EX-03 -Side ドータ-

 

 あいつ―――ケイルの修行は俺の想定以上のスピードで進んでいる。




―――――修行初日。


 俺はケイルの実力を実際に見てから修行の方針を決めようと思った。


 実戦さながらの組手。そこで分かったのは、あいつは”頭の回転が速いこと”と”戦闘経験が少ないにも拘らず実践的な体捌きができていること”、そして”目がいい・・・・こと・・”だった。


 最初の組手の時、あいつは徹底的に俺の目を潰そうとしてきた。最初は矢で、そして俺が反撃した後はその場にあった土や草で。今思えばあれはおそらく自身が目で戦闘の状況や相手の攻撃を捉えていること無意識に悟っていたからだろう。


 そして休憩を挟んで組手を再開した時、あいつは俺の攻撃を完全に目で捉えて躱そうとしていた。俺の攻撃を読んでいるというのもあっただろうが、間違いなくあいつは自分の強みを押し付けに来ていた。


 今はまだ目の良さを十全に使えているとは言い難いが、あいつの目は今後必ず大きな武器になるはずだ。相手の筋肉の動きを見て相手がどう動くかを判断し、それに対処する。これができれば、あいつは往来のセンスも相まって相手から見て相当戦いにくい敵になるだろう。


 だが目と同様にあいつは頭の回転と体捌き、つまりその戦闘センスの高さを現状全く生かせていない。基礎的な体力や筋力などもそうだが、おそらくあいつはルミナ—――うちのパーティーの狩人で【魔花グロリオサ】の二つ名を持つあの女と同じタイプだ。戦闘時の取れる選択肢の少なさ・・・・・・・・・・。それがあいつの強みを活かしきれない理由だろう。早めに会わせるべきかもしれない。


 いくらか組手をした後は傷と体力の回復まで魔力を感じる修行をすることにした。


 あいつは魔力の感受性もかなり良好だった。最初から魔力光を視認できたこともそうだが、体内の魔力を感じ取るというのも中々修行なしでできるものではない。


 それに加護が目に乗っているだけでなく、それがかなりの上昇率だったのはうれしい誤算だった。魔力が使えるようになればさらに強く視力を強化できる。魔力操作はこれからあいつの生命線になるに違いない。体内魔力の感知と操作を毎日自主練習としてやらせることにしよう。


 …………だが、それよりも気になるものがある。あいつの魔力色が白色・・だったことだ。幸い見たのは俺とクレンダだけだったが、白色は俺も初めて見る色だった。


 魔力色が神授職業と深く結びついていることは前から言われている。そこからあいつの適正は”無し”もしくは”全て”のどちらか。ステータスから見ておそらく後者だろうと判断できる。


 もしも本当にすべての神授職業に適性があるのなら、古い伝承にある神の寵愛を受けている者なのかもしれない。


 なんにせよこれからが楽しみだ。





—――――修行開始から一か月。


 

 俺は普段トラブルや上からの緊急性のある依頼に備えてギルドに常駐しているのだが、ここ一ヶ月はギルドの冒険者が関わる問題が起きず、俺の仕事も少なかった。

 その分をあいつの修行に充てられたのは良かったといえるだろう。


 今あいつには魔力操作と直剣を扱うときの型を教えている。


 直剣というのは武器の中でも基本的な戦い方を覚えるのに適した武器であると言える。扱い方に特別癖もなければ、その重さを活かした戦い方は他の武器でも応用が利く。どんな状況にでも対応がしやすいというのもある。

 実戦で型を使うことはなくとも、剣の振り方を覚えることに意味がある。勿論、俺との組手でも使うように指示している。型の活かし方を学んでいる最中だ。


 また剣とは別に、あいつは持ち前の器用さで魔力の操作もある程度できるようになってきた。前は魔力が泥のように重いと言っていたが、今では速度こそまだ遅いものの体中を巡らせることができるようになっている。

 ここらで魔力操作の修行を投げ出す奴も多いが、幸いあいつは修行を続ける才能もあるらしい。このことは黙っておいて、魔力操作は手癖のようにできるようになってもらおうと考えている。目標は俺のパーティーの魔術師で今は宮廷魔術師も兼任しているベリルと同じくらいの練度だ。


 一ヶ月でここまで行けるとは誤算だったが、修行のペースを上げられるのは良いことだ。 

 あと数か月は今の修行を続けて、それから新しいものに移ろうと思う。弓や短剣といった武器を使っていたせいか、リーチのある近接武器の扱いにまだ慣れてない。そこを重点的に鍛えていくつもりである。特殊な武器はルミナの方が精通しているし、俺は槍や斧なんかを教えるのもいいかもしれない。


