EP-24 有名税
ケイルとオリヴィエ、そして合流したフォティアの三人は現在冒険者ギルドの訓練場にいた。
ギルドでは簡易的な連携の確認や手軽に訓練できる場所として訓練場を開放している。細かい造りはギルドごとで異なるが、このギルドでは闘技場と同じような造りになっていた。
そこでは数々の冒険者が訓練していたが、やはりフォティアとオリヴィエという美少女たちに視線が集まることになる。
女冒険者というのは決して少なくはないが、それは村から出てきた娘か自分の力を試したい戦闘狂が多くを占める。町の一般的な女性は普通に働いた方が安全に安定した給金を稼ぐことができるからだ。だからこそ美しい女性で冒険者をしている者はとても少なく、いるだけでその存在は目立ってしまう。
ケイルは集まる視線に辟易としながらここに来るまでの道中を思い出していた。
♦♦♦
「じゃあさっそくだけど、連携を確認するためにティアと合流しよう!」
能天気なオリヴィエに対してケイルはすでに悟りの境地に達していた。
もうどうにでもなれとケイルは出かける準備を始め、二人は宿を出た。宿屋の主人にはニヤついた顔で見られ、道を歩くと隣を歩くオリヴィエに視線が集まる。
ケイルから見てもオリヴィエは相当な美少女である。そんな彼女と二人で歩くというのはケイルからしても嬉しくないわけではなかったが、あまりにも集まってくる視線にケイルは既に疲れ気味であった。
しかし、事はそこでは終わらない。
彼女たちの取っている宿にたどり着いたケイルたちはロビーでフォティアと合流する。フォティアはオリヴィエとともにいるケイルに不思議そうな顔をしてオリヴィエに事情を尋ねた。
そこで今までの経緯を少し隠して説明しようとしたオリヴィエに割り込むようにケイルが事情を説明すると、フォティアは顔を青くして土下座せんばかりに平謝り。
しかしここは宿のロビーである。ほかの客からは好奇心の籠った眼差しを向けられ、宿の店主からは迷惑そうに視線を投げられる。ケイルは別に怒ってないとフォティアの顔を上げさせて急いで外へ出るよう促した。
宿の外に出たケイルたちはとりあえず連携を確認したいというオリヴィエの意見を了承し、冒険者ギルドへと向かうことにする。そこでケイルに集まるのは更に増えた視線。オリヴィエは可愛らしい少女であるが、フォティアはクールな美人である。タイプが違う二人の美少女とともに歩くケイルはやはり好奇な視線を向けられることになる。
冒険者ギルドに到着してからもケイルの受難は終わらない。良くも悪くも急成長をし
ひそかな人気を誇っていた彼女たちと期待のルーキーは王都の冒険者内で有名であるのだ。現在闘技大会のために多くの冒険者が各地から集まってきているトゥニスにも勿論王都の冒険者は数多く来ている。そうなると起こるのはまたもや多人数からの注目。
慣れているのかまるで気にしていない【雫】の二人と裏腹に、ケイルは今まで多くの探るような視線を浴びることはなかった。ギルドから裏手の訓練場までの道中、少し離れて歩こうとしてもオリヴィエが話しかけてくるため離れることができず、他人からの視線で神経をすり減らしたケイルはこの先の大会まで何度もこのような状況に置かれるのだろうと遠い目をして天井を見る。
天井が何故かとても遠く感じた。
♦♦♦
「じゃあ改めて自己紹介からしようかな。ボクはオリヴィエ。回復と防御に使える魔法を使うよ!よろしくね!」
「フォティアよ。いつもはリヴィ—―オリヴィエを守りつつ、前に出られるときは前に出て戦うというスタイルね。魔法は風の斬撃が使えるわ。たぶんあなたと一緒に前に出ることもあると思うからよろしく頼むわね。」
「俺はケイルだ。基本的にソロをやってるせいで自分勝手に動くことが多いから集団戦というものは正直よく分かってない。だから遊撃に回してもらうのが一番効率がいいと思う。使える魔法はないけど遊撃以外にも前衛としてなら戦えるとは思う。二人ともよろしく。」
自己紹介の後、ケイルたちは基本的な立ち位置や立ち回りを話し合い、練習試合の申し込みをする。
トゥニスのギルドの訓練場には独自のシステムとして模擬戦のマッチングシステムが存在している。ここでは供え付けの武器を使用することを条件として模擬戦を行うことができるのだ。
彼らは銅級上位から銀級下位の申請場所で申請を行い、模擬戦を重ねる。最初は連携が甘く負けることもあったが、ある程度時間が経つとほとんど負けることもなくなった。
「この調子なら銀級中位、もしかしたら上位のパーティーとも戦えるかもな。」
「ええ、正直集団戦でのあなたの強さを見誤っていたかもしれないわ。高い思考力に広い視野、周りの状況を活かす能力。すべてが相当な高水準よ。」
「そうか、それなら自信がつくよ。ありがとう。」
ケイルは護衛依頼から今まで
その代わり、【騎士】レベルが上がったことによる武技はいくらでも使っていいと言われていた。その武技は汎用性がある
ケイルはその眼の良さを活かすことで常人よりはるかに高い成功率を誇っているため、集団戦での
反省点を話し合い、三人は再び模擬戦をしに行く。メキメキと実力を上げていく彼らはその後も闘技大会までの数日間、しっかりと訓練を積んでいく。
戦いは近い。
♢♢♢
そして闘技大会当日、ケイルはベッドから起き上がり窓際のテーブルの上を確認した。なぜか毎回窓からオリヴィエが入ってきて集合時間や場所を書いた置手紙を残していくのだ。毎回なぜ正面から入ってこないのか不思議に思うものの、もうすでにおかしいと思うことは無くなってしまっていた。慣れとは怖いものである。
そして今日も相変わらずテーブルの上には紙切れが一枚。そこには先に会場に行っている、と闘技場の場所と予選開始の時間が綴られていた。
今回の闘技大会はあるゲストのお陰か例年以上に参加者が多く、数を減らすため運営側から例年以上の規模の予選が計画がされている。
その内容は毎年異なり、町中に隠した宝を会場まで持ってくるというものや街道近くの林や湖から指定された物を採取してくるというもの、
予選に参加するためにはパーティー全員揃った状態で予選開始時刻の前に会場に居なくてはならないため、時間は厳守である。前日の訓練でオリヴィエが会場付近の屋台で食べ歩きをしたいと言っていたことを思い出し、自分より彼女らが間に合うのか不安になりながらもケイルは身支度を整え始める。
ケイルは最近ルミナ式二刀流に右腕だけ手甲を装備していた。これは
ルミナの武器は彼女のような巧みな足さばきとバランス感覚が必要になってくるため重心が少しでも片側によってしまうと精彩を欠いた動きになってしまう。そのため片腕のみ手甲を装備することで能動強化時のバランスを取り、なおかつ能動強化を使っていない時も片腕だけ重い場合の練習を兼ねているこの戦闘スタイルを使っているのだ。
すべての装備の点検を終え、ケイルは宿を出る。
(臨時パーティーでしかも慣れない集団戦形式、色んなスタイルの敵と初めての衆人監視下での戦闘。興奮はしてるけど不安は一切ないし、ほどよい緊張感もある。…よし、万全だ。試合が楽しみだ。)
ケイルは会場付近で両手いっぱいに食べ物を抱え満足そうなオリヴィエと、ため息をついているフォティアに合流した。
空には先ほどなかった大きな雲が穏やかに浮かび、太陽が優しくなった日差しを届けてくれているように感じた。
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ここ数話あまり進展がなかったので今日はもう一話投稿しようと思います。
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