呪われた橋
柴田 恭太朗
田舎暮らしって最高
ネットワークがあれば、地球のどこにいたって仕事ができる。
それが現代の
地球なんてカッコイイことを言ってみたけど、月イチのミーティングにはオフィスへ顔をださなければならないから、実のところ日本国内限定のノマドかな。
そんなわけで僕は、息の詰まる都会を離れて田舎暮らしを始めた。空き家になっていた農家を借りて居をかまえ、かれこれ半月。近所の人は、近所といっても隣の家まで歩いて三分かかるけど、よそ者の僕にも親切で採れたばかりの新鮮な野菜を持ってきてくれたりする。
パソコンに向かっていても耳に聞こえてくるのは、山でさえずる野鳥の鳴き声だけ。素敵なヒーリングミュージックだ。深呼吸し放題の澄んだ空気と水。それに加えて農家の人からいただく完熟野菜。
もう感謝しかない。
そんなひなびた農村だけれどもネットワークは完備しているし、村の集会所やら橋やらの建造物、電気などのライフラインまでバッチリ整備されている。村人の数で考えたら限界集落寸前なのに不思議だ。大物政治家がこの村出身だとか、山から高価な
ひとつ気がかりなのがネットで知った「呪われた橋」の存在。村へ入るときには必ず通る橋だ。僕も通ってきたが、呪われたなんて形容詞は似つかわしくないコンクリート製の近代的な橋だった。
「おーい、大根いるかい?」
玄関から声がした。大家の太郎左衛門さんだ。
「いつもすみません。ところで大家さん、村の橋のことなんですが」
「どうやって造ったのか不思議だろ?」
「ええ……」
大家さんの理解が早すぎる。僕はそこで気づくべきだった。
「あの橋は呪文で造ったのさ。あれをご覧」
大家さんは玄関から見える農道を指さした。ちょうど一人の村人が指先から紫の光線を発して電信柱を造ったところであった。それとともに村人の隣にいた男が消える。彼もまた僕と同様の
「呪文を聞きたいだろ?」
家主の太郎左衛門さんは僕の答えを待たずに詠唱を始めた。それは変わった節まわしだった。
「かしこみ村の鎮守さまに申すゥ……村の橋を渡りし者は末代まで不幸になるべしィ、あるいは煙と消えて村を支える材となるべしィ」
僕は理解した。
「呪われた橋というのは『呪われた言葉で作られた橋』の省略形だっt」
そこまで口にしたところで、ボンッと音がした。僕の体が煙となって消えた音だった。
いったい僕は村の何になるんだろう?
呪われた橋 柴田 恭太朗 @sofia_2020
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