EP-25 闘技大会 -予選-
「パーティー名は申請無しということなので、申請順よりパーティー15で案内させていただきます。では、会場で予選の説明をお待ちください。」
ケイルとオリヴィエ、フォティアの三人は無事に出場申請を終え、会場へと足を踏み入れた。
そこには既にいくつものパーティーがおり、その中には【ガレオン】や【晴嵐】の姿もあった。彼らの顔は真剣で、予選開始に向けて集中しているように見える。
「んー。あいつらも集中してるみたいだし、声をかけるのはやめておこうかな。隅に行って俺らも待機するか。」
「ええ。リヴィもそれでいいわよね?」
「うん!まだ買ったやつも食べきれてないし!」
ケイルはオリヴィエから大きめの串焼きを一本渡された。少し減ったものの彼女の両手にはまだ溢れんばかりの食べ物がある。
「…………それ食い切れるのか?」
「わかんない!」
「……そうか。」
頭を押さえるフォティアの姿に同情しつつも、ケイルは貰った串を食べながらほかの選手の様子を観察することにした。
(あのパーティーは前衛のみか。おそらくパワー系。全員そこまでの威圧感もないし、師匠の下位互換の集まりとみて問題なさそうだな。あのパーティーは……)
そこにいる冒険者たちはみな多種多様なパーティーを組んでいた。見るからにパワー重視の前衛四人組やチンピラかぶれの五人組、それに女性五人のところもあれば、ケイルたちと同じ三人組もちらほらと見える。
しかし、一番ケイルの目を引いたのはそのどれでもなかった。
ケイルたちと同じように会場の隅で待機している四人組。そのパーティーの中心にいる青年はケイルと同じくらいの年齢に見える。金髪に青眼を持ち、腰には剣を佩いているその姿はオーソドックスな冒険者。
しかし、その爽やかで優し気な雰囲気に反して、その身に宿る力はドータやルミナのような圧倒的強さを感じさせた。彼を囲む他の三人もかなりの力を持っている。
ケイルが青年を見ているとその彼がふとこちらを見る。目が合ったのは一瞬。
だがそれでもケイルは、そしておそらくその青年も、何故か彼らと自分たちはこの大会のどこかで戦うことになるだろうと確信した。
「会場にお集まりの皆さま。時間となりましたので予選の説明をさせていただきます。今回の予選は人数が多いため、単純明快な予選を用意いたしました!五パーティーずつの
会場に響き渡るアナウンスによって参加する冒険者たちは続々と移動し始める。そこには【ガレオン】の姿もあり、ケイルは心の中で彼らに声援を送り観客席へと移動する。ちなみにオリヴィエの両手の食べ物は一回り少なくなっていた。
ほかの冒険者も観客席へと移動しており、それぞれパーティーごとに固まっているようだった。ケイルもオリヴィエたちと一部の席を確保する。
それと時を同じくして闘技場中央では試合が始まった。
結果から言えば、【ガレオン】は無事予選を通過した。賭博師の能力は癖があるため対応するのにもそれ相応の対処をしなくてはならない。それに加えて、決して母数の多い職業というわけでもないため、あるパーティーは何が起きたのか分からないまま敗退し、あるパーティーは対応しようとしたところをアルやイルに狙われ敗退した。
そしてほかにも【晴嵐】や金髪の青年率いるパーティーも予選を突破することとなる。特に金髪の青年のパーティーはほかの冒険者と比べてあからさまに強かった。
青年は巧みな剣技で襲い掛かる敵を薙ぎ倒し、壮年の男性は槍を使ってうまく彼をサポートする。また青年と同じ髪と瞳をもつ少女はその飛び抜けた身体能力を活かして相手の後衛に飛び込み、髪の長い女性は戦場全てをコントロールするほどの視野の広さと数多くの魔法で仲間を支えて敵を殲滅する。
隙の無い連携はケイルの予感が間違っていないことを証明していた。
その後も試合は順調に進み、そして—―――
「最後の試合はパーティー12、
「お、呼ばれたね。さぁ行くよ、ティア、ケイル!」
「ええ。できることならここはあまり手の内を見せないようにしながら突破したいわね。」
「そうだな。武技はぎりぎりまで温存。基本は俺が遊撃に出るからフォティアはオリヴィエについて二人での連携を主にしてくれ。ある程度かき回してから俺も合流する。」
「うん、了解だよ。」 「わかったわ。」
ケイルたちの試合が始まる。
♢♢♢
中央に移動したケイルは周りの冒険者の立ち位置や視線から自分のベストな立ち回り考える。
五組は闘技場の中央を囲むように距離を開けて相対しており、ケイルたちの方へと意識を向けているのは二組。
片方はケイルが予選説明の前に確認した向かい側の
(他のパーティーは問題ないな。ならとりあえず最初に対処した方がいいのはあの
