ギャンブル好きな女に出会い、俺は人生の勝負に挑んだ

春風秋雄

とんでもない万馬券を当てる女

「いけ!そのまま!いけ!」

隣の女がやけにうるさい。ここは府中の東京競馬場。メインの11レースの4コーナーを回った直線500メートル。俺の買った馬はまだ中段待機で、騎手がタイミングを見計らっている。隣の女は現在先頭を走っている馬を買っているようだが、人気薄の逃げ馬で、単勝オッズは100倍を超えているはずだ。こんな馬が来るわけない。もうすぐ馬群に飲み込まれるはずだ。そこから俺の馬が来る、来るはずだ、あれ?どうした?なんで?

先頭の逃げ馬がどんどん差を広げてきた。うそだろ?そんなはずはない。俺の馬は?あれ、あれ、と思っているうちに先頭の馬がゴールを駆け抜けた。

「よっしゃー!単勝140倍ゲット!」

隣の女がガッツポーズをしている。チラッと馬券が見えた。単勝1点買いで5,000円突っ込んでいる。140倍ということは70万円。すごい。俺がじっと女の顔を見ていると、女は俺の視線に気づいたようで、ニコッと俺に笑いかけ、

「お兄さんは外れた?まあ、仕方ないよね。あんな馬が来るとは普通考えないもんね」

「何であの馬が来ると思ったんですか?」

「パドックで馬が教えてくれたの。今日の俺はくるよって」

「馬と話せるんですか?」

「そんなわけないでしょ。心と心が通じ合ったのよ」

ダメだ、こりゃあ。何を言っても当てた人が勝ちだ。俺の財布は帰りの電車賃しか残っていない。今日はもう帰ろうと、帰り支度を始めたら女が話しかけてきた。

「あれ?帰るの?最終レースが今日一番の目玉レースだよ」

「そうなんですか?でも俺、もうお金がないので」

「1年に1度あるかないかの目玉レースだよ。もったいないよ。じゃあ、お金貸してあげるから勝負しなよ」

そう言われて、その気になった俺は女と一緒にさっきのレースの払い戻しに付き合い、その場で10万円借りた。この10万円が俺の人生を大きく変えることになるとは知らずに。


「どうして、あなたも歩いているんです?お金はあるでしょ?タクシーに乗ればいいじゃないですか」

「お金ないもん」

「11レースの払戻金はどうしたんですか?」

「全部12レースに突っ込んだ」

「60万円全部ですか?」

「財布に入っていた2万3千円も合わせて全部」

「そんなに自信あったんですか?」

「だって、聞いてよ。私の名前は清水千秋でしょ?」

「でしょうって、言われても、今初めて名前を聞きました」

「あ、そうか。まだ自己紹介してなかったね。清水千秋、27歳、独身でーす。ちなみに小さな会社を経営してまーす」

「社長さんなんですか?俺は小島雄太といいます。25歳、現在無職です。独身ですが、無職のため彼女募集も中断中です」

「働いてないのに、競馬なんかやってるの?」

「先月までは働いてたんです。事情があって辞めて、今充電中です。それより、さっきの続き教えて下さいよ」

「そうか、私の名前は清水千秋でしょ、そして、あの馬の名前が『チアキショーブ』だよ。しかも今まで乗っていた田辺騎手が落馬負傷のため乗り替りで清水騎手!こんな偶然がある?清水が乗るんだから、千秋勝負しな!って言っているようなものでしょ?」

「・・・・」

「しかも、チアキショーブの馬番は3番、12レースの3番だよ。今日は何日?」

「今日は12月3日です」

「でしょう?しかも12月3日は私の誕生日。これは行くしかないでしょ」

「それで60万円突っ込んだんですか?」

「62万3千円」

「ちなみに聞きますけど、11レースに買った馬と心と心が通じ合ったって、言ってましたけど、どんな感じで通じ合ったんですか?」

「あの馬はね、パドックでフケていたの」

※フケとは競馬用語で馬が発情していることをいいます。

「フケていた?」

「そう、たぶん前を歩いていた馬がメス馬だったんでしょうね。そのお尻に興奮したんじゃない?それが立派なものをお持ちだったのよ、あの馬。惚れ惚れしたね。こりゃあ、この馬を買うしかない!って思うじゃない」

