EP-09 冒険者登録

 応接室に入ったケイルたちはアルトが手ずから淹れた紅茶を飲みながら話を始めた。


「まずは自己紹介からかな。僕はアルト、このギルドの副長サブマスターをしている。そしてこっちの人かどうかも怪しい形相のやつがドータだ。先ほどはすまなかったね。彼、ギルドのためを思ってする行動がしばしば裏目に出ることがあるんだよね。あはは。」


「……悪かった。」


 柔和な顔つきで笑うアルトとバツの悪そうな顔をしたドータを見て、毒気が抜けたケイルは大きく息を吸い、気持ちを切り替える。元々ギルドに来た目的を達成することの方が大事だとケイルはトールからもらった手紙を取り出した。


「ケイルです。謝罪を受け入れますので、頭を上げてください。ドータ………さんももういいですから。アルトさん、この手紙を。」


「アルトでいいし、敬語もいらないよ。……どれどれ。」


 手紙を受け取ったアルトがその中身を確認していくと徐々に彼の顔つきが剣吞なものへと変わっていく。凄まじい速さで手紙を読み終えたアルトはドータに手紙を渡して中身を読むように促した後、ケイルの方に向き直る。


「ケイル君、悪いけどドータにもこの手紙を見せる。見ての通り彼は相当強くてね。力を借りた方がいいと判断した。」


 真剣なアルトの言葉にケイルは無言で頷く。

 その間ドータは手紙を読んでいたが、彼もアルトと同じように目を細めて何かを考え始めた。


 ドータはアルトの方に顔を向けて真剣な表情で頷く。


「………アルト。」


「うん。ケイル君、この手紙の内容は本当に正しいんだね?大型魔物が発生したならこちらも被害が出ないようにそれ相応のコストをかけた対応をする責任がある。この手紙はどこの村のものだい?」


「あぁ。手紙の差出人はレストの村長、トールさんだよ。その魔物を見つけてトールさんに報告したのは俺だ。嘘じゃないのも俺が証言する。」


「ふむ。……ちょっと待ってくれ今トールといったかい?その人は茶髪緑眼の御仁かい?!」


 ケイルが魔物の発見者と聞いて再び思考を巡らせていたアルトだが、話に出てきたトールという名前を思い出してその目を見開いた。


 とてつもない剣幕で質問してきたアルトの様子が気になりながらもケイルが頷くと、アルトはすぐに立ち上がって椅子に掛けたコートを手に取り、早足で出口へ歩いていく。


「ドータ、後のことは頼んだよ。諸々の手続きが済んだら調査に出てもらうから。僕は城へ行って周辺地域の魔物調査とレストへの救援について話し合ってくる。」


「おう。」


 突然部屋を出ていったアルトを見てケイルはポカンとしていたが、ドータが手をケイルの目の前で振ったことにより意識を取り戻す。


「んで、お前は確か冒険者登録もしにきたんだったよな?案内するからついてきな。」


「は、はい。」


「俺にも敬語はいらねぇよ。さっきみたいな素で話してくれていい。それにしてもお前があのトールさんと知り合いだったとはな。どういう経緯で知り合ったんだ?」


 アルトに遅れて部屋を出た二人は受付カウンターの方へと向かいながら話をする。ケイルはドータの興味深そうな声色を疑問に思いながらも質問に答えた。


「うちの父さんが昔トールさんとコンビを組んでたらしくて。俺が小さいころよく世話になったんだよ。」


「へぇ…………ってなんだと?!ってことはお前の父親はカイルさんか?!」


 興奮交じりに聞かれ、ケイルは面食らいながらも肯首する。


「なるほどな、腑に落ちたぜ。お前の振る舞いと雰囲気の違いはそういうことか。」


「それはどういう……?」


「詳しい話は登録が終わってから落ち着いたところでしてやるよ。クレンダのとこが今空いたみてぇだからそこで登録してきな。終わったら俺んところに来い。」


 入り口左手の食事処の方へ向かうドータを一瞥した後、ケイルはこちらに気づいたクレンダのところへと向かった。


「いきなり災難でしたね。お疲れ様です。私は当冒険者ギルドで受付をしております、クレンダです。よろしくお願いします。」


「ケイルです、よろしくお願いします。早速ですが冒険者登録をしたいのですが…。」


 ケイルの顔にはほんの少しだけ緊張が滲んでいた。先ほどドータに対して見せていた表情とは違う、年相応でどこかまだ子供っぽさが抜けない表情。ケイルの緊張を表情から読み取ったクレンダはクスリと笑みをこぼし、普段よりも少しゆっくりとした話し方で冒険者登録の説明を始める。 