ケイルはすぅっと前に出る。その一歩によりケイルたちを狙おうとしていた二組の冒険者たちは先頭のケイルを最初の目標に定めた。また、こちらを狙おうとしていなかった者たちもケイルの一歩でこちらを意識する。
ケイルはひとまず
「試合開始!!」
開始の合図に反応してケイルはすぐさま抜剣し、自分たちの対角――【空の花園】の
「狙いは俺らかよ…ッ!」
この場の誰よりも早く動き出したケイルを迎え撃つためこちらに走り出した相手の剣士に対し、ケイルは抑えていた速度を一段上げる。
速度が急激に上がったことによりぶつかるタイミングがずれた剣士と剣を打ち合わせたケイルは瞬間的に手首を柔らかく動かし、走りこんだ勢いと剣を受け流した勢いを加算した回し蹴りで彼を吹き飛ばす。
剣士が吹き飛んだ先にいたのは最初にケイルを睨んでいた
そしてその時、ケイルは既に標的を変更していた。標的となったのは【空の花園】。前衛役の女性三人が突撃してきたケイルを包囲する。
「見たところ機動力重視の遊撃ってところでしょ?だったらこうやって囲んでしまえば…「きゃあ!!」…え?」
彼女が見たのは後ろから横から斬撃を浴びたと思われる仲間の狩人。狩人とその隣の祈祷師は二人とも同じ方向を見て
その目線の先にいるのは、彼女たちの方を向いて惚けている最後のパーティーの魔術師。魔術師は何が起こったのか分からないような顔をしていた。
実は【空の花園】の狩人に斬撃を浴びせたのはケイルである。
彼は剣士を蹴り飛ばした後、すぐさま走りながら
別パーティーからの攻撃だと勘違いした彼女たちは、後衛のカバーをするために三人の前衛のうち一人を魔術師パーティーへの応戦に回す。その間ケイルは残り二人の前衛と戦いながら周りの状況を確認していた。
最初にケイルが狙った剣士のパーティーは【怒羅愚那威】と戦闘状態になっており、闘技場中央で前衛同士の戦いが繰り広げられていた。そして、
(いい感じだな。じゃあ最後に……!!)
ケイルは彼女らと戦いながら闘技場中央へと移動していく。
押し込まれた彼女は剣士たちに近づくことになり、彼の仲間からの攻撃にさらされることとなった。
「さぁ、状況は完璧だ。」
ケイルが
彼は持ち前の状況判断力とその視野の広さを存分に使い混沌とした乱戦の中、一人また一人と意識を奪っていく。
コンビネーションも使えず四方八方が敵だらけの状況で、最早ケイルに勝てる者はいない。数分後、その場に立っているのはケイルたち三人だけだった。
「試合終了です!勝者はパーティー15!オリヴィエ、ケイル、フォティアの三名となります!」
ケイルは剣を腰に付けた鞘へと戻し、満足げな表情でオリヴィエたちの元へと向かう。
「お疲れ~!ケイルすごかったよ!」
「ん。ありがとう。二人もお疲れ様。悪いな、途中から楽しくなって合流しに行くのを忘れてた。」
「本当よ、まったく…。まぁ私たちは私たちで乱戦に参加して適当に戦っていたし、結果的に手の内を隠して勝てたからいいわ。」
「悪い。ありがとう。」
ケイルは出口へと向かいながら観客席を一瞥する。引きつった顔をしているキョウやニヤッとした表情でこちらを見るアルたち。
そして、爽やかなその青い目に凄まじい闘志と興奮を込めてこちらを見ている金髪の青年と目が合った。
ケイル、オリヴィエ、フォティア―――予選突破。
—―――――――――――――――――――
Tips.「神授職業(概念)」(もっと早く説明乗せておけばよかったですね。反省。)
戦闘関連の神の加護に対応するように主要な職業は六つ存在している。
【狩猟神:狩人】、【騎士神:騎士】、【戦神:戦士】、【魔術神:魔術師】、【救命神:祈祷師】、【娯楽神:賭博師】
これらの神授職業を得ると武技や奥義といった戦う力が授けられる。
これら六個の神授職業は世界単位で共通であり、ベーシックな職業とされている。
しかし、これら以外にも地域ごとや種族ごとに信仰している神(氏神、土地神)は存在しており、それら独自の信仰でも特殊な神授職業が得られるとされている。
有名なのは三大未開拓地の一つ(インクリッド王国の統治下に無い)南の小大陸に存在しているとされる【侍】の神授職業。
戦闘関連でない神には以下の六柱が存在している。
【商業神、調停神、豊穣神、叡智神、混沌神、輪廻神】
戦闘関連には神授職業が存在しているが、戦闘関連でない神には神授職業が存在していない。研究者たちの中でもこの理由は明確になってはいないが、おそらく神授職業の存在は魔物を倒すためのものであるため得られないのではないかという説が濃厚である。
しかし、戦闘関連でない神の像に祈りをささげた際に何も得られないということはなく、それぞれ対応するステータスが一段階上がる効果を持つ。普通に破格の性能である。
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