他愛なき日々に、彩りを・マイホリデー/クリスマスツリー

読天文之

他愛なきホリデー

寒さが深まり、厚い上着が欠かせない季節が今年も来た。

仕事帰りの日、イオンにやってくるとすっかりクリスマスムードだ。ケーキの予約にブラックフライデーと、盛り上がりのムードになっている。

私は気休めにスターバックスに寄って、クリスマス限定のキャラメルバターラテを注文した。小さなジンジャーブレッドマンが、クリームの上に座っている。

見ていて可愛くなるが、そこは食べなきゃいけない。目で可愛がった後は、一口で食べてしまう。

そして愛用のスマホを片手に小説を書き始める、スマホの利点はどこでも持ち運べることなので、こういう飲食店の席が自分の書斎のようになる。

話を書き進めてキャラメルバターラテを一口飲む、濃厚なキャラメルが口の中で広がっている。言うまでもなく、甘くて美味い。

これを繰り返していくうちに、小説がきりのいいところまでまとまった。

そろそろいい時間なので、キャラメルバターラテを飲み干して、スマホをカバンに閉まって店を出る。

イオンの一階に高さ十メートルを越えているクリスマスツリーがある、一番上に飾られた星やツリーの枝に飾られた輝く飾り、そしてツリーのすぐそばには古風な西洋の家の部屋を再現した暖炉や本が乗っているテーブルがあった。

「もう、クリスマス気分だな・・・」

そしてぼくはスマホでクリスマスツリーを撮影して呟いた。

「メリークリスマス・イッツホリデー」






それから一週間後、私は上司の松末さんと一緒に近くにある市営住宅へ向かった。

私の仕事はいわゆる何でも屋、家のお片付けや生活のサポートなどが仕事だ。主に老人を中心に地元民の生活を支える福祉法人である。

今日は市営住宅の204号室に住んでいる川端さんお世話をする仕事だ。

松末さんがインターホンを押すと、厚着を重ねた川端さんが出てきた。

「それじゃあ、例の場所へ生きましょう。」

「はい、よろしくお願いします」

そして川端さんは私と松末さんが乗ってきた、ワゴン車に乗り込んだ。

目的地は近所のイオン、ただしここは都内なので私の地元よりもイオンが大きい。

移動中、川端さんは財布から五百円を二枚出すと、ぼくと松末さんに渡した。

「これ、来てくれたお礼のチップ」

チップをもらうなんて私は初めての経験だった。

イオンの屋内駐車場にワゴン車を止めて、三人はエレベーターで三階へと降りる。私は台車を押して二人と一緒についていく。

実は川端さんが買うものを事前に予約していたようで、買い物というよりはそれを引き取りに来たのだ。台車が必要なのは、川端さんが買ったものの量があまりに多く、川端さんだけでは家まで運べないからだ。

「それにしても広いなあ・・・」

やはり都内のイオンはデカイ、衣服や玩具にスマホ修理の専門店、スターバックスやコメダ珈琲店といったお馴染みのカフェチェーン店まで、とにかくいろんなお店が有象無象にあった。

