EP-28 闘技大会 -本戦 2-
無事闘技大会初戦を勝ち抜いたケイルたちはその後も順調に勝利を重ねていく。
彼らの強みとなったのは各々の個人技の多彩さと全員が戦況を見据えられる能力を持っていたこと、そしてオリヴィエのサポートによる継戦能力の維持だった。
遠近両方を対応できる凄腕の剣士、それもタイプの違う二人は各々が多彩な手札を持っていた。
特にケイルの双剣を使った多彩な攻めは相手の戦型を打ち崩し、フォティアの剣と魔法を使った守りと相手の隙をついての遊撃は戦況を絶え間なく動かし続ける。
二人の対応力は他の参加者と比較しても類を見ないほどで、寄せては返す波の如く滑らかに自分たちの強みを相手に押し付けていた。
そしてそこに加わるオリヴィエの魔法。回復と障壁を状況によって使い分け、巧みに二人を補助していく。
無酸素運動の連続とも言える絶え間無い剣戟の応酬は間違いなくケイルとフォティアの体力を削っている。しかし、オリヴィエの回復は他の祈祷師と違い、一瞬で回復するのではなく継続的な治癒が行われるという特異性を持つ。
そのため急激な回復をすることで体力が失われるということもなく、それどころか付けられた小さな傷ごと体力をも回復するという始末。これには相対する敵も苦笑いを浮かべていた。
まぁ、その特異性はそれらのメリットだけでなく大怪我を負った際の治癒に時間がかかるというデメリットも存在するのだが、そこはケイルとフォティアも個人技を活かして致命的な怪我を避けることによってカバーしていた。
何はともあれ、破竹の勢いでトーナメントを勝ち進むケイルたちは観客の心を惹きつけ、魅了していく。
勝てば勝つほど舞台上部の観客席では歓声が上がり、ついには行われていた賭博で優勝予想第二位というところまで上り詰めた。
突如現れた新星たちがその鮮烈な輝きで金級トーナメントの前座に過ぎないという固定観念を打ち崩す。会場は決勝戦の組み合わせを見てより盛り上がることとなった。
優勝予想
決勝は金級以上のトーナメントと同じレベルの、もしくはその一部よりも大きな盛り上がりを見せることとなった。
ケイルたちが準備を整え、舞台に上がると観客席から大きな歓声が上がる。その歓声は今までとは比べ物にならないほどの大きさで、視界の端にオリヴィエがビクッと飛び上がったのも見えた。
オリヴィエを落ち着かせようとするフォティアを横目にケイルは向かい側の入り口を見つめる。
そこから現れたのは、金色の髪を風に靡かせギルドのときとは違う明るい色を基調とした装備を纏う青年。後ろから彼のパーティーメンバーたちも姿を見せる。
青と碧の瞳が交差し、二人は同時に笑みを浮かべた。アーサーの隣に居た同じ色合いの少女がこちらを興味深そうに見てくるのを、敵意はないと判断して無視したケイルはアーサーの方へ近づいていく。
一方でアーサーの方もゆっくりとこちらへと歩いてくる。
その背中からは今まで以上に溢れんばかりの闘志が漏れ出ていた。
「やぁ、ケイル。やっぱり決勝は君だった。これまでの戦いでバテてないよね?まぁそれを負けた理由にされても困るけど。」
ケイルが応える。
「コンディションはバッチリだ。それよりアーサーの方は如何なんだ?負けたときに話す理由を考えておいた方がいいんじゃないか?」
両者の闘気が溢れんばかりに滾り、それに呼応するように会場すべてを巻き込んで興奮と期待が膨らんでいく。
「そんなもの要らないよ。だって僕が勝つんだから。いい試合にしよう、ケイル。」
「あぁ、楽しもうぜ。アーサー。」
握手が終わると二人は無言で踵を返す。
二人の顔には同じ笑みが浮かび、それを見たパーティーメンバーたちも釣られて闘志をみなぎらせる。
静寂となった会場で、紹介アナウンスが行われる。
だがそれはもはや時間を浪費するだけの雑音のようで。ケイルたちだけでなく観客すらも今か今かと開始の合図を待っていた。
いつもより少しだけ短い両パーティーの紹介が終わり、会場の緊張感も弾けそうになった頃。待ちわびた時が訪れる。
「それでは、本戦トーナメント決勝戦!パーティー15 オリヴィエ、ケイル、フォティア 対 【廻る
─────ガギィィィィン!!!
