第2節 仲間の章

EX-04 -Side ケイル-

プロットは大まかにあるけれど、大体のキャラが勝手に走り出して結果違う世界線にたどり着くことを第一節で知りました。


第二節 仲間の章 開始です。

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 いつものようにルミナさんと修行をした後、俺は日記帳を買うために雑貨屋を訪れた。


 体は重く、歩みは遅々としている。

 それなのにも拘わらずこうして日記を買いに来たのには理由があった。


────それは先程のこと。




 ♦♦♦



「今週の修行はここで終わりね。」


 そう言ってルミナは片付けを始める。


 最近ケイルは円月輪チャクラムの練習として、鬱蒼と茂る木々の間を縫うように操作して目標の枝のみを切るという訓練をしていた。

 ここでもケイルの呑み込みの早さは遺憾なく発揮され、今では二つまで精密な操作を行うことができるようになっていた。


 丁度いい所で修行の終了を告げられたケイルは慌ててルミナに問い直す。


「ルミナさん?! 今いい所なんですけどなんで突然終了なんですか!!」


「落ち着いて、落ち着いて。あなたの成長は凄まじいわ。私より早いくらいね。でも、あなた最近ステータス更新も行っていないし、寝ても覚めても修行修行。一旦自分を振り返ってみて他に気分転換を見つけたほうがいいと思うのよ。」


 ケイルはトールにも同じことを言われたのを思い出す。


 最近自分の実力が目に見えて伸びていることが嬉しくてケイルは落ち着く時間を取っていなかった。それが原因で内省を疎かにしていたと気づいたケイルは最早項垂れるしかなかった。


「修行以外にも時間を作りなさい。今ので分かったわ、あなた修行中毒よ。日記でも書いてみるといいわ。これは仮とはいえあなたの師匠からの命令よ、分かったわね?」


 有無を言わせぬその態度にケイルは頷く。


 彼の久しぶりの休息期間はこうして始まったのだった。




 ♦♦♦



 折角日記を買ったのだし、取り敢えず今まであったことを書いておくか。振り返るのにも良いからな。…………流石に神様陽神様のことはぼかして書いとこう。


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 この数年色んなことがあった。


 平穏に暮らしていたはずの俺達は唐突な魔物の襲来でその平穏に終わりを迎えることになった。村に来ていた子を庇った父さんは俺の目の前で死んだ。突然すぎる別れに最初は全く実感がわかなかったけど、深夜に母さんが声を押し殺して泣いてるところを見てようやく実感した。もう父さんはいないんだって。


 ここが俺の冒険の始まり。胸を襲った絶望と無力感は今でも思い出せる。


 そしてそこから約三年、修行を繰り返した。

 父さんを殺したあの魔物に敵討ちをするために。そしてただ見ているしかなかったあの時の無力感を忘れるために。



 決死の敵討ちで挑んだあの魔物はとても強かった。魔物と人との力の差。俺は必死に何とかしようとしたけれど、そのときの俺はどうしたって普通の人で。結局俺は死にかけた。

 でも、そんなとき、死にそうになった瞬間に彼女が現れた。


 彼女の力はあれだけあった彼我の差を一瞬埋めてくれた。そのお陰で俺は敵討ちを果たすことができた。あの時彼女に会えなかったら俺は今いったいどうなっていたのだろう。残される母のことを想うと考えたくもない。


 三年以上もの間、いつだって思い描いていたあの瞬間。嬉しくて堪らないはずなのに、達成感で胸が満たされるはずだったのに、胸を占めるのは大きな虚無感だった。今後の生き方も分からなくなって喪失感すら感じ始めた。

 胸を占める感情はただひたすらに強くなろうとしてたあの時と比べ物にならないほどの大きさで。突然暗闇に一人置き去りにされたような気さえした。


 けど、そんな俺に彼女は道を示してくれた。彼女から伝えられた世の中の現状や過去は悲惨なもので、それを救うためにとまた立ち上がれた。あのときの俺は何か縋るものを求めていたのかもしれない。今だからこそ、そう思う。



 村を出ることにして、向かった先のレストではまた別の魔物と出会った。


 そのときはセリアさんを助けるためにと魔物から逃げたけれど、全部が全部そのためだったのだろうか。この頃から自分の中に蓋をした無力感が再燃し始めていたんだと思う。だけどあのときの行動自体は間違っていなかったという確信がある。



 その後は王都に来た。

 初めて見る王都は新発見が一杯で、父さんが死んでから初めて感動や興奮を感じた気がする。城壁というのも見たことなかったし王城なんて尚更だった。それにギルドに来たときは絡まれてどうなるかと思ったけど、それがきっかけで数々の出会いがあった。数多のことを知れた。

 本当にいい出会いだったと思う。師匠たちには言わないけど。


 冒険者として登録するときはステータスというのにも初めて触れる機会があった。


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「あ、今のステータスも書いとくか。えっと、確かこの辺りに……。あった。」


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名前:ケイル

神授職業:狩人【39】、騎士【21】

二つ名:なし


力:B+ (C+→B+)

耐久:B+ (B-→B+)

敏捷:A- (B-→A-)

