番外編2:タナトスさんの非日常
ああ、面倒だ。
毎日毎日人を眺めては寿命を告げる。
日に日にその数は増え、一時は神員が増強された事もあったが、結果としては焼け石に水だった。
仕方なく文明の利器を自力で開発し、コンピュータークラウドでの定刻通り雑な処理が可能になってもなお面倒だ。
今日も残業するかして新しく増設しないとそろそろ追いつかなくなるかもしれない。
その内増えなくなると言っていたが本当なのだろうか。
時々自分の頭がおかしくなっているんじゃないかと心配になる。なんなら既におかしかろうが気づいた所でどうする事もない。
彼は正直な所いい加減参って来ていたが、彼自身が真面目かつ有能すぎて普通に解決し続けているのが災いし休暇は取れそうもなかった。
いつも通り仕事を終え、USB周辺機器に変えていた自分の仕事道具を拷問できそうな”鈍い鎌”に変えた。(彼は象徴として、常に武器を抜き身で持たねばならない。前までは”鋭い短剣”に変えていたが、多少痛い目に遭ったのである。)
地上に日が昇る頃まで友たる軍神のアレスと晩酌を上げようと思っていた。
その矢先の出来事だった。より上位の神である親父に呼び止められ、なんらかの厄介事を押し付けられたのは。
彼は頭の羽を広げ自宅のある冥界の奈落の淵から、兄の別邸のある夢を纏う木を経由して渡し守のカロンさんに挨拶し、その他なんやかんやを日常風景に換え鎌を軽トラに変えて主人公を轢きに行くことになった。
何が面倒かって移動が面倒だ。そりゃあもう管理職が現場に行くのは効率的ではない。ではなぜそんな事が必要なのか尋ねてみれば「お前しかできないから」のような身も蓋もない抜き身で更に面倒な返事が返ってくる。
何時になったら終わるのか、目測が付いた時点で彼は軽トラックを運転していた。
彼はそこまで器用な方ではなかったが、近所の人間にはステルスだし状況は記録には残らないし壊した物体は死なないから戻るしでそれはもう見た目も斬新な珍走団を繰り広げた。いや軽トラックではあるのだが。
事その運転に至っては普通に何度も事故っては痛い目に遭って相応の練習を積んだので相当に巧みになっていた。
そんなもはや意識が遠のいているレベルでどうでも良いのを更に水とかで希釈したような事をとりとめもなく考えていると、彼は更に珍しい事に一つミスを犯した。
物や植物を透過してターゲットに直進していたのは良いが、珍しい角度で生物が紛れ込んでしまった。
その瞬間彼が思った事が
うわ…マジかよ…他の神にも仕事出さないといけないじゃんめんどくせえ…
なのだからなお救いようはない。
そして何の因果か、その時轢いたのは主人公の母親そのものだったのである。
とはいえしっかりやることはやり、その後の回帰手続きなどを他の神の約三倍以上の速度できっちり済ませたあたりは流石の手腕であった。
そうして全てが終わった頃、一人ごちにこう呟いた。
「俺この仕事向いてないのかな…」
彼は多分結構天然だった。
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