EP-10 父の大きな背中
「では次に今後冒険者として生きていく上で重要な『レベル』や『ステータス』のことを簡単に説明し…ようと思ったのですが、ドータさんに説明してもらった方がよさそうですね。」
苦笑いを浮かべているクレンダの目線を追うと、こちらを見ていたドータと目が合う。向こうもそれに気づいたようでこちらに手招きをしていた。
「そうみたいですね。色々とありがとうございました。」
「いえいえ、また何かあればお声がけくださいね。」
クレンダに軽く頭を下げて感謝を告げた後、ケイルがドータのもとへと歩いていく。その後ろ姿を見て、クレンダは新しい風がこのギルドに吹くことを予感した。理由は分からず、彼がこの先どんな物語を綴るのかも分からない。だが、それでもクレンダは確かに何かが変わると思った。
♢♢♢
「ん。遅かったな、先にいろいろ頼んどいたから好きなもん食え。」
ケイルは目の前の食事をバクバク平らげていくドータに一言感謝を告げて席へと座る。目の前に置いてある肉を口に入れつつ新しく飲み物を注文するとそれを待っていたドータが口を開いた。
「んじゃ、まずは何から話すか。……よし、最初はお前の親父さんの話からだ。お前はどこまで聞いてんだ?」
自分の前においてある一塊の肉塊を食べきり、ドータは指を拭きながらケイルの方を見た。ケイルも一番気になっていた話題から始まることになり、食事もそこそこに姿勢を整えて耳を傾ける。
「んーと、父さんがトールさんと昔パーティーを組んでいたってことだけかな。あとはさっきのアルトやドータの反応からそこそこ有名だったのかなってくらい。」
「馬鹿野郎、そこそこどころかこの辺の冒険者でその名前を知らないやつはいないくらいの有名人だぞ!【
ドータ曰く、カイルとトールはまだケイルと同じくらいの歳の時に東部開拓戦線で数多の活躍をして金級冒険者になった。その後も開拓戦線の最前線で戦いつづけ、追加で様々な功績を立てるもパフォーマンスの面から最前線で戦うことを止めてこの街へと凱旋。その後はこのギルドで指導役として若い冒険者をしごいていたらしい。
彼らはその厳しいながらも必ず役に立つ指導と人を惹きつけるカリスマ、そしてその性格の良さから冒険者だけでなく一般の人々にまで好かれており、彼らと彼らの作った指導手引書のおかげで冒険者という職業に対して優しい町になったという噂もあるという。
ケイルの記憶にあるカイルとトールは優しい父親としての面が目立っていた。だからこそ、自分の知らない二人の冒険譚を聞いてケイルは今までより強く、そして鮮明に二人に対する敬意を覚えた。
(二人と同じ金級冒険者になることも目標にしよう。)
決意を新たに目標を設定したケイルは、そもそも金級冒険者というのがどれほど難しいのかをドータに質問することにした。
「ちなみに途中で話に出てきた金級ってのはどれくらいいるんだ?たしか白金級が数人だよな?」
「金級冒険者は現役だと大体50人くらいじゃねえか?この町には俺含めて4人だな。」
「へぇ……ん? 俺含め?」
「ん?言ってなかったか?俺は金級冒険者だ。あと、残りの三人はうちのパーティーメンバーだ。さて、魔物の話は…まあ後でいいか。次はステータスとかレベルの話でもしよう。」
衝撃の事実を聞いたケイルが固まっているのもお構いなしでドータは話を続ける。
「冒険者になると冒険者証ってのが貰えるんだが、多分まだ貰ってないよな?」
なんとか正気を取り戻したケイルは首を縦に振った。
「オーケー、じゃあ行くぞ。冒険者証は冒険者ギルドの初心者講習が終わった後に『祭壇』でステータスを記入したら貰えるんだがお前は後からでいい。先に冒険者証を作っとけ。俺からの詫びみたいなもんだ。」