そして川端さんが注文した店についた、お馴染みの100円均一店。

川端さんがレジで店員と話すと、店員がバックヤードから注文の品を運んできた。

「でかいな・・・」

滅多に見ない大きさのダンボール、店員が川端さんに注文の確認をして、レジで決済に入る。一体総額いくらになるんだと考えていた。

そしてダンボールを台車に乗せて、三人は屋内駐車場へと戻り、ワゴン車にダンボールと台車を乗せて、川端さんの家に戻った。

川端さんの家に戻ると、ダンボールを川端さんの部屋に入れて、作業を始めた。

作業の内容は壁紙とマットの設置、そしてベランダのお片付けだ、川端さんの家の壁全体に壁紙を貼っていく。

川端さんの家の壁の中で一番目立つのは、キッチン近くの壁だ。そこだけ黒く変色しているのである、理由は昔そこで火災があったのだが、詳細は不明である。

まずはベランダの掃除である、ベランダは土ぼこりまみれで、放置され枯れ果てた植物の残骸がある植木鉢、その他いろいろな物が野ざらしにされ放置されている。

「とりあえず、ベランダをキレイにしてくれ。」

私は持ってきたホウキとちり取りとゴミ袋を使って、ベランダの掃除を始めた。

「うわっ、これはすごいな・・・!」

土ぼこりを取るとよくわからない虫の幼虫やどこから来たのかワラジムシが出てきた。一気にちり取りに集めて、ゴミ袋の中へいれる。

その作業を数時間続けて、十一時半になったころ、川端さんが私と松末さんにカップヌードルを差し入れてくれた。

「こんなものしかだせないけど、食べてくれ。」

正直、川端さんはとても気前がいい人だと思った。

ちょうどいい頃合いを見て、シーフード味のカップヌードルを食べる。

味はいいのだが、お湯が少しぬるい気がする・・・。しかしそれは口にせずに、カップヌードルを食べた。

その後は台所にマットを敷く作業を始めた、こうすることで床が汚れてもマットを取り替えればすぐにキレイになるのだ。

マットを敷き詰めた後は、壁紙の貼り付けだ。

一つ一つ私が開封してビニールを取りそれを松末さんに渡して、後は松末さんが丁寧に貼る。

思ったよりも長い作業だ、私の定時が迫っている。

「それじゃあ、今日は一旦ここまでということで。次回は来週の土曜日ということで。」

「はい、その日は家にいるので大丈夫です。」

そして私と松末さんは、川端さんの家を後にするのだった・・・。









月は十二月となり、いよいよ今年も終わりが見えてきた。

「今年度も、小説売れなかったな・・・」

去年と同じことをつぶやく、だけど特に気落ちはしない。

今年は今年、来年は来年である。とにかく小説が世に出ることを目標に、書き続けるしかないのだ。

そう心で思いながら、私は小説を書き続けた。

書いているのは名鉄小牧線の電車の中、実家がある扶桑に帰るため終点犬山まで席に座っている。

「うーん、ここから先は一体どうしようかな・・・?」

小説を書くうえで難しいのは、話の展開と内容のつじつまを合わせることである。書き進めていってちゃんと前の話を振り返らないと、意味のわからない小説になってしまうのだ。

「えっと、この話がこうで、こう続いているから・・・。」

一文字を打ち続けるごとに、世界と運命を創造している気分になる。登場人物と世界観、そこに運命と結末を加えて、料理のように組み立て、そこに遊び心をそえる。これが私の小説の書き方なのである。

今回は一章分の小説を書くことができた、最後は念入りに読み込む。

これは誤字脱字の発見だけでなく、後でこうした方がいいと思った時に、作品を直すためでもあるのだ。

「よし、これで満足のいく作品が出来たぞ」

そしてぼくは作品を公開した、さてどれくらいの人たちが作品を見てくれるのかな?






十二月も真ん中になった、私は旅行の計画を考案していたところだった。

「うーん、やっぱりタクシーがなぁ・・」

私は動物園や水族館など、生き物と自然がある観光地が好きだ。そこでクリスマスイブの旅行に目を付けたのが、静岡県沼津にある『izoo』である。トカゲ・ヘビ・ワニ・カメといったは虫類のみを展示する変わり種の動物園である。

ただし、今私が悩んでいるのが沼津駅からizooまでの道のりである。そこまで行くバスがなく、タクシーで向かうしかないのだ。

「歩いて三十分よりは、タクシーだな。」

とにかく長く園内にいたい私は、早く目的地に到着するタクシーを選択した。

「よし、これで予定がまとまったぞ!」

後は交通費について調べて、母に提出するだけだ。私はお小遣い制で、家のお金の管理は母に任せている。

クリスマスまで後十日を切った、YouTubeでクリスマスの音楽を聞いて気分を楽しむ。

「さて、ケーキを食べに行きますか・・・」

向かったのは「レッドローズ」というケーキ屋、ケーキを買うこともできるし、喫茶室でケーキと一緒にコーヒーを飲むことができるのだ。

注文したのはアイスコーヒーとチョコブラウニー、冬なのにアイスコーヒーは変だと思う方もいるが、私はコーヒーはアイス派なのだ。

「お、来た来た・・・」

テーブルに並んだのは、チョコとスライスされたピーナッツがまるで魚の鱗のようにきれいに並んだケーキと、大きなグラスに注がれたアイスコーヒーだ。

そしてグラスの近くに置いてあった白い小さな入れ物に気づいた、それはソースポッドみたいな形をしていて、中には白い透明な液体が入っている。私は最初、この変わった入れ物のせいで液体がなんなのかわからなかった。

