EP-11 ステータス

「これが俺のステータス…。」


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 名前:ケイル

 神授職業:狩人【10】

 二つ名:なし


 力:C+

 耐久:B-

 敏捷:B-

 魔力:―

 器用:S

 耐性:C


 スキル:【死線】【覚悟】

 讓ゥ閭ス?壹?仙ソ?愍縲

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 用紙にはいくつもの項目が書き記してあった。何となく分かる項目もあれば、まったく意味の分からない項目もある。

 ケイルは用紙から顔を上げ、正面左右の二人の顔を見る。


「読み方が分からないな。二人ともステータスの読み方を教えてく……?」


 目に入ったのは二人の険しい顔。

 ケイルはつい様子をうかがってしまう。


「クレンダ、いくつか不思議な点があるが見覚えはあるか?」


 ドータが顎に手を当ててクレンダに問いかけた。


「いえ、魔力の値とこのスキルは見たことがありませんね。どう読むのかもわからないスキルは私も初めて見ます。…………それに最後の行はいったいなんて書いてあるのでしょうか?」


 クレンダも困惑しているようで、ケイルは自分のステータスがおかしいことを感じ取る。会話から推察するに、魔力と書いてある行の値や文字が読めなくなっている最後の行がおかしいようだ。

 ケイルが再び用紙に顔を戻し文字を読んでいると、ドータが真剣な顔でクレンダに指示を出した。


「……このことはあとでアルトに伝えといてくれ。アルト以外には他言無用だ。要らんトラブルは避けたい。」


「わかりました。取り敢えず登録する準備をしてきますね。ケイルさん、詳しい説明はドータさんが今度こそ!してくれるはずですのでお先に失礼いたします。ドータさん、お願いいたしますね。」


 クレンダはドータにきちんと説明するよう念押しをした後、小走りで部屋を出ていく。彼女が部屋から出ていき、残ったのはケイルとドータの二人だけ。ケイルは当然ドータに説明を求めた。

 それに対してドータも頭を掻きながら今度はしっかりと説明を始める。


「あー、じゃあまずはステータスの読み方から行くか。名前は良いとして、神授職業ってのはお前の就いていた村の狩人とは違う神像で得られる職業のことだ。隣の数字がレベルだな。おそらくお前の村に狩猟神様の神像が祭られていただろう?その像は一般人からしてみればただの信仰対象としての像だが、俺たち冒険者や信頼が必要な職業についてる奴からしたら違う意味を持つ。神授職業というものを得ることができるからな。カイルさんが不思議なことをしてなかったか?例えば、とてつもない速さで矢を放ったり普段とは違う身体能力を発揮したりとかな。それが神授職業で得られる【武技】ってやつだ。俺たちはいくつもの種類があるこれを使い分けて魔物と戦うんだ。」


 ケイルは昔父と一緒に狩りに出かけたときのことを思い出す。カイルが時折獲物をしとめるのに使っていた射撃術は確かに幼いケイルには意味が分からないものばかりであった。

 一本の矢しかつがえていないのに同時に二頭の動物を仕留めたり、矢を放った瞬間に既に目標に矢が突き刺さっていたりした光景は今もケイルの脳内に焼き付いている。



 ちなみに余談ではあるが、カイルはケイルが10歳になった日の初狩猟で彼が弓の使い方や探索という冒険者として必要な技能をかつてないほど楽しんで覚えていた様子を見て、血が争えないこと、そしてそれと同時にケイルがこれから先、自分と同じように冒険者となり危険な道を進むかもしれないとも悟った。

 そこで彼は冒険者時代に培った武技や魔物との戦い方や経験を封印し、狩人としての面のみを見せることでケイルが冒険者になる可能性を少なくしようとした。冒険者が危険な職業だというのは金級まで上り詰めたカイル自身がよく知っていたからだ。


 しかしカイルは良くも悪くも父親であった。“父として強くかっこいいところを見せたいという欲”と“親として子供が冒険者という危険な道にわざわざ進んでいかないでほしいという願い”から武技の出力を抑えに抑えつつも武技を使いつつ狩猟をこなしていたのだ。そして武技を使って獲物を仕留めてケイルから純粋な尊敬の目で見られる度に自分の汚さに落ち込み、次こそは武技は使わないと思いつつも武技を使うというループを何度も繰り返していた。これはカイルの生涯の秘密である。