「承りました。ではまず、冒険者について軽く説明させていただきますね。」


 ケイルは頷き、時々質問をしながらも説明を噛み砕いていく。


「…………ここまでは理解いただけましたでしょうか。」


「…はい。大丈夫です。」


 トールから教えてもらった知識と照らし合わせて、情報を整理する。

 基本的には聞いていた話と同じようだ。冒険者以外には絶対に迷惑を掛けない、依頼はしっかりと完遂するか諦めるにしても報告をしておく、指名依頼や緊急依頼についての注意にギルドで行われている初心者講習の概要。

 

 それらを必死に頭に叩き込んでいると、微笑んだクレンダから一枚の紙を手渡された。


「冒険者規則に関しては詳細をまとめたものがカウンター右手の階段を上った先にある資料室にございますので不安になったら見に来ていただければ問題ございませんよ。周辺地域の植生や動物の生態系も同じく資料室にて確認できますので是非ご活用ください。では、冒険者登録のためこちらの用紙に必要事項を書いていただきます。代筆は必要ですか?」


 用紙には名前以外にもいくつか書く場所があった。ケイルはセリアから文字の読み書きについても教えてもらっており、生来の覚えの良さから専門的なものでなければ読み書きができるようになっている。


 必要事項を記入し終え、再度上から順に書き漏らしがないかを確認したケイルはクレンダへと書き終わった用紙を手渡した。


「大丈夫です。…………はい、これでお願いします。」


「確認させていただきます。ケイルさん、17歳、討伐依頼優先希望、現段階での希望役割ロール全般オールラウンドですね。問題ありません、これにて冒険者登録は完了となります。これから同じギルドに所属する者として、よろしくお願いいたしますね。」


「はい、よろしくお願いします!」


 冒険者登録を無事に済ませたケイルは満足そうに息を吐く。色々とあったが、ケイルはようやく冒険者として最初の一歩を刻んだのだった。



—―――――――――――――――――――

Tips.「冒険者ギルド」


 第一大陸、第二大陸両方で活動する冒険者をまとめるギルド。国によって冒険者ギルドの立ち位置は異なるが、ケイルの居るインクリッド王国では王国を魔物から守る盾として国と有効な関係を築いている。基本的に人同士の戦争には中立を貫くが、場合によっては参戦することもある。


 冒険者になると採取や討伐、護衛、雑用など色々な依頼をこなすことで報酬をもらうことができるようになる。また依頼面の利点以外にもギルド加盟店での買い物などや宿泊に対して特典がある。依頼によって適する役割ロールが存在し、前衛後衛補助斥候そして全般など自分に適した役割を明記しておくと臨時依頼の時などにパーティーが組みやすくなる。


 依頼には難易度に応じた等級が存在し、冒険者も同じ等級分けがされている。等級は下から青銅、鉄、銅、銀、金、白金、緋金。等級が上がるほどに受けられる依頼の種類や数が多くなっていく。現在、インクリッド王国のギルド所属の最高等級は白金の三人。そのうち一人は王城にて宮廷魔術師長を務めている。

 依頼の受諾には受諾金が必要となり、期日までに依頼が達成できなかった場合やギルドに認められない理由での依頼中止はギルドからの貢献度・信頼度の減少と受諾金とは別に賠償金を払うことになる。貢献度や信頼度は等級を上げるための指標として役立っているため、依頼を地道にでも成功させ続けるほど等級は上がりやすくなる。 

 ギルド員同士の私闘やその他住民との喧嘩などで負傷者や死人が出た場合、信頼が第一であるギルド員にふさわしくないと判断され除籍処分になる可能性が存在している。

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