俺はあきれて、何も言えなかった。こんな女に乗せられて俺は10万円を借りたのかと思うと、情けなくなってきた。

「あのー、確認のために聞きますけど、借りた10万円は返さなければいけないですよね?」

「当たり前じゃない。ギャンブルの貸し借りはちゃんと清算するのが人の道です」

なんか、詐欺にあったような気分だが、本人も60万円負けているわけだし、責める気にもなれなかった。

「あ、コンビニがある。ちょっと寄っていくから待って」

コンビニって、お金持ってなかたんじゃ?と思っていたらATMに駆け寄ってお金を引き出している。

「コンビニなら競馬場にもあったじゃないですか」

「うそ?競馬場にコンビニあったんだ?私、馬しか見てなかったから、知らなかった。それに私のカードは特殊なカードだから、使えなかったかもしれない」

しかし、千秋さんが入ったコンビニは、競馬場にあったコンビニと同じコンビニだった。特殊なカードといっていたのは、海外の口座から引き出すクレジットカードみたいなカードだった。聞くと、お金はすべて海外の口座に預金し、買い物はクレジットカードで海外口座から引き落し、現金が必要な場合は対応しているATMで日本円で引き出せる仕組みらしい。外国人旅行客が使用している仕組みと同じだ。

「一体何の仕事をしているのですか?」

「海外の企業向けの投資会社」

「それが小さな会社ですか?」

「小さいよ。社員は私だけだから」

「一人でやっているということですか?」

「そういうこと。それより、タクシーに乗るよ」

そう言って、千秋さんは手をあげてタクシーを止めた。


タクシーに乗った千秋さんは、俺の家の場所も聞かずに、運転手に「六本木」と告げた。俺のマンションは恵比寿なので、六本木なら近い。しかし、府中から六本木までタクシー代はいくらかかるのだろう?本当に社長さんなんだと思った。

千秋さんはタクシーの中で俺に色々聞いてきた。出身はどこなのか?今まで何の仕事をしていたのか?大学は出ているのか?何で仕事をやめたのか?

俺は、10万円借りている弱みと、タクシーに乗せてもらっている引け目から、素直に答えた。

俺は仙台出身で、東京の大学に行くため上京した。外国語学部で専攻は英語だった。さほど大きくない商社に入社したが、パワハラとまではいかないが、先輩との人間関係でうまくいかず、先月退職した。

「雄太くんは、英語ができるんだ?」

「まあ、それなりには。商社では私の担当はフィリピンでしたけどね。フィリピンも英語で通じますから」

「ふーん、そうなんだ」

千秋さんはタクシーの中で電話をし、どこかお店を2名で予約していたようだ。誰かと待ち合わせているのだろう。タクシーは六本木のシティーホテルの前で止まった。

俺は千秋さんに「じゃあ、俺はこれで」と言って行こうとすると、千秋さんが

「何言ってんのよ。雄太くんもくるんだよ」

と言って、俺の腕を引っ張ってホテルの中に進んだ。

「でも、俺お金持ってないですし・・・」

「知っているよ、そんなことは。いいから来なさい」

連れられて、そのホテルのレストランに入った。こんな店に入るのは初めてだ。

千秋さんは、勝手にワインと料理を注文した。2つのグラスにワインが注がれて、おずおずとグラスを持ち上げると、千秋さんが俺をじっと見て言った。

「ワイン飲む前に、私に何か言うことあるんじゃないの?」

俺はあわてて、

「ああ、えーと、今日はこんな店に連れてきて頂いて、ありがとうございます」

「それから?」

「えーと、お借りした10万円は必ずお返しします」

「違う!そんなことじゃなくて、もっと言うことがあるでしょ!」

俺は何を言えばいいのか、さっぱりわからず、黙ったまま許しを乞うように、千秋さんの顔を見た。

「今日は私の誕生日っていったでしょ?」

そういえば、12レースの3番は自分の誕生日って言っていた。

「そうか、今日は誕生日でしたね。お誕生日おめでとうございます」

そういうと千秋さんはニコッと笑って

「ありがとう。こんな食事までご馳走して頂いて、今日は良い誕生日になったわ」

「ここ、俺の支払いですか?俺お金持ってないって言いましたよね?」

「大丈夫。私が立て替えておくから、10万円に加えて返してもらえばいいわ」

「そんなあ」

「だって、誕生日に自分でお金出すのは悲しいでしょ?」

「でも、俺今は無職ですから、いつ返せるかわかりませんよ」

「それなら大丈夫よ。良い仕事を紹介してあげるから」

「良い仕事って?」

「私の会社で働きなさい」

「千秋さんの会社ですか?」

「そう。英語が話せる社員が欲しかったの。ちょうどよかったわ」

「ちょっと考えさせて下さい」

「あら、雄太くんに考える余地があったかしら?この話を断ったら、いつ借金を返すつもりなの?」


食事が終わって、とりあえず仕事内容を教えるからと、千秋さんの事務所兼自宅へ向かうことになった。食事代はいくらだったの?と聞くと、領収書を見せてくれた。そこには55,000円と書かれていた。つまり、俺の借金は155,000円になったということだ。競馬での借金にしろ、この食事代の借金にしろ、詐欺にあったようなものだが、それでも千秋さんを憎めないのは、千秋さんの容姿が女優の新木優子に似た美人のせいだろう。俺の好みにドストライクだった。


