EP-26 未来の英雄

「これにて全ての試合が終了いたしました。予選通過者は本戦のスケジュールを確認しておいてください。本戦は三日後に行います。では、参加者の皆さまお疲れさまでした。」


 試合を終えたケイルたちはアナウンスを聞いた後、闘技場から出る。


「明日からまた連携を確認しよ!今日はお疲れ様休み!」


 オリヴィエは疲れた顔をしてそう言った。


 今回の戦いは普段の戦いより間違いなく負担の大きいものだった。対人戦であり、更にバトルロワイヤルという情報量の増える試合形式。そしてケイルの作り出した乱戦により、更に情報の整理に頭を使う必要があったのだ。

 対人戦をメインとしている冒険者ならまだしも、普段対人戦をそこまでしないオリヴィエからしてみれば疲れがたまるのは間違いない。フォティアもオリヴィエ程ではないが少し疲れた顔をしている。


 ケイルは彼女たちの顔を見て頷く。


「わかった。じゃあ今日はゆっくり休もう。お疲れ。」


「あい~……」


「リヴィ!……まったくもう。ケイル、また明日ね。」


 二人はゆっくりと宿へ帰っていく。

 それを見届けたケイルは冒険者ギルドの方・・・・・・・・へと足を向けた。


「んー、正直いつもの修行の方がしんどいんだよなぁ……。まぁ調整程度に軽くして今日は休むかぁ……。」


 ケイルは相変わらずの修行馬鹿であった。



♢♢♢




 冒険者ギルドに着いたケイルは早速訓練場へと足を踏み入れる。


「さて、何からやろうかな。「ねぇ、君!」……ん?」


 横から聞こえた声の方へとケイルが振り向くと、そこに居たのは闘技大会で見た金髪の青年であった。


「君、確かケイル君だよね?僕はアーサーっていうんだ。君の戦い方はとても興味深かいものだったから一回話してみたくてね。もしよければ、少しどうだい?」


 アーサーと名乗った青年は手に持つ訓練用の武器を差し出してくる。

 彼の周りにほかのパーティーメンバーはおらず、彼も一人で訓練していたのだろう。そのスタンスにケイルは自分と似たものを感じていた。


「いいぞ。俺もお前が気になってたんだ。」


 ケイルが笑みを浮かべて武器を受け取るとアーサーも傍に立て掛けてあった武器を取る。


「よろしくね。」


 そして二人は一緒に修行を始める。基礎トレーニングから素振り、瞑想など各々の訓練を教え合い二人で話しながらこなしていく。


 そこでケイルが感じたのは感嘆と興奮。アーサーの動きはすべてが無駄なく繋がっており、手先の技巧も遠くで見るよりも洗練されているように感じる。ドータやルミナ、そしてトールなどケイルが今まで会った強者のどの戦い方とも違う戦いぶりは新鮮で鮮烈だった。


 なぜ彼が銀級以下のレギュレーションに出れるのか不思議に思ったケイルはアーサーに剣を振り下ろしながら問う。


「なぁ、アーサー。なんでお前の実力で銀級以下の方に出てるんだ?その実力ならすぐにでも金級に登り詰めることができそうだけど。」


 アーサーもケイルの怒涛の攻撃を的確に躱し、潰し、いなし続ける。


「それを言うなら君もなんだけど…ッ!僕の場合は先生に”昇級はお前にはまだ早い”って止められたんだ。…っと!それにこっちの・・・・大陸と違って・・・・・・向こうでは魔物がここより強いからね。生半可な実力で金級になると緊急依頼を断れなくて死ぬ危険性が高いんだってさ!」


 アーサーの攻防一体の剣技をケイルが力任せに弾き飛ばす。


「!! …っと!危ねぇ。………ん?今”こっちの大陸と違って”って言ったか?ってことはお前、第一大陸の冒険者・・・・・・・・なのか?!」

 

 距離を取ったケイルは脳内で聞いた言葉を反芻する。

 闘技大会には第一大陸からも冒険者が参加するというのは聞いていたが、ケイルは今の今まで半信半疑であった。理由は単純、第一大陸の冒険者どころか第一大陸から来た人すら見たことがないのだ。ケイルは興奮してアーサーの方を見る。


