7 草笛
その帰り道。
昼餉時が近づき、三人が桃の木のお婆の住まいを出た時も、天上は雲ひとつない青空だった。天中近くから射す陽の光に、
(ぜんぜん雲がないな)
改めてそんなことを思いながら、紫苑も従弟たちに倣うように側の葉っぱを一枚摘むと、くるりと巻いて口にくわえて息を吹いた。
プー プー
音が出た途端、鶴戯がパッと振り返って紫苑を見た。もう一度息を吹き込み音を出すと、目を丸くして驚いてくれた。誘鬼も興味津々の様子だ。
プー プー プー
鶴戯の反応が予想以上に良かったので、さらにもう一度音を鳴らすと、鶴戯は目を輝かせて喜んでくれた。
「紫苑、どの葉っぱ?」
「これだよ。こっちのでも、どれでもできるよ」
紫苑は手ごろな葉っぱをちぎってよこした。誘鬼はその葉っぱを受け取ると、紫苑がやったようにクルクル丸め、口にくわえてフーフーと息を吹いたが、音は一向に鳴らなかった。
「ちょっと弱めにくわえて、フーって吹いて」
「こう?」
「うん。それで、フーって」
紫苑が葉っぱをくわえるところからやってみせるが、誘鬼の葉っぱからはスースーと息の抜ける音がもれるばかりだった。
紫苑はもう一枚葉っぱを摘むと、くるりと丸めて口にくわえて息を吹いて音を鳴らした。先に吹いていたものより少し高い音がした。
「これ、吹いてみて。はい。鶴戯にもあげる」
スー スー
スー スー スー スー スー
……。
「……鳴らない」
葉っぱをくわえたまま、誘鬼が唇を尖らせた。
「大丈夫だよ。練習すれば、すぐに鳴るようになるよ」
「本当?」
「俺も最初は鳴らせなかったけど、練習したら鳴るようになったよ」
青天の下、三人は葉っぱをくわえながら家路についていた。
スー スー
スー
プ……スー
「あ……」
誘鬼のくわえる葉っぱから、一瞬、音が鳴った、その瞬間だった。紫苑が誘鬼に振り向き、誘鬼があっと口を開きそうになった、その瞬間。
真っ白な光が彼らの目の中に飛び込んできた。ほんの一瞬のことだ。誘鬼の葉っぱから出た音の響きよりも短く、思わず口を開きそうになった頬のゆるみよりも短い、刹那の間だった。
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