事務所兼自宅のマンションはホテルから歩いてほどない場所にあった。とても高級そうなマンションの12階だった。間取りは3LDKで、20畳はあるかと思われるリビングの半分が仕事場のようで、デスクと応接セットが置かれている。ベランダ側の窓は全面ガラスで、六本木の夜景が綺麗だった。

一通りの仕事内容を聞いたが、思っていた以上に大きなお金が動く仕事だった。海外の企業に億単位のお金を投資している。資金源は日本の金持からお金を引っ張っているらしい。かなりギャンブル性の強い仕事だった。関わるのはヤバイのではないかと思えた。

「どう、良い仕事でしょ?」

「どうして、そんなお金持ちと繋がりがあるんですか?」

「私、数年前まで六本木のクラブで働いていたの。その時のお客さんから、この仕事を持ち掛けられたの。最初はそのお客さんのお金を回しているだけだったんだけど、他のお客さんに声かけたら俺もやりたいっていう人がどんどん増えて、いまではかなりの額のお金が集まるようになったんだ」

俺は、その説明を聞きながら、六本木のお客さんって、どういった世界の人なのだろう?と考えた。ヤバイ世界の人もいるのではと心配になった。しかし、じっと千秋さんの顔を見ていると、その魅力に惹きつけられている自分がいることを自覚した。この話を断ったら、もう千秋さんに会えないかもしれないと思うと、断ってしまうのが躊躇われた。

「雄太くん、迷ってる?そしたら、賭けをしよう」

「賭けですか?」

千秋さんはサッカー中継を映し出しているテレビを指差して、

「今やっているサッカー、次にどっちのチームが点を入れるか賭けよう。私が勝ったら雄太くんは私の会社を手伝う、雄太くんが勝ったら借金はなしにしてあげるよ」

「俺が勝ったら155,000円はチャラということですか?」

「そういうこと。悪い賭けではないでしょ?」

「もし、このまま両チーム無得点に終わったらどうするんですか?」

「そのときは、別の賭けを考えることにしましょう。どうする?どっちのチームに賭ける?」

俺は最近調子の良い大阪のチームに賭けた。そして千秋さんは必然的に相手の静岡のチームに賭けることになる。

賭けが始まって10分もしないうちに、静岡のチームのディフェンダーがファールをしてPKになった。勝った!これで借金はなくなった。俺はそう確信した。しかし、その1分後、信じられないことが起こった。静岡のチームのキーパーはPKをファインセーブし、そのこぼれ球をディフェンダーが大きく蹴り出した。前に残っていたフォワードの選手は俊足を飛ばし、一気にゴール前に。俺が「うそ!やめて!」と叫んだ直後、ボールはゴールネットを揺らした。こんなことってあるのか?俺は信じられなかった。サッカーの展開もそうだけど、千秋さんのギャンブル運は本物かもしれないと思った。


千秋さんの会社の仕事は、慣れてみると面白かった。最初は電話番みたいな仕事で、海外からかかってくる電話に「今社長は電話中なので、あとで折り返します」といった内容を英語でしゃべるだけだったが、すぐに、投資先の会社に3年前の財務の資料をメールしてくれとか、契約書をメールしたので確認してほしいといった、簡単な電話もするようになった。そして、3ヶ月経った今では少額の投資先であれば、俺が担当を任されるようになった。


昼食と夕飯はすべて千秋さんがお金を出してくれた。お昼はデリバリーで頼むことが多いが、近くの店にテイクアウトを取りにいくこともある。そんな時はどちらが取りに行くか賭けをした。夕飯は自炊をすることが多く、どちらが作るか、買い出しはどちらが行くか、賭けをした。賭けといっても簡単なゲームで、テレビをつけて最初に映る人物は男か女か。サイコロを転がして、その数字は3以下の数字か、4以上の数字か。ちょっと凝ったものだと、その日の地方競馬の直近に終わったレースの馬連の配当は1000円より多いか少ないか、など、ありとあらゆるものを賭けの対象にした。そして、賭けはことごとく千秋さんが勝った。毎日のように賭けをしているのに、俺はいままでに3回しか勝ったことがない。