 彼は青い目を緩ませ、頭を縦に振った。


「そうだよ。僕は第一大陸で冒険者をやってる。こっちには先生から箔をつけるために大会で優勝して来いって言われたから来たんだ。最初はパパッと優勝して先生に報告しようと思ってたんだけど、こっちにもこんなに強い同年代の、それも同じ銀級の冒険者がいるとは思わなかった。思わぬ産物だったよ。」


 嬉しそうにそう言うアーサーに対して、ケイルは微妙な顔をする。


「あー………。言いにくいが俺はまだ銀級になってない。正確には昇級試験を受けてないだけなんだが。」


 銅級から銀級に上がるためには護衛依頼の達成とは別に昇級試験を受ける必要がある。試験形式は様々だが、銀級までは拠点に腰を据えて実力を向上させるように、と最初に登録した場所以外での試験が受けられないようになっているのだ。


 ケイルがそう言うとアーサーは一瞬ぽかんとした表情を浮かべ、思わずといった表情で笑い始める。ケイルも笑いながらアーサーの方へと歩いていく。


 修行を続ける雰囲気でもなくなり、ケイルたちは武器を降ろす。修行が終わり、軽く一緒に飯でも食べようとアーサーに誘われたケイルはそれを了承。二人はまるで長年の友人のような気安さで会話をしながらギルドを出た。


 二人の英雄の道は初めてここで交わり、歴史を作り、運命を紡いでいくこととなる。

 



♢♢♢




「今日はありがとうね。次は闘技大会の本戦かな?個人戦では決着がつかないまま終わっちゃったけど、本戦では勝たせてもらうよ。」


「言ってろ。勝つのは俺たちだ。じゃあまたな。」


 日が沈み食事も終えた二人は最初よりも大分砕けたやりとりで別れの挨拶をし、それぞれの帰路へつく。充実した一日を思い返し、ケイルはゆっくりと息を吐いた。


「あいつと戦うのが楽しみだなぁ。」


 頭に残る彼の剣技。

 興奮と期待を胸にケイルは空を見上げた。




「ただいま、みんな。」


「あ、おかえりお兄ちゃん。急に遅くなるって言われた時はびっくりしたよ。何してたの?」


「ある人とご飯を食べに行ってたんだよ。」


 宿に帰ったアーサーは部屋に集まっていた仲間たちに声をかけた。


 最初にアーサーに答えたのは彼の妹。彼と同じ色合いの髪と瞳はその血のつながりを感じさせる。

 パーティーでは祈祷師として後衛を担当し、その優れた身体能力で遊撃としても活躍している彼女はいかにも興味津々といった表情でアーサーへと声をかける。


 それに答えたアーサーにもう一人の女性が詰め寄る。


「あ、あんたその会ってた人ってのはじょ、女性だったりしないわよね?!」


「何をそんな興奮しているのかは分からないけど男だよ。しかも僕と同年代で、実力はひょっとしたら彼の方が上かも!」


 その女性は群青の瞳と真紅の長髪が忙しなく動き、白い頬には紅が差していた。


 それを興奮していると捉えたアーサーが彼女をなだめていると、その脇で微笑みながら会話を聞いていた壮年の男性がアーサーの言葉に驚きの表情を浮かべる。


「えぇ?そりゃほんとうかい?おじさんさすがに信じられないけどなぁ。」


 髭は短く切り揃えられ清潔感はあるものの、そのくたびれたような雰囲気とヘラヘラした顔つきのせいでどこか胡散臭そうに見える男が戦闘中のような真面目な顔つきで発した言葉にアーサーは微笑みながら答える。


「はは、君も見たことあるはずだよ。予選最終戦の彼さ。」


「……あぁ!そうか彼か!そこまで強いのかい彼は。本戦は大変な戦いになりそうだねぇ。」


 男性の双眸が細まる。アーサーはそれを見て先程までの爽やかな微笑みとは違う不敵な笑みを浮かべた。


「そうだね。でもやるからには勝つよ。勝つためにこっちに来たんだから。」


 彼の表情を見た仲間たちは顔を見合わせ戦意を滾らせた。




—――――迫る本戦は三日後。

 予選通過者たち各々がそれぞれの想いを再確認し、各々の思惑を胸に秘めて時を過ごす。





「た、助け…ピギャ」「や、やめてくれ……うあああああ!!!」


 夜空には今日も月と星が光り輝いている。


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