試合が開始した直後、剣と剣がぶつかり合う音が凄まじい音量で鳴り響く。
それを為したのはケイルとアーサーの二人。彼らの剣戟はギルドでの組手とは全く違う速度だった。
ケイルは最初から
足元を、背中を、剣を持つ腕を円月輪が襲う。そればかりかケイルの双剣は独立した生物かのような別々の動きで円月輪や急所への攻撃を防御しようとするアーサーを妨害しようとする。
だがケイルの怒涛の攻めを受けて、それでもアーサーはただひたすら落ち着いていた。
その眼は合理的に剣や円月輪の軌道を見極め、その表情はまるで感情が抜け落ちたのかと思うほどの冷静さに満ちている。
迫りくる右の剣を素早く弾き、左の剣を最小限の動きで受け流す。長剣を流れるように制御し、手の中で回すように逆手に持ち替えて背後の円月輪に対応する。弾いた瞬間右手の力を抜き、落ちる剣を左順手で持つことで腕を狙う円月輪を弾く。足元を狙うものは片足を上げるだけで回避する。
その機械のような合理的な動きは一瞬で。
凄まじい剣技に、どの攻撃がどの順番で行われるか読み取る脳の処理能力の高さ。そしてそれを一寸もずらさず行う胆力と反射神経。アーサーはすべての能力が高水準であった。
だが一つ一つ丁寧に対応したアーサーに対して、ケイルの攻撃もまだ終わらない。
ケイルは弾かれた右の剣の勢いに逆らわず、アーサーの受け流しの方向を誘導して上下二段の回転斬りを行う。
受け流しすら利用してアーサーを狩ろうとするその動きは最初から見据えていたもの。その息をつかせぬ攻めは対応する側であるアーサーに考えさせる時間を与えさせない。しかも怒涛の連撃を防いだあとであり、アーサーは片足が浮いている。
躱せないはずだった。
鳴り響いた金属音は一瞬で二つ。
アーサーは凄まじい速度で剣を引き戻し、あろうことか僅かな時間差で二段に別れた攻撃を防ぎ切ったのだ。
ケイルにはその動きが
「斬り下ろしからの斬り上げ………?!速すぎんだろ、おい!!」
防がれたのが視えた瞬間、ケイルは回し蹴りを放ち、反撃しようとしたアーサーとの距離を取る。アーサーも追撃はしてこない。
ここまで試合開始から僅か数秒の出来事である。
もちろん観客はその高度な駆け引きも両者の剣戟の凄まじさも見えていないし、フォティアたちもようやく接敵する頃であった。
回し蹴りを腕で防いだアーサーは、一切の感情を浮かべなかった青い瞳を大きく見開いた。
「驚いた、視えているんだ。これを捉えられたのは先生とケイルだけだよ。体勢が崩れたなら反撃で決めきれたんだけど残念だよ。」
アーサーが長剣を構えなおす。剣にはその目と同じ青色の光を纏っていた。
「………武技か。」
ケイルのつぶやきにアーサーはふっと微笑みながら答える。
「正解。これは武技、というか
アーサーの剣の輝きが会話中にも少し増していく。
青の燐光が周囲を漂い、白い光を残して消える。それは淡く幻想的で、ケイルはその光から次元の違う力を感じ取る。
「ケイルには悪いけど最初から全開で行かせてもらうよ。君はそうしないと倒せそうにないからね。」
アーサーの表情が消える。そして姿も掻き消えた。
最初の斬撃を両の剣で受け止める。鳴り響く音は試合開始のときよりも大きく重い。
ケイルは咄嗟にバックステップで下がる。左目は金色に染まっていた。
レンズこそ出さなかったが、ケイルが武技を使ったのは無意識のことだった。命の危険を感じるほどアーサーの奥義はケイルに死を予感させたのだ。
冷や汗を流しながら、間合いを測るケイル。
それに対してアーサーは一瞬不思議そうな顔でケイルの左目を見たものの、すぐに氷のような無表情へと戻る。
「僕の剣はこれからもっと疾く鋭くなるよ。君が勝つならここしかない。」
ケイルは魔力を体中に回し始める。
───戦いはまだ始まったばかり。
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