 何も知らないケイルはそんなカイルの葛藤も露知らず、見たこともない冒険者になるのではなくこの先も狩人として生きていくのだとついこの前まで考えていたのだが。



 閑話休題それはさておき


 ドータの説明はまだ続く。


「武技の説明は今度またしてやるからここで終わるとして、神授職業ってのはこの国に伝わる十二柱の神たちに対応して十二個存在してんだ。その中の一つがお前の持つ狩人の職業だな。ちなみにこの街では騎士の職業をつかさどる騎士神様を信仰してるな。あとで教会に行っとくといいぞ。騎士の神授職業が増えるはずだ。」


「わかった、そうするよ。この二つ名ってのは?」


 ケイルの質問にドータは丁寧に答える。


「簡単に言うと異名みたいなもんだ。どういう風に認定されるのかは知らねぇが、有名になると勝手につくもんだから気にしなくていい。」


 ケイルが頷くとそれを見たドータは次の説明に移る。


「次は能力値についてだな。能力値は“力”、“耐久”、“敏捷”、“魔力”、“器用”、“耐性”の6つがある。それぞれ力、耐久力、敏捷性、魔力量、器用さ、魔法や薬に対する耐性を指標化したもんで、一般人が大体Cくらいだと思っておくといい。お前は冒険者になるまで狩人として活動してたから一般人よりは強いくらいになってるんじゃねぇのか。冒険者として活動してくなら駆け出しもいいところだがな。まぁ、器用の項目が高い奴は手先も器用だし覚えも早い。その点お前は器用が高いから戦闘技術を習得するのも比較的早いはずだ。技術はステータスに関係ないからな、覚えが早いのは強くなる上で大きく有利だ。さいわい訓練次第で能力値はSSまで到達できるってのを【筋無双】のやつが証明してっから、これからも頑張るといい。」


 用紙を見ながら真剣に聞いていたケイルだが、今の話を聞いてふと一つ気になったことがあった。

 魔力の値。――と書かれた部分である。


「その指標はどういう順番なんだ?特にこの魔力値とか。」


「E→D→C→B→A→S→SS→SSSの順でそれぞれに-や+が付くこともあるって感じなんだが…何も書いてないってのは見たことがねえ。お前もこのことは他言すんなよ?王城にはステータスについて研究してる研究者たちがいるが狂ったやつしかいねえことで有名だ。下手すりゃ捕まって来る日も来る日も意識があるまま解剖されるなんてこともある。」


 王城にそこまで危険な集団がいて問題はないのか、それに毎日解剖されることが実際にあったことのように語られているのは気のせいなのか。

 気になったことはいくつもあったが、とりあえずこのことは誰にも言わないでおこうと誓ったケイルだった。


「あとはスキルだな。これは能力値の指標には表れない補正がつく特殊技能みたいなもんだ。一般的には自分の成してきたことが神に評価されるとそれに応じたスキルが反映される。有名な冒険者には十二柱の神のうち、戦闘に関連している六柱の神の誰かの加護を持つ奴が多いな。俺が持つのは戦士をつかさどる戦神様の加護だ。この加護ってのが色々と有益な効果を持っているから妙に強い奴は大抵何かしらの加護を持っていると思っていい。ちなみに冒険者ではこの戦神様の加護が一番多いはずだ。だからお前のも戦闘関連の六柱のいずれかの加護だと思うんだが…。なんで読めねぇんだろうな。…………まぁ、多分だが加護をくださったのは狩猟神様だと思うぞ。神授職業が一つしかないからな。」


 首をひねるドータを尻目に、ケイルは自分のスキルがおそらく陽神の加護だと悟った。陽神は猪型魔物を倒した洞窟で自分には使徒がいないから伝わっていないと言っていた。それが原因でステータスの欄が異変を起こしているのだろう。

 

 ケイルは手元の用紙に視線を落とす。


 今までのことを思い出し、刻まれた文字を指でなぞった。


「ステータスは調停神様と叡智神様が共同で作り上げた物らしいから読めなくなるなんてことはないはずなんだが…………。まぁいいか。これも他言無用だ。解剖なんてされたくないだろう?」


 己のステータスには地雷がたくさん埋まっているようだと、ケイルは全力で首を縦に振る。


「よし、じゃあ基本的な説明は以上だ。そろそろクレンダの用意も済んでるはずだし冒険者証を貰いに行くぞ。」

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