12 遊んであげているのは、どっち?
「あっ、ポチ!」
誘鬼が慌てて振り返るとポチは数歩下がって尻尾をぶんぶん降ると、誘鬼が一歩踏み出すのに合わせてまた身をかわして、テコテコやってくる鶴戯の足元に回り込んだ。そんなポチを抱きかかえようと身をかがめた鶴戯の手をポチはするりと抜けると、ふたりからほんの少し離れたとことで立ち止まって、遊びに誘うように前方へ向けて首を振った。今にも駆けだすようにその場でじだじだと足踏みするポチに、誘鬼と鶴戯はついていかないわけなどなく、顔をほころばせて追いかけていった。
筆を握る紫苑の気が済んだころ、誘鬼たちの声が近くの部屋から聞こえていた。道具を片付けるとポチを抱えた鶴戯がひょっこり顔をのぞかせた。
「おわり?」
そう問いながら小首をかしげる鶴戯の腕には、なぜか上下さかさまに抱きかかえられたポチがいた。かわいそうに、ポチは後ろ脚の間に尻尾を入れてじっと耐えている。健気なのか相手が子どもだからと諦めているのか。哀れに思った紫苑はやんわりと鶴戯に注意を促す。
「鶴戯、ポチがひっくり返ってるよ」
頭を上にして抱っこしてあげなきゃと紫苑が手を出すと、ポチはフニフニと動いて紫苑の手を踏み台のように蹴っ飛ばして床へと着地した。それからまた、ぴよんぴよんと飛び跳ねると、紫苑と鶴戯を振り返り振り返りしながら屋敷の中を駆けていった。
そして、間もなく。
ポチが消えていった向こう側からギャッという悲鳴が聞こえた。行ってみると、顔にポチを乗せて床に転がる誘鬼がいた。
「何してるの?」
だいたいの予想はつくが、一応聞いてみる。
「寝転がってたら、ポチが顔に伏せした」
(そうっだと思った)
顔からポチをはがしながら答える誘鬼に、紫苑は無言でうなずいた。引きはがされたポチは軽やかに床を踏むと、誘鬼の頭の上をぴよんと飛び越え、鶴戯に飛びついた。しかし、鶴戯が抱きかかえるよりも早く着地すると、遊ぼうよと言うように三人の周りをクルクル走り回った。
表現方法はともかくとして、少年たちはポチが大好きで大事に世話をしていた。ポチのお迎えがやってくるまでの間。
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