EP-27 闘技大会 -本戦 1-
「では本戦トーナメント一回戦目!パーティー15 オリヴィエ、ケイル、フォティア 対【ガレオン】となります!パーティー15は予選で乱戦を潜り抜け……」
闘技場の中心にはケイルたち三人と相対するように【ガレオン】の面々の姿がある。
彼らの装備は護衛依頼のときよりも戦闘を目的とした重厚なものとなっていた。
この闘技大会のために新しい装備を調達するパーティーも多いため、ケイルたちもそこは織り込み済みである。
「なんだその装備、やけに重そうだけどちゃんと扱えるんだよな?」
いつもと変わらぬ装備を纏ったケイルが様子見とばかりに笑いながら声をかける。
「ハッ、そういうお前は依頼のときと同じじゃねぇか。これは闘技大会だぜ?そんな装備で大丈夫かよ?」
アルも笑ってそれに答える。
いつもと違い全身を守る鎧と大盾、そして大きな片刃の片手斧を装備している彼はその重量を感じさせない動きで歩いてくる。
「大丈夫、問題ないよ。いい試合にしよう。」
「ああ。勝っても負けても今度一杯行こう。」
二人が握手をして踵を返すと、他のメンバーも皆それぞれの得物を構えだす。
見ていた観客たちも空気が変わったのを感じ、ざわつきが徐々に小さくなっていった。
本戦からは一般の観客も観戦が可能となっているのだ。
初日の今日は既にほとんど席が埋まっている。
金級以上の部がメインイベントになっているものの、銀級以下の部ではこれからの時代を担う傑物が産まれることがあると観客たちも期待を寄せている。
アナウンスでは現在進行系でパーティーごとの紹介がなされており、観客もそしてケイルたちも今か今かと開始を待ち望んでいた。
「では、本戦一回戦目!開始!」
開始の合図と共に、ケイルは前に走りながら試合前の作戦会議を思い出す。
『まずメインの方針として狙うのはイルだ。』
ケイルがそう言うと、オリヴィエが首を傾げながら疑問を口にする。
『ん?なんで?賭博師のほうが厄介だと思うけど。』
それに対してケイルが告げたのはいわば当たり前の事実。
『それはそうだが、あいつらもエルが戦略の中心ってことは自覚してるはずだ。だったらわざわざ守りの厚い所に攻めなくてもいいだろ?それに……』
そう話すケイルは大層楽しそうな顔をしていた。
ケイルはまず
それに対してアルはケイルと戦いながらも弟たちへと指示を出した。
その指示通りに
ウルが使っているのは狩人武技の
彼は右手の弓と左手の矢で踊るように円月輪を弾きながらも時折凄まじい早番えで同時に多方向から複数の矢を放ち、オリヴィエたちへの牽制射撃も行っていた。
そしてそれを信じて、イルとエルは前線で戦うアルのサポートやケイルへの牽制を巧みに行う。
その立ち回りは堂に入っており、連携面だけでなく各々の練度も高いことを窺わせる。
それに対し、オリヴィエはケイルの方に飛んでくる魔法を障壁で防いでいるため弓矢の対応はフォティアが単独で行っており、正面だけでなく上や横から飛んでくる矢に苦戦を強いられていた。
ケイルは目線でオリヴィエたちの状況を確認しながら、自分と打ち合うアルへと声をかける。
「なぁアル、また今度相手するから今はちょっと退いてくれないか。エルに用があるんだ。」
「そう言われてやすやすと通すわけ無いだろうがよ!オラァ!!」
アルはケイルの剣を大盾で受け止め、その大柄な身体を活かして力いっぱいケイルを弾き飛ばす。
ケイルはその勢いのままアルから離れることで体制を整えようとするも、アルがすぐさまシールドチャージ。距離は一瞬のうちにゼロとなる。
ケイルは限られたスペースの中でうまく体勢を立て直し、追撃に振られたアルの斧を左手の剣で受け止めた。大盾に隠れるように振った右手の剣での反撃も全身鎧に阻まれうまく通らない。
アルに張り付かれ自由に行動できないケイルはすぐさま方針を変える。
三つの円月輪のうち二つをそのままイルへ、そして一つをアルへとけしかけたのだ。全身鎧のアル相手に円月輪、しかも一つだけではほとんど意味の無いように思える。
しかしケイルは円月輪の繊細な操作によってアルの意識の隙間や重装備ゆえの小回りのしにくさを利用する。
飛来する円月輪は執拗にアルの鎧の隙間を狙い続ける。
アルは円月輪の対応に加えて自らも突っ込んでくるケイルの対応もしなくてはならなくなったのだ。
「うざっとおしいなぁ!【
たまらずアルが放ったのは戦士武技の
アルを中心として衝撃波が吹き荒れる。
円月輪は魔力の乗った風に巻き込まれ操作不能になり、近づいていたケイルも強制的に距離を取らされる。
舞い上がった土埃が両者の視界を埋め尽くし、奥にいる後衛たちの視界も遮られた。