海外相手の仕事なので、仕事は夜遅くまで続くことが多かった。必然的に最終電車がなくなり、千秋さんのマンションに泊まることが増えてきた。最初はリビングのソファーで寝ていたが、そのうち千秋さんは3つある部屋のうち、ひとつの部屋を片づけて、そこに俺専用のベッドを置いてくれた。仕事が終わり、プライベート時間になると、千秋さんはシャワーを浴びパジャマに着替える。その姿に俺はドキッとする。そんな姿を見られるのはうれしい反面、禁欲を強いられている拷問のようにも感じる。

「もうマンション引き払って、ここに住んだら?」

ある日、千秋さんは気楽に言った。

「一応、男と女ですから、そういうわけにはいかないですよ」

「あら、私を女として意識してくれてるんだ?」

「当然ですよ。千秋さんの風呂上りの姿なんか、いまだにドキドキするんですから」

「ふーん、そうなんだ」

千秋さんは、何故か微妙な反応を示した。


それから、終電を逃す日がやたらと増えた。終電時間が近づくと、大した用事でもないのに千秋さんは「これ今やっといて」と言って帰らそうとしないとか、明日でも良い仕事を「明日は忙しくなるかもしれないから、今日のうちに片づけてしまおう」と言って、わざと遅くまで俺を引っ張っているように感じた。

そうやって、俺が泊まる時は、千秋さんはプライベート時間も大胆になってきた。浴室からパジャマを着ず、バスタオルを巻いただけで出てくることもあるし、パジャマではなく、短パンとタンクトップのシャツでいるときもある。ひょっとして、俺を誘っているのだろうか?それとも、前に風呂上りの姿を見てドキドキすると言ったので、俺をからかって、欲情する俺の姿を見て楽しんでいるのだろうか。


その日の千秋さんの格好は、短パンにTシャツ1枚だった。しかもノーブラのようで、胸の突起がポツンとTシャツを盛り上げている。

「千秋さん、さすがに、そういう格好はやめてもらえませんか?」

「何が?」

「せめてブラぐらいして下さいよ」

「あら、ノーブラだというの、分かった?」

「わかりますよ。俺も男ですから、そんな格好されると我慢できませんよ」

「それは、男だから、相手が誰であろうと、こんな格好したら我慢できないという意味なのかな?それともこんな格好をしているのが私だから我慢できないってことかな?」

俺は一瞬、返事に窮した。ほとんどの男の本音の回答は前者だろう。しかし、俺は男の本能として目の前の女性に欲情しているのか?いや、今の俺は間違いなく千秋さんに欲情している。他の女性でも、こんな格好をされたら欲情するだろうが、今は千秋さんだからこそ求めていると、はっきり断言できた。

「当然、千秋さんだからです。俺、千秋さんのことが好きです。好きな女性に、目の前でそんな格好をされたら、我慢できないに決まってるじゃないですか」

「そうかあ、ありがとう。うれしいよ」

お!なんか脈ありな気がしてきた。

「だったら、」

「ちょっと待って!」

千秋さんは、今にも飛び掛ろうとする俺を手で制した。

「さすがに、これは私にとっても重大なことだから、ここは賭けをしよう」

「賭けですか?」

「賭けで、雄太くんが勝ったら、私はあなたとしてあげる」

俺は思わず生唾を飲んだ。

「でも、雄太くんが負けたら、1回だけ私の言うことをきく。どう?これで?」

「言うことをきくって、何をするんですか?」

「それは今は言えないよ。さあ、どうする?嫌ならやめるけど」

俺は今までの賭けでは惨敗だった。どう考えても勝てる気がしない。負けたときは、何をやらされるのだろう。でも、ここは勝負だ!惨敗続きでも3回は勝ったことがある。この勝負で4回目がくる可能性だってある。

「わかりました。勝負しましょう。それで賭けは何をやります?」

「お!男だね。そうこなくっちゃ。じゃあ、トランプでやろう」

ルールは、シャッフルしたトランプカードから、それぞれ3枚のカードを選ぶ。そして、その数字の合計が大きい方が勝ちだ。ジャックは11、クイーンは12、キングは13、そしてA(エース)は15で計算することにした。

「じゃあ、俺から引きますよ」

まず俺が引いたカードは8だった。次に千秋さんが引いたカードは6。2枚目の俺のカードは9、千秋さんは10だった。そして最後の1枚、俺はキングを引き当てた。これで俺は合計30。千秋さんは現在16なので、Aを引き当てない限り俺の勝ちだ。俺の下半身はすでに興奮してきた。そして、千秋さんが最後の1枚を引いた。それはハートのAだった。

