やっと意識を保ってられるね


目が覚めると手に何かの感触がある。無論自分の一物などではない。

美人の胸とかでもない。(やかましい)

これは…小瓶?詰め物の蓋に筒状にメモが挟まっている。

入っているのはどうやら液体ではないようだ。


「なんだろぉ…これ」


喋れる事に気づいたのは喋ってから3秒後だ。

自分の声がか細すぎて気づかなかった。声優になれるんじゃないか(やかましい)


意識がはっきりしてきたが、この声が聞き取れるという事は辺りは静かなようだ。

随分長い事眠っていたようで、少し体がげんなりしている。

お肌のハリは思ったより保てているようだが。(非常にやかましい)


拘束もある程度解けていて、点滴の高さを維持するためのキャリアーが置かれている。何時の間にこんなものを。しかもよく見たら洋服かけだ。頑張れば引き摺って歩けなくもないだろう。…貧血が怖いが。


なんせここは勝手知ったる我が家だ。

母は…嘘の事情で納得したらしいから今はちゃんと就寝中だろう。

お外はすっかり暗くなって、月明かりがカーテン越しに差し込んでいた。


とりあえず…お腹が空いた。すきすぎて音すら鳴らない。

普通は療養食を食べるべきなのだろうが、自分の家なのだからちょっとくらい…


「よぉ。」


びっくりして点滴が抜けるかと思った。しっかりと針が固定されていて抜けやしなかったが。


「さんざ付きっ切りで看病してやったんだからよ…」


トゥンク。


「変なもん食って死んだら殺すからな???」


「すいませんでした本当に」


「珍しくちゃんとした声じゃねえか、謝るのに慣れてんのかきっしょいな」


ぎくりとした。正直責められた時大きめの声で謝るのはもはや反射的な行動だ。別にDVとかされたわけではないが、根本的に小心者なのだ私は。


「…心籠めて謝ったのはお前が最初だ、喜べよ」


嘘だろ?胸が破裂しそうだ。喜びで。


「きしょすぎんだろ普通に…」


「」


「とりあえず療養食作ってやるから待ってろ、リハビリは必要だが、まだ無理に歩くんじゃねえ」


はい、担当医師様。本当にありがとうございます。今後50年は末永く生きていけそうです。結婚して下s「黙れ」はい


暫くして、解りやすいおかゆが出てきた。まずは消化しやすいものから慣らしてゆくのだろう。気づけば唾が出ていたが、持たされたスプーンを持つ手は覚束おぼつかなかった。ちょっと恥ずかしい。


「あんま大量に食うと多分今はすぐ腹壊すから、ゆっくり食えよ。そんで良く噛め。」


優しすぎて私の心はとうに蕩け切っている。素直に従いつつも、こんなことがあるなら人生捨てたもんじゃないなと思い直した。ああ、この幸せが永遠につづけb「頼む、無心で食ってくれ。一生のお願いだ。」はい


流石に嫌がられると分かっているのにその事ばかり考えるのは信条に反する。そもそも思考が暴走しがちなのは自分でも分かっているが、彼は間違いなく恩人…いや恩天使様だ。ここは得意の想像力で別の事を考えてみよう。…はてそういえば夢で何かを見たような?


「ああそうだ。」


はい。


「その小瓶…なんだ?何処から持ってきた?」


ああこれは…と思いかけてはたと気づく。特に心当たりはない。また記憶が抜け落ちているのだろうか。


「どうでもいいけどその小瓶は…」


はい。

キキィィィィ…

はい?


この音はトラックのものに間違いない。もう流石に何回も聞いたから分かる。

トラックにしては明らかに凄まじいドリフトをしているこの特徴的な音を。

私は明らかに聞き覚えがあるのだ。


「…待ってろ!」


そう言うと彼はものすごい勢いで窓を開けて飛び出した。おい格好良すぎんだろ。

そして、今度こそ轢かれる未来は阻止できそうだ。

彼が守ってくれるのだから間違いないとそう安心した。その時だ。


????「こんにちは!死ね!」


背中からそんな声がした。昼夜逆転どころの騒ぎじゃないぞ。

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