3 びっくり箱びっくり箱驚いた

「――などと大人は簡単に言うが、子どもの身では不安で仕方あるまい。のう?」

 ひととおりの挨拶を済ませ、屋敷の門までさやを見送った戻り、紫苑しおんは無言で華多菜かたなのあとをついていた。実際に不安でいっぱいの心中をいともたやすく読まれた紫苑は、口を一文字に引き結んだままぶんぶんと首を横に振り、平気だと答えた。知らないところではないし、知らない人もいない。

「大丈夫」

 紫苑は自分に言い聞かせるように言った。

「そうだな」

 華多菜は静かに笑んだ。

 心細いなど気のせいだ。用があればいつでも帰ることは可能だし、何か禁止されているこどがあるわけでもない。

 それに――

 それに何より紫苑にとって嬉しいことがあるのだ。

 紫苑はす、と視線を上げた。

 その時。

「しおーん!」

 玄関先まで来た、まさにその時。

 玄関の内から誘鬼ゆうきがふたを開けたびっくり箱の中身のように、勢いよく飛び出てきた。

「うわっ……誘鬼。そなた、いつの間に屋敷に」

 なんの前触れもなくビヨンと飛び出てきたわが子に、華多菜はわずかに顎を引いた。

 さやと紫苑がやってくる少し前に、迎えに行くと屋敷を出た誘鬼だったのだが、そのまま行方をくらませていた。さやたちがおがみの屋敷の門をくぐった時、誘鬼の姿がなかったため、華多菜は妖女あやめに捜索させていたのだった。

 ため息ほどの驚きしか示さなかった華多菜の横で、紫苑の方は大いに驚き、のけぞるように後退りした。心臓がポコポコと速い速度で胸を打つ。従弟いとこのタメなしいきなりの登場に、会えて嬉しいはずのその気持ちはびっくりどっきりで見事に吹き飛ばされた。ついでに心細い気持ちも遠く彼方へ飛んでいった。探すのは至難の業かもしれない。

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