「はーい!私の勝ち!」

俺はうなだれて、何も言えなかった。悔しくて、残念で、まるで失恋したような気分だった。目には涙さえにじんできた。

「そんなに私としたかったの?」

俺は下を向いたまま頷いた。

「でも、勝負は勝負だから、仕方ないね。じゃあ、私の言うことを聞いてもらおうかな」

俺は、もう投げやりだった。好きなようにしてくれという気分だった。

「まず、自分の部屋に行って、ベッドにあお向けで寝て下さいな」

俺は言われた通りにベッドに横になった。

「今から、私がいいって言うまで、絶対に動かないこと。わかった?」

「俺、痛いのや、くすぐったいのは苦手なんですけど」

「だめだよ。あなたは負けたんだから」

千秋さんはそう言って、ベッドにのぼり、俺のお腹の上に反対向きにまたがった。俺には千秋さんの背中しか見えない。

「千秋さん、お腹が苦しいです」

「我慢しなさい」

千秋さんは、そう言ってから、いきなり俺のズボンのベルトを外しだした。

「千秋さん、何をするんですか?」

「いいから、黙って!」

それからのことは、俺のとっては夢心地の世界だった。千秋さんは、さんざん俺の下半身をもてあそんだあと、立ち上がり、部屋の明りを消した。そのあと衣擦れの音がしたかと思うと、今度は俺の方を向いてまたがってきた。千秋さんは繋がったまま体を倒し、俺にキスしてきた。


「どう?賭けに負けた感想は」

汗だくになった千秋さんは、息を整えながらきいた。

「最高の気分です」

「ずっと前から誘っていたのに、雄太くん、全然手を出してこないから、私に興味ないのかと思った」

「誘っていたのですか?からかって俺の反応を楽しんでいるのかと思っていました。でも、誘っていたのなら、何でわざわざ賭けをしたのですか?」

「まあ、照れ隠しだね。それと、攻めるのもやってみたかった」

「千秋さんは、本当に賭けが好きですね」

「人生はギャンブルだよ。そう思って生きていかないと辛いことたくさんあるじゃない」

「たとえば?」

「学生時代であれば進学だったり、就職だったり、後になって後悔することって、あるでしょ?社会に出てからも、人生の岐路に立たされることだって、いくらでもある。それで、大概の人は自分の選択に後悔する。でも後悔しても取り返しはつかないのだから、すべてギャンブルだって思えばいいじゃない。賭けに負けたのなら仕方ないって、割り切れるでしょ?」

「なるほどね。競馬に負けて悔しいのは一時ですもんね」

「そう。自分で勝負を挑んだのだから、その結果は潔く認めないと。ねえ、人生のギャンブルに必ず勝つ方法って知ってる?」

「そんな方法があるんですか?」

「それは勝つまでチャレンジし続けること。1回負けても、次に勝てばいい。10回負けても次に勝てば取り返せる。そうやって、人生が終わる最後に勝てば、それまでの負けはチャラになるんだよ」

「なるほど、まさに、人生はギャンブルそのものですね。」

「そしたら、千秋さん、人生最大のギャンブルにチャレンジしてみる気ありませんか?」

「人生最大のギャンブル?何それ?」

「俺と結婚しましょう」

「雄太くんと結婚することがギャンブル?」

「そうです。結婚は赤の他人が一緒に人生を歩むんですよ。うまく行くかどうかなんて、誰もわからないじゃないですか?こんなギャンブルはありませんよ」

「なるほど。それで、その賭けの結果はいつわかるの?」

「お互いの人生が終わるときです」

「そうか、自分の人生が終わるときに、この賭けに勝ったのか、負けたのかわかるのか」

「そうです。どうですか?このギャンブル、のりませんか?」

「そんな人生最大のギャンブルを突きつけられて、引き下がるわけにはいかないかな」

「じゃあ、いいんですね?」

「でも、私としては、そんな形ではなくて、ちゃんとプロポーズして欲しかったな」

「じゃあ、あらためて。千秋さん、俺と結婚して下さい。この勝負、必ず勝たせますから」

「私を誰だと思ってるの?私はいつでも勝ち馬よ。私の方が雄太くんを幸せにして、この勝負、勝たせてあげるに決まってるじゃない。仕方ないから、雄太くんを勝たせるために結婚してあげる」

「やったー!じゃあ、俺は勝ち馬に乗ろうかな」

「え?え?なに?」

今度は俺が上になって千秋さんに覆いかぶさった。

「勝ち馬に乗るって、こういうこと?・・・」



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