それが決め手となった。
土埃によって牽制の矢が飛んでこなくなったフォティアがフリーになったのだ。
フォティアはオリヴィエと短くアイコンタクトをして走り出す。
オリヴィエがフォティアに合わせ、障壁を階段状に配置。フォティアが相手の後衛へと詰め寄る道を切り開く。
フォティアは凄まじい速さで障壁を駆け上り、相手の頭上へと躍り出た。
そのままの勢いで急降下し、イルの眼前に着地したフォティアはイル目掛けて風刃を幾つも飛ばす。
イルが魔法の詠唱を中断。回避行動を取った瞬間だった。
「馬鹿野郎!イル!!狙いはお前じゃない!!」
ウルの叫びと共に放たれた風刃はエルを強襲する。アルやウルのサポートに集中していたエルは唐突に襲いかかる風刃に対応できず、体を切り裂かれた。
霧のように細かい血の水滴がエルから吹き出し、倒れる。一瞬の思考の空白。それがなければフォティアに対応できたのだろうか。
フォティアが今度はイルを強襲。
イルも手持ちの鉄杖で剣戟を捌くが、彼は元々純粋な魔術師。フォティアの速さには徐々に付いていけなくなる。
袈裟斬りからの流れるような水平斬り。体勢を崩した所への突きは的確にイルの防御を突き崩す。トドメは足への斬撃だった。
「安心しなさい。死にはしないわ。そのまま寝てればね。」
動けなくなったイルは杖を弾き飛ばされ立つこともできない。フォティアの目線は既にオリヴィエの方へと駆け出すウルの方へ向いていた。
「クソッ、完全にしてやられた。兄ちゃんは…大丈夫だと信じて勝つために動かねぇと!」
ウルは少ない勝ち筋をオリヴィエに見出す。
今までを見るにオリヴィエは完全なサポートタイプ。依頼の時や先程のように誰かしらが側についてる場合ならともかく、今のオリヴィエは完全に孤立。狙うならここしかないだろう。
必死の形相でオリヴィエの下まで走るウル。
それに対してまだ立ち込めている土埃の影に見えるオリヴィエの表情は笑顔だった。
「流石ティアだね。伊達にうちの村で一番速い剣士じゃない。ティアとケイルが活躍したんだ、なら次はボクの番だよね!」
ウルは走りながら弓を射る。足を踏み出す度に体が左右に揺れているのにも拘らず、その射撃には一寸のズレもない。矢はオリヴィエの眉間目指して飛んでいく。
そしてその矢は
「はぁ?!」
思わずウルも驚きの声が漏れる。放った矢は力こそ篭っていたが直線的な軌道で、ウルもオリヴィエが躱した後に矢を隠しながら放つ予定だった。なのにそれが当たってしまったのだ。
思わぬ所で人殺しを為してしまったウルは動揺した。
ズドンッ! と音が鳴った直後、ウルの意識は途絶えた。ウルの倒れた音と共にカラン という軽い音が鳴る。
その音の出処は鏃が鉄の球になっている矢だった。走るウルのこめかみを寸分のズレなくなく打ち据えた矢の射手はというと。
「ふふーん。どうだ!ボクだって弓が上手いってティアに言われたんだから!」
とても満足げな表情をしていた。土煙の隙間から蜃気楼のようにゆらりと現れたオリヴィエはゆっくりとその実体を取り戻していく。
オリヴィエが使ったのは幻影魔法。自分と瓜二つの幻影を作り出し、土煙に紛れて入れ替わっていたのだ。そして本物は気配を消して大きく横に回り、死角からウルを撃ち抜いた。
無闇に見せてはならないこの魔法はオリヴィエの切り札の一つであり、観客やウルたちから認識されにくい状況が揃っていたからこそ発動できたのだ。
「さて、と。彼は多分やられる直前に怪奇現象にあったくらいに思ってくれると信じて、ケイルの方へ………ってそんな心配しなくていいか。」
オリヴィエが一人呟きながら視界に捉えたのは、薄い青に輝く右手甲で相手の兜割りを受け止めているケイルの姿。
斧を手甲で受け止めるという現実離れした光景。
力と力が真っ向からぶつかり、青い輝きが強くなる。
「俺の勝ちだ。またやろう。」
その呟きがアルの耳に入った瞬間、輝きが爆発してアルの斧を吹き飛ばす。得物を飛ばされ、体勢も崩れ、仲間からのサポートももう無い。
アルは笑いながら四方から襲いかかる円月輪と二本の剣をその体で受ける。
鎧の隙間を円月輪に切り裂かれ、盾を持つ左手の鎧の隙間には二つの黒い剣線が引かれる。
鎧と大盾の重みに耐えきれなくなり膝をついたアルが満足そうに大声をあげる。
「まいった!降参だ。早くあいつらを治してやってくれ。」
こうして倒れ込んだアルの宣言で一回戦の勝者が決まった。
ケイル、フォティア、オリヴィエ、第一回戦突破。
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