすぐさま治癒魔法を唱えた。
「アリシア!」
オリヴィエが顔を上げる。彼女の目に映るのはもはや視界を埋め尽くしそうな大きさの魔力を溢れさせ、胸を抑えながら膝をついているアリシアとそれに駆け寄るセレナの姿だった。
微かに
まるでそんな彼女を隠すかのようにセレナが炎の魔法を唱える。立ち昇った炎の渦は離れた位置にいるアーサーの目にも入った。
アーサーは久方ぶりの自分と同じ力量の相手との闘争に珍しく興奮していた。自分の奥義を用いてもなお、ケイルはまだ倒れない。
『君の奥義は凄まじい。まさしく奥義と呼べる物だろう。だがそれ故に君はライバルを作れない。現状それほどの力を持つ者が君より上位の者しか居ないからだ。』
斬り上げを巧みに受け流し、次の振りが繋がらないように攻撃を挟む。
『でも、もし十二柱のどれでもいい、君と同じ
振り下ろしをギリギリで躱し、剣から溢れる魔力の余波を体表を覆う薄い魔力で受け流す。
『その人と君はきっと仲良くなれるよ。』
水平斬りを距離を開けることで回避し、その軌道から放たれた魔力の斬撃を魔力の発散で蒸散させる。
ケイルの絶技とも言えるほどの対応に、アーサーは久し振りの純粋な楽しさを覚えていた。
こんな時間が続けばいいのに。
そう思ったアーサーに、神は試練を与えるかのように水を差す。
視界の端で炎の渦が立ち昇った。
これは予め決めておいた合図。
ケイルの目に映るアーサーの瞳から喜びが消える。
「ごめん、ケイル。ここで決めることにするよ。もし決まらなかったら君の勝ちだ。」
アーサーの瞳に宿る焦燥感。
ケイルが訝しむ様な表情になる。
「何を言ってる?」
アーサーが一瞬目を逸らして小さな声で呟く。
「……この試合が終わったらこの前行った酒場に来てくれないか。そこで全てを話す。」
「おいちょっとま、」
ケイルの答えを聞く前にアーサーは奥義を
「【
アーサーの剣をさらに濃い青が覆う。
空気が揺れ、障壁が割れた。
闘技場にもヒビが入り始める。
観客はただならぬ事態に我先にと逃げようとしている。
開始時と同じ場所か疑うほど雰囲気の違う舞台の上で、アーサーが剣を振り下ろす。
時を刻んで強化されていく斬撃はその過程を記憶している。
英雄の在り方はその軌跡が示す。
全ての軌跡を一振りに懸けたその一撃は今までとは比べ物にならないほどの威力を誇り、モーセが割った海のようにその斬撃が作る道は
ケイルは本能的に武技を発動した。
狩人武技・
──【
呟かれた言葉は何だったのだろうか。ケイルの体を白の光が覆う。複数のレンズを通して、迫りくる斬撃を解析。手甲に【
武技によって軽減吸収された斬撃はまだその力を失わない。大蛇の尻尾と同じように手甲の効果で速度を失ってなおその軌跡は英雄の在り方を示そうと力を増す。
ケイルが魔力を全開にする。
闘技場から溢れんばかりの白が青を、世界を埋め尽くした。
光の中で、ケイルはレンズや手甲、マントが形を変えたように見えた。
闘技大会、銀級以下の部。決勝戦終了。
重傷者:二人。【聖女】の元へ搬送。
♢♢♢
………はあなたと共に……
………らいしかで………
…………私の………………ださい。
♢♢♢
「ッッ!!」
白い天井と遠くで聞こえる懐かしき声。
ケイルが目を覚ましたのは決勝戦の日の夕方だった。
体を起こして周りを見ると、隣のベッドにはフォティアが眠っており、その傍らの椅子でオリヴィエが本を読んでいた。
その横顔はいつもの天真爛漫な彼女とは違い、深い知性を感じさせる。
オリヴィエが起き上がったケイルに気づいた。本を閉じる音と共にオリヴィエにいつもの雰囲気が戻る。
「起きたんだね、ケイル。」
「あぁ。……ここは?」
ケイルの質問にオリヴィエが静かに答える。傍らのフォティアを気にして声量を下げているようだ。
「ここは闘技場の医務室だよ。試合後ケイルとティアはここに運び込まれたんだ。」
ケイルが自分の体に目を向ける。
服から除く腕には傷一つついていない。手を動かしてみても普段と違いはないように感じる。
「試合はどうなったんだ?」
オリヴィエが首を振った。
「優勝者無しみたいだよ。闘技場は何故か壊れなかったけど、観客も審判もその場にはいられないほどで運営どころじゃなかったみたい。戻ってきた審判には相手のリーダーが降参を告げていたらしいけど、こっちのボロボロ具合からそれも認められなかったみたい。折衷案だね。」
ケイルは思わず唇を噛みしめる。
本当にこの世の中には強者がたくさんいる。ケイルが及ばないほどの力を持つのは決して金級だけじゃなかった。
同年代であれほどの強さを持っているアーサーを、ケイルは羨ましいとすら思った。
ケイルが目を瞑り、深呼吸をする。
昔のケイルならここで道を見失っていたかもしれない。だが、今のケイルには自分より強い者が居ることなど当たり前なのだ。ここで折れる程ヤワではない。
(次戦ったら俺が勝つ………!!)
ケイルはその目に闘志を宿らせ、戦いの流れを思い返す。次を見据えるケイルを、オリヴィエはただ黙って見ていた。
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