「これ・・・、もしかしてシロップ?」

私はシロップか確かめるため、行儀悪いけど一口飲んでみた。やはり口の中で甘い味がした。

「シロップだ・・・いやー、これシロップ入っているって思わないな〜」

普通シロップといったら、小さなプラスチックの容器を思い浮かべる。このシロップの容器は、赴きと意外性があって面白い。

喫茶室はお店全体の二割ぐらいのスペースしかない、元々ケーキ販売が専門なのでとうぜんだ。

雑誌は置いてあるが、すでに発刊されてから十年は経っているので私は読まなかった。

「うーん、濃いチョコレートの味が最高だ・・・」

その後で少し甘いコーヒーを飲むと、苦味が口の中でいいアクセントになって、気分がよくなる。

私はコーヒーを飲むときはコメダ珈琲店を利用するが、たまにはこういうのもいいよね。

そして私は、ちょっと変わったコーヒーをチョコブラウニーと一緒に楽しんだ。






そしてクリスマスイブ当日、私は静岡の河津駅にいた。

朝六時三十分に家を出て、七時三十分に名古屋駅に到着、そこから八時八分の新幹線で熱海駅へ向かい、そこから電車でさらに一時間以上かけて河津に到着した。その時点で時刻は、十二時を過ぎていた。

