EP-17 大型蛇魔物との戦い - 2 -
今回は書き方がいつもと違います。
—―――――――――――――――――――
相手は未だにほぼ無傷。こっちの武器は長剣と短弓、残り十本くらいの矢に
唯一、俺の方が有利な点と言えばさっき刺した短剣があいつの視界を半分潰してることくらいか。
道中でだいぶ蛇型にはなれたと思ったんだけど…。やっぱり大型は小型の様にはいかないか。
相手は魔物。魔力感知による索敵に対応することはできてる。だけど、そこで生半可な攻撃じゃひるませることすらできないほどの体表の硬さが問題になる。いくら不意を打てても危険を察知する本能だけは誤魔化せないし、速さだけの攻撃はあいつの体に傷を負わせられない。
それに、一番の問題は何と言ってもコイツの速度。猪型魔物と比べ物にならないほどに速い。前回のようにある程度狭い場所でならそれなりにやり方はあるけど、こうも開けた場所だと相手の加速が止められない。
それに俺の前でいかにも怒り心頭といった表情をしてる大蛇の動きも問題だ。そりゃあ目を刃物で刺されたら誰だって怒るし、何度も攻撃を躱されていれば苛つきもするだろう。
魔物との戦闘経験が少なかったせいで、怒りがこっちに有利になるものだとばかり思っていたのが悪かった。より暴れまわって手が付けられなくなっている。流石にあの巨体の暴れに対応しながら攻めるには、こっちの体力が先に底をつく。さて、どうしようか。
ケイルは大蛇の攻撃を躱しながら対応策を考え続ける。
突進してくる大蛇を横っ飛びで躱し、一瞬魔力を全力で放出する。その後周辺に刺しておいた魔力の籠った矢に紛れるように、漏れる魔力を極力遮断しながら茂みに隠れる。
今のケイルには魔力の完全な遮断を行えるだけの能力がない。今できるのは暗いところから急に明るいところに出たときのように、目がくらんだ一瞬を利用してどれが本物かを分かりずらくするくらいだった。
大蛇は一瞬の魔力放出であたりを付けた方向へと突撃していく。突撃した先にケイルはおらず、攻撃を外した大蛇の怒り狂う声が木々を揺らした。
ケイルは再び息を整えながら大蛇を観察する。
「そろそろ決めないとまずいか。」
ケイルが茂みから飛び出し、手当たり次第に攻撃している大蛇の方へと駆けていく。それに気づいた大蛇も再び加速をつけて突撃をしてくる。
大蛇の隙を作るために、ケイルはリスクを負って近距離で避けた。このやり方もケイルがドータとの修行で学んだ戦い方。近距離での回避は相手の小さな隙を大きなものへと変える。
大蛇にできた隙に、ケイルは体の筋肉を連動させて勢いを強めた一撃を振るう。
「ウオラァァ!」
斬撃は高速で動く大蛇の首へと襲い掛かるが、蛇の勢いとその体表の硬さが剣を滑らせダメージを最小限にしてしまう。体表の硬さに、高速な動きが交わるとその防御力は遥かに高まる。
ケイルは舌打ちをしながらバックステップで距離を取る。
動きは掴めてきてるんだ、次の突進で決める。体勢を十全に、相手の動きを見極めろ。今までの傾向から突進を俺が回避した後、コイツがとる行動は二パターン。体を地面や木にぶつける急制動からの尻尾薙ぎ払い、もしくはそのままUターンして再突撃。さて今回は…前者!
回避に成功し、そのままバックステップ。長剣を再び構えなおす。…魔力による視力強化がなかったら今頃俺は死んでるんだろうな。こんな戦いやすくなるとは。目の強化を重点的に鍛えてて良かった。だがまぁ、躱し続けるだけってわけにはいかないよな。
攻撃の狙い目は二つ。突進の近距離回避と、尻尾攻撃回避から接近しての噛付きへのカウンター。そろそろパターンも分かってきたし、次こそ決めてやる。
こっちの攻撃で深手を負わせられるのは残る片目への長剣の突き刺しか、相手の首元の傷に対するカウンター、そして口内への攻撃。
突進が来たら目に対する長剣の突き刺しからの空中回転で受け流し。噛みつきなら最初は口内を狙って無理そうなら首だな。
大きく息を吸い思考をクリアに。そこから最後の勝負へと意識を集中させる。ここが魔物根絶への第一歩。両手両足に力を込めて目に魔力を通す。
ケイルの気迫を感じ取ったのか今まで以上の勢いで突撃してくる大蛇。そしてケイルもまた走り出した。大蛇の選んだ行動は突進だった。
準備は完璧、あとは剣を垂直に刺して威力を十全に発揮するだけ。タイミングを見計らえ、一瞬でもズレたら致命傷だ。あと三秒、二秒、一秒、今!!