 また、あいつは組手にもだいぶついてこれるようになった。最初は武技の重要性を教えるために能動強化アクティブを使ったが、以降は使うことを避けている。力でねじ伏せられるだけでは修行も行き詰まってしまうからだ。あいつのレベルが上がり次第、武技を使った組手もしていこうと思っている。


 さて、今日も修行をつけに行こう。




—――――修行開始から半年。



 俺の教え方もあいつの戦い方もだいぶ板についてきたんじゃないだろうか。


 あいつは直剣の修行を終わらせ、現在は槍の修行を行っている。おそらく速度を活かすあいつの戦い方では槍を使うことは少ないと思うが、槍の使い手を相手にしたときの対処には活かせるはずだ。もし武器を瞬時に切り替えられる状況でならあいつが槍を使う機会もあるかもしれないが。


 それと、あいつも今では組手で剣を使ってある程度戦えるようになった。まぁまだ少し型をそのまま使ってしまう節はあるが、おそらく銀級下位くらいの実力は身についたと思っている。実戦を繰り返せば型を自分なりに崩せるようになるだろう。


 そんな剣の扱いに対して魔力操作は文句なしにできるようになった。

 操作速度は見る限り相当早い。金級とまでは行かなくとも、銀級上位の魔術師と同程度はあるだろう。おそらく体の内面の方が自在に扱えるタイプだな。今は魔力操作ではなく強化したい感覚を他より大きく強化することを目標にしている。


 目の強化もすでに平常時ならば維持できるようになっているが、ほかの感覚器の強化は平常時ですら少し不安定だ。それに目の強化も戦闘中は途切れてしまうようで、それが逆に動きの精細さを欠く原因となることもある。


 まぁ、魔力も型も実戦で生かすには実戦で使い続けるのが一番効率がいい。今後も続けさせていこうと思う。



 私生活の方はだいぶ王都になじんできたようで宿屋の老夫婦や鍛冶屋のおっさん、クレンダにアルト、ギルド酒場の職員たちとも良好な関係を築けているようだ。


 ほかの冒険者と話しているところもよく見る。冒険者にとって円滑なコミュニケーションは依頼達成にも重要だ。もう少ししたら依頼を積極的に受けさせて銅級には上げといたほうがいいかもな。




—――――修行開始から一年。


 あいつの戦い方はだいぶ形になってきた。感覚の強化も申し分なく、槍の型の習熟もかなり進んできている。冒険者等級も銅級まで問題なく上がった。


 順調なのは良いが、その分あいつのステータスの異常が見て取れるようにもなってきた。何と言っても魔力の総量だ。これは他に類を見ない《・・・・・・・》ほどで、おそらく天才と呼ばれているベリルよりも相当多いだろう。放出訓練で魔力が全く枯渇しない奴は初めて見た。明らかに異質だ。


 器用さや魔力色だけでは説明できないほどの才能の片鱗。期待はしていたがここまでの原石だったとは。とはいえ、現状ではまだ俺たち金級冒険者に遠く及ばないということには変わりない。


 金級は一流の冒険者である証。誰だって奥義の一つや二つは持っている。俺らのパーティーに至っては全員が奥義を四つ以上持っている。つまり武技は20以上・・・‥・・能動強化アクティブ恒常強化パッシブは重ね掛けすることで性能が上がっていくため、武技の個数ははそのまま戦闘力に直結することになる。


 あいつはまだ戦いの経験が少ない。

 それは対人だけでなく対魔物もだ。俺たちとの間には才能以前にレベルという無慈悲な壁が存在している。その壁は魔物を倒すことでしか壊せない。


 だからこそ、レベルが低いのはしょうがないことなのだが、早めに経験は積ませたい。確かレスト付近に発生した魔物はまだ討伐が成されていないはず。小型魔物もいつ発生してもおかしくないくらいの時間は経っている。いつ実戦になっても問題ないよう実戦形式の修行を増やすか。



 それにいつ魔物の緊急調査依頼が出るかも分からないため、あいつには依頼の方もかなりの頻度で受けさせるようにした。街中での依頼から森での依頼まで様々だ。この経験は緊急依頼が出たときに間違いなく活きてくる。周辺地理を知っていると知らないでは明確な差が出てくるからな。


 さすがに同伴はしなかったが、ほかの冒険者に聞いたところ本職が狩人ということもあり、街外の活動は目を見張るほどスムーズであったらしい。これなら銀級になるための護衛依頼も無事にこなすことができそうだ。


 ここから数か月の間、俺は別の街で依頼をこなしてるパーティーメンバーの手伝いであいつの修行に付き合っていられない。本格的な修行の再開は半年ほど後になるだろうか。もし魔物関連の依頼が出たときのために、俺も色々手回しをしておくか。それと装備の整備など自分の依頼の準備もしなくては。


――――二つ名【海蝕】を持つ魔物の調査だ。気を引き締めていこう。



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