第7話

「大丈夫じゃ。あの子はきっと、未来で幸せになる。わしが保証する。それには元の世界で出世していくのだ」




 俺は涙を拭いて立ち上がった。

 明石のために自転車をころがして、大鏡に入った。




 絶対に許さねえ。




 その後、俺は不良の女数名を殴って、学校を辞めた。

 今は、必死に勉強して有名大学へと入学していた。

 明石は世間では今も行方不明扱いだった。

 熊笹商店街のポスターはあれから、張られていない。映画は上映もされなかったようだ。


「なあ、映画研究会のものだけど、君入らない?」


 茶髪の軽そうな先輩にキャンパスで勧誘を受けた。

 俺はすぐに頷くと、先輩について行った。


「なあ。知ってるか?数年前に上映されなかったラウル国の危機って映画。どうやら、いつの間にか映画の中身が変わっていたんだってさ。ストーリーも登場人物も。秘蔵の秘蔵だ」


 俺はすぐに顔を上げ、


「その映画。観たいんです。どうしても。映画研究会にありますか?」


「ああ、秘蔵大好きさ。入手してある」 


 俺は喜び勇んで、先輩に付いて行くと、真っ暗な数名のオタクたちの部屋へと入った。

 小汚い部屋だったが、匂いだけはいいようでオレンジの香りがしていた。


「なあ、秋ポン。新人がラウル国の危機って映画観たいって」


 一番太っているメガネのオタクが立ち上がり、ゴソゴソと壁際のダンボールを黙々と探す。

 そして、一本のDVDを俺に渡した。


「観ていいよ。今、丁度、終わったところだから」




 俺はそのDVDを観た。

 映像は記憶とまったく同じだった。

 あの頃の俺と明石が写っていた。

 俺が涙を流していると、先輩が缶コーヒーを渡してくれた。


「いいね。見所あるよこの新人」

「ああ、掘り出し物だよね」

「いい人みっけ」

「なんか、この映画の登場人物に似てないか?」


 そんな言葉は耳に入らず。

 俺は二時間ぶっ通しで泣いて観ていると。

 明石が海のように波打つ麦畑で、清潔なブレザーとスカートを着ていた。こちらに振り向いて、ニッコリと笑うと、






「絶対に連れ戻してね。聡……好きよ……」

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ラウル国の危機 主道 学 @etoo

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