魔力:― (変化なし)

器用:S (変化なし)

耐性:C+ (C→C+)


スキル:【髯ー逾槭?蜉?隴キ】【死線】【覚悟】【強者】

武技:【狩人武技・能動強化アクティブ――髯ー逾槭?隧ヲ邱エ繝サ隨ャ荳?】【騎士武技・単体攻撃シングル──無反動の盾砲セナ・アクピス

讓ゥ閭ス?壹?仙ソ?愍縲


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「それにしてもほんとに読めないな。確か、クレンダさんが色々メモしてくれてたはず…………。」


 ケイルがもう一枚新しい紙を取り出す。


 そこでは付き合いも長くなりだいぶ素を見せてくれるようになったクレンダが可愛らしいイラストと文字で分かりやすく説明してくれていた。


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クレンダ’s ポイント(∩´∀`)∩


【死線】…命を落とす程の危険に遭遇した人が持つスキルです!これを得ることが低位冒険者を本当の意味で超えるための登竜門とされています!


【覚悟】…なんでも”相当な覚悟を決めた人だけ持つスキル”とのこと!ケイルさんはそれほどの覚悟で何かを成そうとしているのですね。応援していますよー。


【強者】…大型魔物を一人で倒した人に与えられる称号です!!銀級でも持っている人はほとんど居ないと聞きます!いつの間に倒してたんですか!これはお祝いしないとですね。


【狩人武技・能動強化――髯ー逾槭?隧ヲ邱エ繝サ隨ャ荳?】…これも読めないですね。不思議ですが取り敢えず内緒にしておきましょう。


【騎士武技・単体攻撃――無反動の盾砲】…騎士武技の単体攻撃の1つで、相手の攻撃をベストタイミングで防ぐとその衝撃が溜まっていき、任意のタイミングで放出することができる武技ですね。この武技は盾だけじゃなく手甲などでも使えます。

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「………これは何なんだろうな。まぁ読めないのは神様のことだろうし、悪いものでは無さそうだしいいか。続き書こ。」


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 それから師匠に弟子入りすることになった。

 初めて人から本格的に戦い方や魔力の使い方を教えてもらったのはこの時だ。大変なことも多かったけど、あの日々があったから大蛇にも勝てたんだと思う。


 大蛇は最初の大猪と違って慣れてない動きが多くとても戦いづらかった。俺の対動物の経験は普段の狩人仕事で仕留める野生動物と最初の大猪だけ。だから蛇のあの特有の動きは捉えるまで大変だったけれど小型蛇のおかげで致命傷はほとんど避けれていたのは良かったと思う。


 この戦いで俺はまた死にかけて、初めて【武技】を使った。そのときはまた彼女に助けられたのかと思った。それほどまでにその武技は圧倒的な強さを持っていたから。ちなみに後でルミナさんから聞いたところ、その武技は他の人のものとまるで別物らしい。


 降って湧いたような力は俺の憎しみや怒りから生まれたもの。それを受け入れられなくてトールさんにも迷惑をかけてしまった。けどトールさんはそんな俺を優しく受け止めて導いてくれた。

 一瞬昔父さんが居たときのことを思い出してしまうほどに、その姿は父親のようだった。さすがセリアさんみたいな優しい人を育てた人だと思う。


 おかげで俺は前を向くことができた。たぶんこの先、同じような悩みに遭遇してもトールさんの言葉を思い出して何度でも前を向けるはずだ。トールさんには感謝してもしきれない。



 その後はルミナさんと出会った。

 最初は美人でクールな人だと思ってたけど、実際は少し天然でポカもやらかす可愛らしい人だった。でも、それは平時だけ。戦いのときのルミナさんはドータよりも苛烈で容赦がなかった。


 少しも気づかないうちに背後を取られていた時は本当に死んだかと思った。正面からの戦いでもドータのようにその力で圧倒するでもなく、トールさんのように経験と知識ですべてを捌き切る訳でもない。まさに技巧と駆け引きの結晶で、すべての動きに意味があるなんて感覚は初めてだった。


 ルミナさんの戦い方はドータも言ってたけど正直俺の理想地点だと思う。今もその動きを再現するべく努力してる。時間はかかると思うけど、絶対にものにしてやる。


 厳しい修業は大変だけど、今はそれも楽しいと感じるようになってきた。こう見ると俺も数年前のあの時から大きく変わったと思う。でもこれは成長だ。これからも頑張ろうと思う。


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「ふぅ。こんなものかな。」


 自分を振り返ってみると成長や変化を否応にも感じる。でも、その道は良い変化も悪い変化も、人に支えられながらでも自分の足で歩いてきたものだと知ってるから。俺はこれからも頑張れると思った。


 たぶんルミナさんが振り返れって言ったのはこういうことを自分の中で飲み込んで欲しかったからなんだろうな。トールさんとはまた少し違った前の向かせ方。ほんとにいい師匠ばっかりだ。


「さぁ、軽い調整だけして今日は休むか!明日の休みは何をしようかな。折角だしいつもと違う日にしよう。」


 ケイルの顔には明日を楽しみにするような希望に満ちた笑顔が浮かんでいた。

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