ケイルの渾身の一突きはタイミングも軌道も完璧だった。
修行の成果が実を結び、勝利の果実がケイルの手元に落ちてくる。
長剣が大蛇の瞳孔を貫く
—――――その時、集中により拡張された時間の中で、ケイルは大蛇の口元に笑みを見た。
蛇は狡猾なのだ。落ちてきたのは禁断の果実。
すべては蛇の狙い通りだった。
蛇は自らの力のみで突進に急制動をかけ、慣性を乗せたままその口から毒液を吐く。大蛇の体は無理のある急制動により、いくつもの裂傷と出血を起こす。だが、間違いなくその動きはケイルの虚を突いた。
魔物が頭を使ってケイルを逆に罠へと嵌める。大蛇が怒りで単調になっていると思い込んだケイルの頭にその想定は少しも無かった。人間の足裏は意識の外で急な制動をかけることができるようには作られていない。ケイルにそれを回避する術はなかった。
ケイルがそのまま毒液に突っ込む。目にいつも以上の強化を施していたこともあり、寸前で足の力を抜いて体を倒すことで毒液の大部分は回避することができたが、顔の左側や左手は回避が間に合わずに毒液を浴びてしまった。
毒液を浴びた部分が煙を上げながら焼け爛れていく。
痛い痛い熱い痛い熱い。
顔が燃えるように熱い。左目も見えない。腕もうまく動かない。痛みのせいで考えがまとまらない。くそ、油断した!あいつは冷静さを欠いていると思い込んだ!目的に囚われすぎた!自分の浅慮が嫌になる!また俺は負けるのか?!くそ、まだだ!まだ終わってない!!右腕はある、右目もある!だったらまだやれる!やれるだろ!!
倒れて藻掻きながらも立ち上がろうとするケイルに近づく大蛇。その眼はカイルを殺した魔物と同じ金色。
ケイルの碧い瞳に大きく金の瞳が映り込む。それはケイルが心を壊さないよう無意識の内に封じ込めたもの。眠っていた記憶と同じ光景だった。
胸に溢れるのはいっぱいの無力感と張り裂けそうな憎しみ、そして怒り。こいつら魔物は平気で人を殺し、その無力を嘲笑う。あぁ、その顔を止めろ。これ以上、必死に生きる人間を、不条理に立ち向かう人間を、嘲笑うなッ!!!
体に白い光が巻き付き始める。それは魔力、そして短剣に込められていた神力の残滓であった。
この世界には神の力を人間にも扱える形に変化させて魔力で模倣した技がある。その力は生死を分ける戦いのとき、大きな感情が発露したとき、そして人が抗う力を望むときに開花する。それこそが、
—――――【
ケイルの心に呼応して体が経験を収束する。体に巻き付いた光は焼けただれた部分を覆っていく。形が徐々に変化して、体を治し、彼を更なる高みへと引き上げる。
大蛇がその魔力の奔流に怯えるかのように距離を取る。
一瞬の大きな光の後、そこにいたのは顔の左側を覆う白い仮面と左目を補助するように浮かぶ数枚のレンズ、そして左肩を覆うマントと左腕で存在感を示す白き手甲を纏ったケイルの姿だった。手甲や仮面、レンズに刻まれた細かな紋章は人の手には作れないないほどの技巧を感じさせ、降り注ぐ陽光を受けて輝いているように見えた。
ケイルはレンズの奥の
体に力が滾る。傷も治っていくのが分かる。これは一体何なんなのだろう?だけど今は、この力があるということだけ分かってればいい。
長剣に魔力を流すと、陽光のような光を発した。おだやかで暖かな光、猪型魔物の時を思い出す。たぶん彼女の力なのだろう。
襲い掛かってくる大蛇をかがんで避け、首元の傷に刃を立てる。大した抵抗もなく強靭な体に入る刃はその切れ味の鋭さを、そして斬った場所から上がる煙は魔物の傷口がその光によって焼けていることを示していた。
咄嗟に首を引いた蛇は俺を尻尾で薙ぎ払おうとする。だけど、俺には絶対に攻撃を防げるという予感があった。左肩のマントの裾を翻し、薙ぎ払いを手甲で受ける。大白と黒がぶつかった瞬間、尻尾は勢いが消えたように止まる。この距離でその隙はあまりにも大きすぎる。
強く踏み込み、首元の傷口に目を凝らす。浮かぶレンズがひとりでに動き出し、弱点とそこに至るまでの剣の軌道を俺の視界に浮かび上がらせた。右手に持った長剣がその傷と寸分違わない位置へと入ると、長剣の纏った魔力が爆発的に大きくなる。
—―――――狡猾な蛇の首は断ち切られ、
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