「さて、ここからどうするかな・・・」

一人でタクシーを利用するのは、初めてである。乗り場で待っていたら来るだろうと思い、待つことにした。

しかしクリスマスイブのせいで、タクシーは中々来ない。

「早く行くには、もう歩いていくしかないか・・・」

そう思っていたとき、黒いタクシーが乗り場で停り、客を下ろしている。

あれに乗ろうと走って乗ろうとしたら、同じタクシーに小学生とおぼしき子どもとその母親が乗ろうとしていた。

親子にゆずるため乗るのを躊躇った時、母親が私に声をかけた。

「あの、行き先はどちらですか?」

「izooです。」

「それでは相乗りしませんか?目的地同じなんです」

ご厚意に甘えて相乗りしてもらった。タクシーは河津駅から五分で、izooに到着した。

運賃の精算の時に、母親に一人三百五十円を払い、親子に別れを告げた。車内では黙ったままだけど、相乗りさせてくれたことはとても感謝している。

さて念願のizooに到着した、チケットを持って中に入ると、イグアナの群れがお出迎えしてくれた。

「さすがに迫力あるな・・・」

腰を落として見ると、恐竜か怪獣のようなゴツい迫力がある。

「大きいなあ・・・」

イグアナの群れを過ぎて進むと、ミミナシオオトカゲの展示を見た。

ミミナシオオトカゲは貴重なトカゲで、izooが2013年に繁殖に成功した。

見た目は両生類みたいだけど、れっきとした爬虫類だ。こういう貴重な生き物を繁殖して保護するのも、動物園の意義である。

通路の奥へと進んでいくと、ヘビが入っているケージが目についた。

「うわあ・・・、コブラまでいる」

さすが爬虫類専門動物園、キングコブラですら見させてくれる。

その先には毒ヘビが展示されているケージがある。頑丈なガラスの中で、ヘビがとぐろを巻いてのんびりしている。

「やっぱり、毒ヘビはこわい・・・」

ケージ越しにとはいえ、ケージに張りついている黄色い許可証の文言が、怖さを強めている。

『この財産は第三者に被害を加える可能性があります。』

さらに先へと進む時に、こんな張り紙を見つけた。

『この先、リクガメに注意。つまずかないように気をつけて』

先へと進むと、なんと通路にリクガメが放し飼いされていたのだ。

「マジか・・・、しかもあちこちにいる」

物珍しさにスマホで撮影している人も何人かいた。

そして並んでいる人の列の先には、実際に爬虫類に触ることができるイベントが行われていた。

私は列に並んで実際に触ってみることにした。まずはアオジタトカゲから、これはオーストラリアに生息している舌が青いトカゲだ。

感触はツルツルしている、家の床みたいに。

次はヒョウモントカゲモドキ、ペットとして人気のあるヤモリだ。

やわらかくてプニプニしている、触っていて気持ちよくなる。

次はコーンスネーク、ヘビを直で触るのは貴重な体験だ。

ツルツルした鱗と筋肉の動きが、独特の感触をもたらす。

そして最後はメガネカイマンの子ども、すなわちワニである。

さすがワニだけあって、子どもでもごつくて重厚を感じる。これがあの水辺の竜みたくなると思うと、将来が末恐ろしい・・・。

そしてリクガメのエサやりをしてみることにした、するとリクガメがエサと間違えているのかズボンのすそに噛みついてくる。

「おいおい、それはエサじゃないよ」

私はトングでエサの小松菜を近づける、するとリクガメは首を伸ばして小松菜にかぶりついた。

かぶりつくたび、「シャキ、シャキ」と音を立てて食べるのがいい。

小松菜をカメの前にぶら下げて、カメを誘ってみる。すると小松菜につられて二・三頭やってきて、小松菜にかぶりつく。

何だか赤ちゃんをあやしている気分になった。

エサやりを終えて先に進むと、先ほどのリクガメが飼育小屋で複数展示されていた。

「もしかして、この中の何頭かを通路に放し飼いしているのか・・・?」

そう思うと、ここはリクガメにとって最高の環境だということを理解した。

そして屋外展示を見に行くと、あの超巨大なイリエワニがいた。

つい最近izooにやってきたこのイリエワニは、体長が五メートルを越える。一緒にいるワニと比べても体格は圧倒的に大きい。その大きさで話題になり、YouTubeでも取り上げられるほどだ。

「動画で見たことあるけど、かなり大きいなあ・・・」

こんなのが日本の川に出たら、間違いなく新聞の号外が出るくらい話題になるだろう。

そして近くには、準備中の施設があった。近いうちに新しいizooの仲間がやってくるようだ。

「今度はだれがやってくるんだろう・・?」

私はいずれまたここに来ることを誓った。

こうして新体験と魅力的な命を見たクリスマスイブの冒険は、幕を閉じた。






そしてクリスマス、私は聖夜と一緒に誕生日を迎えた。

巷では十二月生まれは、クリスマスになると損した気分になるといわれている。誕生日とクリスマスのプレゼントを、同一扱いされるからだそうだ。

しかし私はクリスマスと誕生日の両方にプレゼントをする、そうすれば二つもプレゼントがもらえてお得だからだ。

さて、私はクリスマスの日に豪華な食事をするのが楽しみだ。たまの一日くらいは、普段食べないものを食べられる限り食べたいからね。

そんなわけで、私は自宅から最寄りの「ママゲーナ」にやってきた。ここはいろんな料理を食べることができるビュッフェ方式のお店だ。

最近はしゃぶしゃぶも食べられるんだとか、本当に豪勢なメニューだ。

店員の説明を受けた後、いよいよ食事が始まる。まずはスタンダードな唐揚げとフライドポテト、そしてサラダを取って席にもどる。

いつも食べているつもりでも、実はあまり食べていないものってあるよね?唐揚げやフライドポテトなどの揚げ物は特にそうだ、毎日揚げるのは大変だし、健康に悪い。だから揚げ物を毎日作る人は本当にスゴいと思う。

誕生日の食事は、いつもの食事と変わらないけど、やはり特別な感じがして美味しい。

最初に取った料理を食べ終えると、しゃぶしゃぶの肉を取りに向かった。

しゃぶしゃぶはみんなで食べるものだが、一人で食べるのも悪くない。私は根っからのお一人様である。

しゃぶしゃぶと美味しい料理を堪能する時間はあっという間に過ぎていった、会計を終えて「ママゲーナ」を後にした私は現世書店へやってきた。

現世書店では、たくさん本を買った。前から集めていた漫画のシリーズや、好きな作者の小説文庫、そして興味のあるタイトルの小説を買った。値段は三千円以上した、これらの本は通勤中の電車の中やたまの休日に読む。

しかし今回はふいに読みたくなったのか、帰宅してすぐに小説を読むことにした。

挿し絵が全く無い文面だけど、小説のことを頭の中でイメージすると、あたかもそこに絵があるように見える。

そしてその日は、一日中本を読んで過ごしたのだった・・・。



これがクリスマスまで私が過ごした日々のワンシーンである。来年もクリスマスツリーみたいに、彩りのあるホリデーを過ごせたらいいな・・・























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他愛なき日々に、彩りを・マイホリデー/クリスマスツリー 読天文之 @AMAGATA

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