11 好きこそものの上手慣れ

「終わった」

 横で誘鬼ゆうきが盛大なため息とともに終了を宣言した。

紫苑しおんも終わった?」

「うん。でも、もう少しやろうかな」

 紫苑の言葉に誘鬼は信じられないものを見るように、口をへの字に曲げた。

「紫苑、すごいな……」

 誘鬼が素でドン引きしている。紫苑は困ったように笑った。

「好きなんだよ。墨の匂いも筆を握るのも文字の形をなぞるのも」

「うん……だから、すごい」

 誘鬼はフフッと声をたてて笑った。

「そうだ。札作るの、紫苑に書いてもらえばいいや!」

 そう言いながら誘鬼が名案というように両手をパチンと叩くと、すかさず華多菜かたなに頭を小突かれた。

「アホなことを言うでない」

「あとで俺も行くから、誘鬼はポチのところに行ってていいよ。きっと鶴戯つるぎと一緒にいさむさんか妖女あやめちゃんのところにいると思うから」

「うん……鶴戯はいいな。ずっと遊んでいられて」

 誘鬼が部屋の向こう側を見るように顔を上げると、華多菜にやりと笑った。

「なあに。あと数年もしたら、おぬしの横で仲良く書き取りのお稽古を始めることになるんじゃて」

「来年になったら紫苑みたいに書き取りが好きになるかな」

「それはおぬし次第じゃな。ほれ、紫苑の邪魔になるゆえ、筆を取らぬのであれば勇殿のところへ行っておれ」

 華多菜に促され、誘鬼は部屋をあとにした。

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