食事を既に終えていたドータが歩き出し、少し遅れてケイルが自分の残りを食べきって早足で追う。ドータが向かう先はどうやらクレンダの受付で、ケイルは祭壇とやらには行かないのかと不思議に思いながらもついていく。
クレンダの受付には多数の冒険者が並んでいたが、ドータが声をかけると呆れながらも順番を譲る。その後ろを歩くケイルに軽く声をかけてくる者も多く、掛けられた声は謝罪や応援と様々だった。
ケイルが冒険者たちのことを少し不思議に思っていると一番前にたどり着いたようで、ドータがクレンダへと話しかけていた。
「クレンダ、祭壇空いてるよな?」
「はい、今は空いていますが…ドータさん、順番は守ってくださいね。あなたは冒険者の見本となるべき金級冒険者なのですから。はぁ…。まぁ皆さんもドータさんに対して嫌だったら嫌だというので大丈夫だと思いますが…………。祭壇はもしかしてケイルさんに?」
「ああ。みんなもすまなかったな!俺の奢りだ。これで好きなだけ飲め!」
クレンダに言われて後ろを振り返ったドータが、一番前にいた冒険者に金貨の入った袋を放り投げる。並んでいた冒険者は喜びの雄たけびを上げ、並んでない冒険者までもが寄ってくる。
ドータがなんやかんやで頼れる兄貴分になっていることは見ていてケイルも理解した。クレンダの方を見ると、またも彼女は苦笑いを浮かべていたが。
ともかく、何やら許可を取りに来たらしいことだけは理解したケイルはドータに説明を要求する。しかし、ドータは構わず応接室の方へと歩いていく。付いてきたクレンダもため息をついていた。
ケイルはドータに聞いても埒が明かないとクレンダに対して気になっていたことを聞く。
「すいません、祭壇ってなんですか?」
「ドータさん、それも説明してないのですか?」
クレンダのジト目を無視したドータは先ほどより奥にある応接室に向けてズンズン歩いていく。
「ったくしょうがねぇな。説明は歩きながらしてやる。祭壇ってのは簡単に言えばステータスの更新や閲覧ができるやつだ。ステータスってのはそいつの能力値を誰にでもわかるように指標化して表示してるやつで、上位ランクになるとギルド側で適した仕事を判断して割り振らなくちゃならねぇこともあるからな。大事になってくるんだよ。」
ドータが目の前にある少し意匠の違う扉を開ける。
扉を抜けた先には机や本棚ではなく一部屋が丸ごと石造りの祠のようなものが存在していた。部屋の中央にある石造りの灯篭のようなナニカは黄と青の光を発しながら浮いており、その周囲を小さい黄色の石と青の石が一定の間隔で回っている。
ケイルは目の前のソレからどこかこの世界のものではないような違和感のようなものを感じる。
「それが祭壇だ。中央のでかいやつに手をかざしな。そしたら手に何か巻き付くような感覚があるはずだ。」
ドータに言われるがままケイルが祭壇に手をかざすと光が強烈に輝きだし、かざした腕に白色のナニカがまとわりついているような感覚がした。
「この光の強さに色…………こいつはそこまでの可能性を秘めてんのか。」
何か呟くドータに気づかず、ケイルが腕にまとわりつくナニカをまじまじと観察していると、クレンダがケイルに手元の用紙を差し出す。
「ケイルさん、この紙に腕を近づけてください。ステータスが表示されるはずですので。」
ケイルは言われるがままゆっくりと紙に手をかざす。
腕にまとわりついていたナニカはゆっくりと紙に吸い込まれていき、すべて入った途端紙にぼんやりと文字が浮かび上がった。
不思議そうに手に持つ紙を眺めていたケイルにドータとクレンダが近づき、三人で一緒に紙を眺めているとぼんやりとした文字がはっきりと読めるまでになった。
「これが俺のステータス…。」
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